inatoraの投資日記

inatoraの投資日記

2004年10月20日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
数理ファイナンス学者が社会的に見て不要な存在であるということは、皮肉にも彼らが拠り所としている「効率的市場仮説」から言えることを前回の日記で説明しました。(ここでは、効率的市場仮説が正しいかどうかを議論するまでもなく、彼らは社会的存在価値がないというところが重要です。)

ところで、数理ファイナンスが新古典派経済学の流れを受けているというのは、数理ファイナンスが現実の世界とは無関係な「演繹的な論理展開」に終始しているということに他なりません。「演繹的な論理展開」とは「論理展開をするために必要な何らかの仮定(現実の世界とは無関係な仮定でもよい)を置いて、それを基に同値の結論を引き出すこと」という意味です。

まあ、数学の証明問題をやっているような状況を想像していただければ良いかと思います。例えば、「AならばBであることを証明せよ」という類の問題は中学や高校の数学の問題で出てきたかと思いますが、ここで問われているのは「命題Aが正しいと仮定した場合の命題Bの正しさ」であり、「現実の世界において命題Aが正しいか否か」ではないということです。論理学や数学で「AならばBである」というのは「命題Aは正しいと仮定せよ」という暗黙の前提があるのがポイントです。

例えば、「カラスは魚である。魚は水中を泳ぐ。よって、カラスは水中を泳ぐ。」という論理命題は正しいか?これは「正しい」のです。「カラスが魚であり、魚が水中で泳ぐ」ことを正しいと仮定しているので、「カラスが水中を泳ぐ」というのは正しいのです。

論理学や純粋数学の世界のように「現実の世界とは必ずしも無関係な閉じた世界での学問体系」ではこれで問題ないのですが、社会的実益を追求する学問領域では「カラスが魚であることは正しいか?」に関する検証作業が問われます。そうでなければ「ただの論理遊び」に終始しているだけです。

数理ファイナンス学者が罪深いのは、そうした「単なる論理遊び」を「現実の世界」に持ち込んでしまっていることです。すなわち、「まだ実証されていない仮説の段階に過ぎない」ことをあたかも「実証的裏づけがあるかのように」理論体系としてまとめていることが問題なのです。

現実と合致するかどうかが分かっていない仮定を使って理論体系を作り、それを現実の世界にさらすとすぐにボロが出るのは当然です。そして、すぐにボロがでるから後から取って付けたような説明しかできませんし、自分たちにとって都合の悪い証拠は見ようともしません。

そんな現実から逃げつづけていた数理ファイナンス学者たちですが、ついに数年前、彼らは言い訳も出来ないようなお間抜けなミスをやってしまいました。それはヘッジファンド「LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)」の設立です。これは、元ソロモン・ブラザーズの債券トレーダーであるジョン・メリウザーが音頭をとって立ち上げたものであり、「数理ファイナンスのモデルを使って高度な鞘取りをする」という謳い文句で立ち上がったファンドです。

このファンド設立には、広告塔としてマイロン・ショールズとロバート・マートンの2人が関わっています(いずれも、1997年にオプションの価格評価理論でノーベル経済学賞を受賞した数理ファイナンス学者です)。



効率的な市場では平均以上のリターンをとるためには平均以上のリスクをとらなければならないはずですから、LTCMは自ら「平均以上にリスクを取りに行くから、その分だけリターンを稼げますよ」という、およそ運用ビジネスでは考えられないような低レベルの説明をしているに他なりません。

そして、1998年の夏にこのファンドは破綻しました。破綻した理由は別の機会に述べたいと思いますが、そのときの数理ファイナンス学者達の反応がまた輪をかけてお間抜けだったのです。典型的には「LTCMは必要以上にリスクをとってしまったから破綻したのだ」というものです。そして、「数理ファイナンスを発展させて効果的なリスク管理が行われなければならない」と言うのです。

いやー、またもやってくれました。そのお間抜けぶりにあっぱれです。効率的な市場においては、全ての市場参加者が最適なリスク管理をしているはずですから「数理ファイナンスを使って人よりも優れたリスク管理が出来る」というのはおかしな話です。

馬鹿学者がついにボロを出した瞬間です。「数理ファイナンスを使って超過リターンを取るのは無理だけど優れたポートフォリオのリスク管理はできる」というよく分からない主張をしているのです。この馬鹿学者についてもっと良く知りたい方は以下の本などをご覧下さい。

(1)「金融工学の挑戦-テクノコマース化するビジネス」:今野 浩(著)、中公新書
(2)「金融工学 こんなに面白い」:野口 由紀雄、文春新書
(3)「金融工学とは何か-『リスク』から考える」:刈谷 武昭、

ちなみに、今野浩氏は中央大学(その前は東京工業大学)、刈谷武昭氏は明治大学(その前は京都大学)、野口由紀雄氏は青山学院大学(その前は東京大学)でそれぞれファイナンスの教授をしています。3人とも日本のファイナンス学会では有名な人たちだけにホントに笑えます。そして、「こんな馬鹿学者どもに貴重な金を使って印税など払いたくない!」という人は、図書館に行って探してみてください。それでもないときは?別に無理して読む必要はありません。

次回は最終回です。「日本のファイナンス学者のレベルとカモ学生について」です。

今日の言葉:
「一度嘘をついてしまうと、話の矛盾が起こらないようにするためにそれよりも大きな嘘をつかなければならず、しまいには取り返しのつかないことになる可能性がある。」





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2004年10月20日 17時36分23秒
コメント(9) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

キーワードサーチ

▼キーワード検索

お気に入りブログ

マークラインズ(3901… New! 征野三朗さん

伸ちゃんの投資日記 伸ちゃん4723さん
ビバどっさりw R-331Gさん
映画を見ながら昼夜… アルコール先生さん
元IT系リーマソのバ… ほっしー425さん
投資の余白に。。。 ペスカトーレ7さん
宮木京子の さらさ… 宮木 京子さん
不労所得ライフ tagayuさん
床屋の株 ひげ123さん

コメント新着

人間辛抱 @ Re:最後の日記(05/31) どうもお久しぶりです。 新型コロナウイル…
Prankster @ 気が向いたら また書いてください。RSSして待ってますき…
MEANING @ Re:まぁ、(05/31) そろそろ潮時じゃないでしょうか。 初心…
MEANING @ まぁ、 そのうち、初心に戻ってこのサイトに戻っ…
-こたはる- @ 新事業がんばって下さい!  最期の日記ということで、毎日このブロ…
宮木 京子 @ Re:最後の日記(05/31) 少し前から、メールマガジンを購読したり…
ぴよママ55 @ Re:最後の日記(05/31) 最近リンクさせていただいたばかりだった…
keepvalue @ お疲れ様でした。 稲虎さんのブログには本当に感心させられ…
inatora2 @ コメントありがとうございます まちけん.Jrさん ありがとうございます…
Mr.Ryu @ こういった考え方は 商人的な意識を持つと理解しやすいですね…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: