逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

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『逃げる太陽 一年で一番長い日編』完結。 ↓こちらでまとめて読めます。 「一年で一番長い日 ~夏至の夜を、マンボウが往く~」
バツイチ子持ち何でも屋の、ぽやぽやとした日常を綴る『ある日の<俺>』は ほぼ毎日 たまに 連載中。
キリ番60000hitありがとうございます! キリ番ゲッター様 リクエスト話はもう少し元気になったら書けると思いま・・・す。キリ番は只今休止中。
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2025年11月27日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
「まあ、とにかくそのドタバタのせいか、食欲無くて。夏バテってやつなのかなと思ってるんだけど……」
先々週のことなのに、まだ体調が戻らないんです、と溜息を吐く。
「野島さん、それって、実は熱中症かもしれませんよ。そのときは大丈夫でも、後から症状が出ることがあるみたいなんです。じわじわと蝕まれるというか──」
三年殺し的な? とちょっと笑いかけて、野島さんはハッとした顔になった。
「……あー、でも、そうかも。それ以外に、ここまでバテるようなことした覚えないな……」
「いつもならこれくらい、ってことでも、体調によっては深刻なダメージになって返ってくることがあるらしいですよ。寝不足とか、深酒とか、不規則な食事とか」
「……」
野島さん、俺の顔を見たままぎこちなく動きを止めた。
「野島さん?」
「ヤバい……僕、全部当てはまるかも」
夜中にホラー映画を観るのにはまって、軽い寝不足と夜遅くまでの飲酒、朝食抜きで昼はラーメン、夜はコンビニのホットスナックに菓子パン──。
「ここんところは……怠くて映画観る気にもなれないけど、あの日までは確かにそんな生活を……」
あはは、と、乾いた笑みをもらす野島さん。あはは、と困った笑みをこぼす俺。
「な、夏はちょっとだけ控えたらいいんじゃないですか? 休みの前日だけにするとか。朝は食べましょうよ。お昼も定食とかにして。夜もそんな感じで」
「そ、そうですね。職場の健康診断、引っ掛かりかけてるし……」
あはは~、うふふ~、と分かってる者同士で笑い合う。うん、日常に疲れた独り暮らし、あるあるだよね! 俺も離婚直後は良くない生活習慣・食生活になってた。何でも屋の仕事始めたとき、こんなんじゃ身体壊すと自覚したから、今は健康的にやってるつもりさ。なにせ朝は五時起きだ。
「それにしても、何でも屋さん、熱中症に詳しいですね」
尊敬の目で見られたけど。
「いやまあその、職業柄ね?」
真夏の炎天下で草むしりとかデフォだし、と笑って誤魔化す。本当は、元義弟の智晴とか智晴とか智晴が熱中症アラート前のアラートを出してくるからさ……。娘のののかも、「パパ、今日は暑くなるんだって。帽子かぶってる? 水分もちゃんととってね」とショートメッセージ送ってくるし。
一回やっちゃってから俺も注意してるんだけど、こういうのは注意し過ぎてもし過ぎることはないとばかりに、<本当は怖い! 隠れ熱中症>とか、<脳だってタンパク質で出来ている! ~茹でた卵は元には戻らない~>とか、智晴のやつ定期的に送ってくるんだ。うん、ありがたいと思ってるよ!
「ですね。僕も、落としてもいないものを探さないでもいいように、もっと気をつけるようにしますよ。本当に落として、外這いずり回る羽目になるのもヤバいし」
でも、そこまでしてでも、探さないといけないものだってあるしなぁ、と野島さんは呟く。
「──大金落とした人、何でも屋さんに拾ってもらってよかったと思うよ。何でも屋さんたら、どうせその人の憔悴ぶりを見て、権利放棄したんじゃないですか? でも、わかるなぁ。そんなにボロボロになってる人を目の当りにしたら、権利の主張なんかやっぱりしにくいですよね。想像できますよ」
「あはは……惜しいといえば惜しいですけどね」
落とし物の価値の、五パーセントから二十パーセントだったっけ? 警察官だった弟から聞いたことがある。
百万円の二十パーセント──。
「でも、|そ《・》|れ《・》|は《・》|そ《・》|れ《・》、|こ《・》|れ《・》|は《・》|こ《・》|れ《・》。そういうことでしょ、何でも屋さん」
そう言って野島さんはお茶目に笑う。砂漠で水を求めてる人には、コップ一杯の水をまるまるあげたいですよね、とわかりやすく喩えてくれる。
「あはは。こちらも飲み水には困ってないしね。|そ《・》|れ《・》と|こ《・》|れ《・》が逆でもかまわないと思うんです」
どっちを取るか、決めるのは自分自身だ。後悔しないなら、どっちだっていいはず。
音のないざわめきが、風のように肌を撫でていく。
どこか遠い……暗い波の向こうから。
波は水でできていない。
重なり合う闇、寄せては引いて、
足元の砂は踏み出すたび、銀の光を散らす。
一歩、二歩、光がきれいで
はためく黒い靄は、波と触れ合ったところからほろほろと溶けてゆく
恐ろしいのに、どうしてか心惹かれる──
……
……
カタチを作って、作れず崩れて。
粘ついたタールのようなそれは、崩れては蠢き、地を這っている。
もどかしげに這いながら、伸び縮みを繰り返す。
こちらを見ている、何か言ってる。
俺はただそれを感じている。
だって身体が動かない。
あれは俺を呪ってる。
逃げなくちゃ、そう思うのに、
身体が動かない。声も出ない。
来るな! 来るな!
何故お前は俺を呪う?
お前のことなんか俺は知らない。
知らない──
ドスッと胸に衝撃があった。
とうとうアレに追いつかれたのかと絶望しかけたら。
「にゃー」
居候の三毛猫が鳴いた。いつの間にか俺の胸に乗っている。
「重いぞ……」
普通に声を出したつもりが、掠れてる。
「にゃあ」





つづく……。
紅葉が散ってしまいつつありますね。





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最終更新日  2025年11月27日 06時14分43秒
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