メールの恋ってやつですか!?

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只野一生

只野一生

2002.04.29
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 ゴールデンウィークになると、行楽地に出かける家族連れのために、やれお天気がどうだとか、電車や飛行機の予約がどうだとか、といったニュースがテレビや新聞で報じられる。

 この時期になって、主婦が沈みがちだ。原因はひとつ。ずっと子どもと会えないことにある。しかし、それで仕事が進まないのは困るし、そういう状態を作る夫は、私からすれば、自分の啖呵を守らずに仕事の妨害をするゆゆしき者である。

 私は、主婦に夫に連絡を取って話をつけるように命じた。そして、うまく話が進まないようなら夫から私に電話をするように伝えて欲しいと念を押した。主婦も、子どもの歯の治療その他で、連絡を取らなければならないことがあるという。

 まあ、これまでの経過から見て、その電話で即、話がうまい方向に進むとは私は思っていなかった。しかし、だからといって何もしなければ何も始まらない。こういう夫には、何よりも理詰めで逃げ道をふさぐしかない。それには、ねばり強い努力も必要である。

「何とかしなければ何ともならない」。これは、女優の岡田可愛さんにインタビューをしたときに言われたことだ。一見精神論だが、実は理にかなっている至言だ。

 夜の9時過ぎに主婦から電話がかかってきた。やはり、たいした話はできなかったようだ。
「夫は、『別れる』って……」
 私は、さして驚かなかった。「紙切れ一枚」なんて言う奴だ。軽々しく「離婚」だの「夫婦は終わった」だの言える奴なんだ。
「まあ、そう言うだろうね。そう言うことで、あんたが全面的に詫びることしか解決の道はないよ、ということにしたいわけだ。離婚そのものは本気じゃなくて、まだ様子を見てるんだろうな」

「全く何も変わっちゃいないね」
「ご期待にそえなくてすみません。夫には電話をするように言っておきました」
「するって言ってた?」
「ええ。気の小さい人なので、そういう約束は守ると思います」
「私は、あんたの代理人としてではなくて、私の意見として話をするからね」
「はい」

 その1時間後、夫から電話がかかってきた。相変わらず、びくびくしたような話し方で、明るく振る舞おうと不必要に笑っている。全く、どこまでもイライラする奴だ。

「メールの件ではご迷惑をおかけしました。いろいろ考えるとこありましてね。ちょっとインターネットの方は休んでみようかと思いまして。あなたも言ってたじゃないですか。モデムを壊せって。モデムは壊さないけど、ちゃんとやめましたよ」
「モデムを壊せ」は、こいつが文通を検閲したいというから、ふざけるなという主旨のメールを送ったときに私が書いたもの。3ヶ月近くも前の話だ。けっ、それで逆手にとったつもりか。
「まあ、それならそれでもいいでしょう。こっちも、だいぶ奇妙なメールをもらって嫌な思いをしましたからね」
 すると夫は、そんなこともありましたかねえ、というようにあしらうような笑い方をしてー

 このノー天気な一言で、私の堪忍袋は少しだけ裂けた。

「女房や子どものことを考えたら、そんなことは冗談でも言えないだろう」
「……」
 私の一言で、夫からはすぐにうすら笑いが消えた。
「仕事だって、自分の女房に成功して欲しくないわけがないって啖呵切ったのはあなただろう。忘れたとは言わせない。何しろメールなんだから。言った、言わないではごまかせない」

「だけど協力もないまま邪魔はする」
「……」
「彼女の姉たちに私を中傷しているんだろう?」
「……」
「なんで私が悪者にならなきゃいけないんだ?」
「……」
「こっちは、今でもガラスの2~3枚たたき割りたい怒りを抑えながら電話してるんだ」
「……」

 私が何を問うても無言のまま、受話器からは忙しくタバコを吸う音だけが聞こえてくる。。もう夜は10時過ぎだ。夫の母親も息子も寝ている。もしかしたら、夫は部屋の電気も消して電話しているかも知れない。

 私はこのとき、電話回線の向こうにいる夫の光景を思い浮かべていた。真っ暗な部屋で一人、ふるえながらタバコを吸う夫がいる。月明かりに照らされた相好は涙で光っている。寂しそうだ。

 しかし、夫よ、みんなお前のまいた種なんだ。ここで追及をやめるわけにはいかない。

「子どものことを考えたらどうなんだ」
「……」
「彼女の身内を巻き込むことで、彼女の肉親との関係に禍根が残るかも知れない。彼女の立場や胸中を忖度できないのか?」
「……」
「それとも、自分さえよければそれでいいのか?」
「……」
「あなたは兄弟がいないから、そういう配慮や情が理解できないんじゃないのか?」

