徒然なる追憶の枝葉

徒然なる追憶の枝葉

Apr 5, 2009
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カテゴリ: 小説
3. Border of Phantasm



 この周囲の静けさは、騒々しい都会では中々味わえない。
「今何時だ? 先に言っておくが秒単位まで言わなくていいぞ」
「11時23分56秒」
「……」
 真っ暗な山道を歩いていく。暗くて時計が良く見えないが、幸い空は晴れていて、満点の星空となっているので、時間を知りたかったら蓮子に尋ねるのが一番いい。
 もう旅館を出発してから十数分は歩いただろうか。山道が途中でいくつもに分かれていたせいで、既に俺は現在地がどこなのか、どっちが北なのか、全く分からなくなっていた。が、前を歩いている蓮子はその能力のおかげで、正確に把握しているのだろう。こんな山の中を、真夜中に懐中電灯すらなしで女の子が平然と歩くことができるのにも、そういう理由があった。ある意味、こういった探索活動に向いた能力ともいえる。
 それから更に数分歩いていくと、再び道の分岐点があった。二つに道が割れていて、暗くてよく見えないが、一方はそれまでの道のように、明確に輪立が確認できた――つまり、最近も人が出入りしているのだ。だが、もう一方にはそれがない。雑草が無造作に全面に生え渡っていて、道だと認識することにすら少しの時間を要した。廃道なのだろう。しかし、蓮子の興味はそちらに向いていた。携帯の画面に映る、現在地の航空写真とその道を熱心に見比べている。そしてしばらくすると、俺のほうへ振り向いた。
「たぶんこっちの道ね」

「あら、私なんてスカートだけど?」
 そういって蓮子はずかずかと廃道に入り込んでいった。華奢なくせに、つくづく無神経な女だ。これだから憎めない。
 俺は慌てて蓮子に付いて行く。
 雑草地帯を抜けるのに、更に5分ほどかかった。突然草の類が消えたので、視線を遠くにやると、道が左に緩めのカーブを描きながら下っていくのが見える。更にその先は割と急な斜面が聳えていたが、いかんせん暗かったので、それが目の前の山の斜面だと認識するのに、しばらく時間がかかった。この廃道は、その山に続いているようだ。
 そこで初めて実感として感じ取ることが出来た。一定以降の景色の性質、気が、今自分たちのいる場所とは明らかに違う。まるで巨大な垂直のシールドに隔てられているように。
 結界は近いのだ。
 そう思うと、急に境界の場所を意識せざるを得なくなった――つまり、視線の先の場所の気と、今自分のいる場所の気を比較してしまうのだ。お互いが合致していれば、前者はまだ結界のこちら側で、していなければ、また然りである。まあそんなことを確認しなくても、結界の直前になれば、すぐに分かるのだが。
「あった。結界」
「ほんと?」蓮子が足を止め、俺のほうへと振り返った。そして、自分も何か感ずるものはないかと見回す。「本当に何も感じないんだけど。その能力、本当に本当なの?」
「今更だな」突っ立っている蓮子を追い抜かして、今度はこっちが先頭になった。「そうやって訝しがられるのが俺たちの運命だがさ」
「まあねー。でも現在地と時刻の確認なんて科学技術でどうにでもなる。貴方の能力はそうはいかないわ。今の時代にそんな能力を持った人間が、少しはうらやましい」

 本当にもう永い間人が入っていないようで、周辺には、人工的なものはほとんど皆無に等しい。たまに脇に道路標識が立っていたりするが、標識を掲げる鉄棒が何箇所も折れていたり、朽ちていたり……よく見たら、標識の文字は右から書いてある!
 歩を進めるたびに、結界が近くなっていくことが感じられる。ここからは自然と早足で進んでいく。いつもは蓮子の後をだらだらとついていくだけだったが、今回ばかりは、そうする気がしなかった。たぶん、今回の探索対象が普段と比べて異質すぎるせいだろう。蓮子と霊能活動を続けてきて、活動内容に純粋に惹かれたのは、これが初めてだった。
 異質は異質だが、異質の何が魅力なのだろう。明確に答えが出せないまま、結界の反応に向かって行く。
 いつの間にか暗い林の中に入っていた。はっとして、後ろを振り向く。蓮子はいつもどおりにいた。蓮子の顔の先には、自分達の歩いてきた道が続いている。どうやら、さっき見えていた山の森に入ったようだった。道はまだ続いている……が、途中で、道が文字通り明確に――目には見えないが――分断されていた。切れ味のいいナイフでうっすらと、地面に切り込みを入れたような感覚。物理的に壁があるわけでもないのに、自分の能力が視覚に勝る勢いで反応して、それがあるかのようで、自分が何を見ているのか、よく分からなくなった。
「あったぞ」

 近づいていく。そして、結界の目の前に立った。





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Last updated  Apr 6, 2009 01:56:20 PM
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