メールの恋ってやつですか!?

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只野一生

只野一生

2002.06.07
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カテゴリ: カテゴリ未分類
誰がどこから見ても、無意味で有害で非常識なマッサージ師の電話。しかし、言うべきことだけは言っておこうと思い、ばかげた反応をこらえながら私はひとつひとつ噛んで含めるように話した。

 それは、このようなことだ。夫婦間には、姑への対応という、たとえ身内といえども、よその家の人間が知ったかぶって指図すべきものではないデリケートな問題があること。主婦は疎外感もあって仕事をしたいという気持ちが高まっているのに、話し合いもせずに仕事を妨害する夫の態度は解決に資さないこと。そればかりか、私に対する迷惑と損害を招くものであること。姉やマッサージ師が干渉することは、主婦を苦しめるだけであること。夫の案に相違して、夫さえ邪魔しなければ仕事はメドが立っていること。そして、いちばんの被害者は私であること。

 この酔っぱらいがちゃんと聞くかって?
 電話の会話を録音すると断っていたし、何より、この男は「酒に飲まれた自分」を作らないと相手と対せないだけで、本当に酒に飲まれているわけではないと私は判断していた。ちゃんと意図も自覚もしっかりしている。要するに、こいつの気の小ささは夫以上なのだろう。

 さすがに、2時間近くかけた私の辛抱強い話で、マッサージ師の酔いも若干さめてきたようである。こんなに長い時間まともに話し相手をしてくれた人は初めてだなどと言って機嫌がよくなっていた。

 けっ、かわいそうに。やはりこいつは、普段は誰にも相手にされていない、つまはじき野郎だったんだな。

 私は、こいつの考えを念のために聞いておこうと、結論を問うた。
「今まで言ったように、私は今回トバッチリを食っている立場なんだが、あなたは、今後、いったい私にどうしてろと言いたいんだい?」

 こいつは、終始、訳もわからずわめいていただけだから、自分が問われると必ず一瞬黙る。このときもちょっと間があってから、こんなことをぬかしやがった。

 おい、ふざけんなよ、マッサージ。
「そんなに面倒を見させたかったら、まずあなたが邪魔しないって約束してもらいたいものだね」
 すると、このつまはじき野郎は、
「それはアナタ次第だよ」などともったいぶっていた。
 なんなんだか。
 結局、二度と邪魔はしないという確約はとれずじまいだった。

 マッサージ師との電話が終わると、私はすぐに主婦に電話をし、その経過を話した。
「マッサージ師は、ただ悪のりしているだけの邪魔者だな。今後、二度とこの問題では出てこないで欲しいね」
「ごめんなさい。私の方からも、一切事情も話さないようにするから。姉とも距離をおくわ」
「で、夫はどうした」
「だめ、ポケットベルも電話も何度かけてもつながらない。電話は話し中にされているし」

「夫はな、単純なマッサージ師が電話してくれるのを見越して、わざと『相談』したんだよ。だから、今晩の展開もわかっているから電話にも出ないんだ」
「マッサージ師に、こっちを脅かしてもらうっていうこと?」
「だろうな。といっても、自分から『かけてくれ』とは言わない。涙を流して訴えて、マッサージ師の義憤を煽り、マッサージ師が自主的にかけるように仕向けたんだ」
「そんなことまでするとは……」
「マッサージ師にかけさせれば、その非常識はかけた本人であるマッサージ師にあり、自分には責任がない思ってるんだろうな。ある意味、今回はマッサージ師も夫にハメられた被害者かもしれないね」

「あんたの夫は、たんなる小心者ではないな。前向きな知恵も教養もないくせに、そういう計算だけははたらくきたない奴だ。男として、人間としていちばん許せないタイプだな」

