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アメリカで約30年ぶりの抜本的な税制改革が成立間近となっています。法人税減税の20%への引き下げをはじめとする税制改革法案は11月半ばに議会下院を通過、12月2日に上院も通過して、現在上下院で条項の異なる部分について調整が行われており、早ければ議会が閉会する15日までに成立の可能性もあります。年内の成立が無理でもおそらく来年初には成立に持ち込める見通しで、懸案であった税制大改革はついに現実のものとなりそうです。一方で税制改革に対する最近のメディアの報道や市場の反応を見ていると、誤解と思われるものが多々見られます。 第1に、「来年減税となるのだから、年内は株の売りを控え、来年1月に株を売ったほうがいい」という誤解です。実は今回、株式を多く保有する高所得者層の投資に関わる税率(キャピタルゲイン税率や配当税率)に変化はない見込みです。それだけではなく、上院・下院両方の法案で、連邦所得税からの州税・地方税の控除が廃止される方向です。これによってニューヨークやカリフォルニアなど州税・地方税率の高い地域に住む人にとっては逆に、来年は増税となります。 さらに現在、上院の案では税法上「株式は先入れ先出し法によって売却しなければならない」という条項が入っています。現在は税法上、投資家はどの株価で買った株かを選んで売却することが認められているので、むしろ自由が利く今年中に売ったほうが有利ということになります。州税・地方税のない地域に住む低・中所得者という一部の投資家を除いては、全体で見れば、もともと予定していた株の売却を来年1月に持ち越す理由は見当たりません。 第2に、「ハイテクは海外に留保している利益が多いので、減税のメリットをより大きく享受できる」という誤解です。確かにハイテクはグローバルに展開している企業が多く、海外に留保している利益が多いので、海外留保利益を米国に戻す際の減税措置が受けられます。ただその際の税率は当初予想された10%ではなく、上院案では14.49%、下院案では14%と高めになっています。 また今回は「アメリカの」法人税が減税になるのですから、グローバルに展開しているハイテク企業にとってのメリットは相対的に小さいことになります。さらに今回の上院案には法人税の「代替ミニマム税」が盛り込まれています。これは設備投資や研究開発費に認められている減税のメリットが一定以上となった場合、減税額が制限されるというものです。ハイテク企業は相対的に設備投資や研究開発費を多く使っていますから、この条項はハイテク企業にとって不利ということになります。 第3に、「税制改革審議の難航で株式相場が下落」という、メディアによる誤解を招く報道です。今年はここまでS&P500指数は18%上昇していますが、セクター別で見て最も上昇しているのは前述の通り、相対的に減税のメリットが小さいはずのハイテクで、36%上昇しています。逆に、相対的に「アメリカの」法人税減税からのメリットが大きいはずのエネルギーセクターはマイナス7%、通信セクターはマイナス10%です。 要するに、今年株式相場は上昇していますが、税制改革法案の成立を期待して上昇してきたわけではないのです。よって審議が難航したからといって下落する余地など、そもそもほとんどないはずなのです。12月に入って上下院で税制改革法案が通過し、成立の見通しが立ってきたことでハイテク売り、エネルギー・通信買いという税制改革法案成立を織り込むような動きが少し見られましたが、全体としては税制改革による影響はまだまだという状況です。 要するに、そもそもこれまで市場の税制改革法案に対する期待は高くなかったこともあり、そのメリットが本格的に経済・市場に表れてくるのはこれからです。そして忘れてはならないのは、この税制改革はトランプ政権にとって経済政策の第一歩であり、今後もインフラ投資やさらなる規制緩和などの重要政策が次々と控えているということです。(2017年12月8日記)
2017.12.12