 一人っ子だから情がない、とか非常識だとは毛頭思わない。しかし、イライラしていた私は、夫の沈黙を破りたくてちょっと煽った言い方をしてしまった。

 夫はここで何か言いかけたが、結局何も言わなかった。後から主婦に聞いたところによると、夫には異母兄弟はいるが、一緒に生活していたわけではないらしい。まあ、どちらにしても、主婦の姉妹仲に影響を与えるような迷惑をかけてはいけないし、そこに配慮できないのは人間としておかしい。

「とにかく理由を聞かせてもらいましょうか。彼女を団地に帰さない理由は?」
「……」
「黙ってないで、答えたらどうなんだ。そのことでこっちも迷惑してるんだぞ!」

 長い沈黙で、ついに私が声を荒げた。なんだかここまで来ると、ドラマに出てくる刑事の取り調べシーンのようだ。ようやく夫はボソボソッとー
「……それは……、私の母親に、許せないことを言ったからです」
 と返事をした。
「ほう、それは初耳だね。今までさんざんメールやその他、やりとりしていろいろな経過があったけど、そんな話はただの一度も出てこなかったじゃないか。彼女からもそんな話をされたことはないぞ」
「……彼女は言った側だから、黙っているのでしょう」
「で、なんて言ったの?」
「いえ、それは夫婦の問題ですし。……今は言えません」
「いつ言うの?」
「いずれ、時が来たら」
 夫は、「夫婦の問題」に逃げ込めて安心したのか、少し余裕をもった。そんなことで持ち直されるのもシャクなので、私は核心部分に触れた。
「しかしねえ、どっちにしても、じゃあ、どうするんだって問題はあるでしょう。このまま息子から母親を奪ってしまうのか? あなたの母親はあなたの息子の母親ではないんだ。こう言っては何だが、あなたの母親だっていつまでも孫に責任を持てるわけではあるまい。そういうことも考えているのかな?」
「そうなったら、私と息子で暮らします。男2人、気楽なもんです」
 こいつ、何を寝言いってんだ。
 まあいい、そういう了見なら、ちょっと脅かしてやろうじゃないか。
「そうですか。彼女と別れて、子どもはあなたが引き取るということだね」
「そうですね」
「しかしねえ、あなたに子どもが育てられるかな。あなたは幼稚園の月謝も渋ったそうだが、今は教育に金も手間もかける時代だ。いい塾がどこか、いつも情報収集のアンテナを張り巡らせ、ときには自ら勉強も見てやらなければならない。
 学校にはいじめだってある。あなたの子どもじゃあ、どうせいじめられっ子だろう。そうなったらどうする。親として、学校に対して、相手の親や子どもに対して、そして何より息子に対してどう向き合っていくつもりだ。
 もちろん、日々の健康に気を配るのは基本だ。女房の姉だって自分の家庭があるんだ。そもそも離婚したら親戚でも何でもなくなっちまうんだから頼れないんだぞ。そのへんはいったいどう考えるんだ?」

 それに対して、夫は何と答えたか。
「……じゃあ、やっぱり息子は女房が育てた方がいいですね」

 しょえーっ!
 少しは意地を見せろよ(笑)
 いつも逃げてばかりの夫だったが、ちょっと起こりうる話をしただけで我が子の子育てからも逃げてしまうとは……。なんて小心……、というか無責任な人なんだろう。

 私は、ここで「言質を取った」という態度をとらず、その件も含めて、この先のことをよく夫婦で話し合うように夫に言って電話を切った。ここで私が「お前が『女房が育てた方がいい』と言ったんだ」と責めて、子どもを取り上げれば主婦の鬱は解決するかも知れないが、私がそこまでするのはいかがなものか。これは夫婦の問題であるし、やはり夫婦で話し合えばいいと思った。

 彼女に電話の内容を伝えたが、彼女は呆れ、珍しく怒りをあらわにしていた。
「仕事を自宅に持ち込んで欲しくないからアパートを借りる、という話から始まったのに、いつのまにか『鬼嫁』になってしまっているわけね。理屈と膏薬は後からいくらでもつけられるっていうのは本当だわ。だって、そのことを言われたことがないし、身に覚えがないもの。本人にはっきり言わないで、『それが原因だ』と言ったって不毛でしょう。まあ、デッチアゲなんでしょうけどね」

 デッチアゲならもちろん、そうでなくても、この嫁姑の不仲の責任は夫によるところが大きいのではないかと私は改めて思った。こいつ、どうしようもない奴だ。





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Last updated  2003.03.12 05:26:27


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