 この後、暫し沈黙があった。
 私が沈黙したのは、マッサージ師のくだらない電話を止めなかった、主婦の姉に対する怒りを抑えることができなかったことがある。

 このままでは、姉への罵詈雑言をぶつけないと気が済まない。しかし、今はそいつの妹と話をしているのだ。まてよ、そうだ。そもそもこいつが元凶じゃないか。

 そんな思いから、主婦に対して優しい言葉をかける気にはなれず、さりとてののしることもできず、どう対応していいか迷っていたのである。

 一方、主婦は、さすがに私に迷惑をかけっぱなしで、このままではまずいと考え、ある対応を提案しようかどうしようか、迷っていた。

「あの、いったん切って、母親に電話していいかな?」
 主婦が沈黙を破った。
「いいけど、なんだい、こんなに遅く」
「あの、しばらく、このアパートを離れて、母親のところに身を寄せようかと思うの」
 さすがに私にとっても意外な提案だった。
「仕事を諦めるのか?」
「そうじゃないのよ。つまり、あなたと行動をともにしていると、あなたにとって不利だと思うのね」
「というと?」
「たしかに今回は、もともと夫婦の問題はあるんだけど、あなたにとっては、すでに始まっている仕事の問題もあるわけよね。たとえば、夫に邪魔されて仕事に支障が出れば、損害賠償とかの問題も出てくる場合もあると思うんだけど、それは夫婦の問題とは別に、あなたと夫の問題になるわけよね」
「ああ」
「でもね、あなたが私と行動をともにしていると、その部分が見えにくくなって、夫婦の問題で私に有利に働くように、あなたが脅かしでそういうイチャモンをつけているように見られてしまうと思うの。だから、マッサージ師も、あなたに対して何の権利もないのに干渉してくるのは、あなたと夫との問題という視点が希薄で、あくまでもたんなる夫婦の問題という意識しかないと思う」
 けだし、その通りである。
「なるほどね。もちろん、あんたを助ける駆け引きに使うという気持ちは否定しないよ。ただ、仕事を邪魔されたために損害が生じるようなことがあれば、それはそれとして、夫にはきちんと賠償を求めていくことにはなるね。私の中傷をしているならそのことも含めてな」
 主婦は、ええ、と頷きながらー
「夫は、今までにも私に協力するようなことを言いながら邪魔してきたわけだから、同じ状態でズルズルいっても、今後もたぶん改善は期待できないでしょう?」
「う~む」
「私が母親の所にいったん身を寄せて、二人が分離した形で、それぞれきちんと交渉して話をつけておいた方がいいと私は思うの」

 交渉の道筋としては正論かもしれない。しかし、問題は、我々の仕事がすでに始まっている、ということである。

 主婦の母親の住居は東京の郊外である町田のはずれにあった。彼女の現在のアパートまで二時間かかる。外注とのミーティングは確実に支障をきたすだろう。また、彼女の母親もマッサージを自宅兼治療院として開業しており、彼女がパソコンを設置できるスペースはなかった。

「でもな。例のトレースの仕事が二三〇万、カーナビの取扱説明書の仕事が四〇万、今月から始まったモバイル雑誌の連載だってあるんだぞ。今、あんたが仕事場のアパートを離れたら、仕事は確実に滞る。それできちんと約束の期日に納品できなくなったらどうするんだ。夫に対して、本当に損害賠償でもしなきゃならなくなるぞ」
 主婦は、キッパリと言い切った。
「そういう現実を断った上で夫と交渉してください。それでも夫がノラリクラリした態度をとったら、それはあなたにどうされても仕方ないでしょう」
「わかった。そこまで言うなら、そうしよう」

 その日の朝、まず私は、団地に電話をした。誰も出なかった。次に夫の会社に電話をした。しかし、ミエミエの居留守を使われた。午後、再びかけるとまた同じ人間に居留守を使われた。ちなみに、この居留守を使った女は、現在、その会社から独立してフリーランスでDTPの仕事をしているようだ。彼女には何の責任もないが、私は今後、どんなに人手に困っても彼女に仕事は発注しないつもりだ。

 主婦は、派遣が休みの水曜日だけ半日アパートに戻り、郵便物などの確認と、私が引き継げるものの引き継ぎを行うことにした。私は弁護士に一連の経過を説明し、損害賠償を含めて相談をすることにした。

 そうとは知らない夫は、以降、まともな交渉を避け続けた。リアルに言うと、母親と息子まで巻き込んでかなりみっともなく逃げ回った。その様子はまた次回以降で……。





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Last updated  2003.03.31 12:02:13


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