2006年01月09日
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2005年11月18日

■Qレシオが復活するのか?

 最近、ある投資顧問会社の社長さんから、「Qレシオが復活することはないだろうか?」と質問された。その読み筋は、ここのところ不動産価格の上昇が目立つし、村上ファンドのような投資家は企業の含み資産に注目して投資するだろうから、かつてのQレシオが復活してもおかしくないのではないか、ということらしい。
 理由は順を追って説明するが、筆者の意見は「どちらかと言えばノー」だ。
 「Qレシオ」をご存じない方も多いだろう。教科書に載るような正式な用語ではないから、知らなくても問題はないのだが、一言でいえば、資産を時価で評価して計算したPBR(株価純資産倍率)のことだ。PBRでは、まさに「(プライス・トゥー・)ブック・バリュー」というがごとく帳簿上の一株株主資本に対する株価の倍率を計算するが、この際に企業が保有する土地などの資産を時価で計算したものが「Qレシオ」だ。ただし、厳密に計算することは簡単ではない。たとえば、村上ファンドで有名になった阪神電鉄のPBRは3倍前後だが、この銘柄のQレシオを計算するためには、阪神電鉄が保有する土地や建物などの不動産、電車や線路をはじめとする各種の設備の時価の合計を知らねばならないが、これを知ることはいうまでもなく難しい。従って、「Qレシオで見るといくら(だから割安)」という話を聞いても、そのまま真に受けてはいけない。誰が計算した(たとえばレポートを各証券アナリストだろうが)数字なのか、計算根拠の確認が必要だ。
 さて、Qレシオは、かつてのバブル真っ盛りの1988年に、証券経済研究所が発表した日本の株価水準に関するレポート(ある東大教授が座長の研究会のレポートだった)で登場したものだった。当時は、「日本の株価は高くないと東大教授がお墨付きを与えた」(当時、日経平均は2万8千円くらいだった)という声もあったし、一方で、「このレポートの論旨は正しくない」という批判も出て(実は、筆者の一般雑誌デビュー作の論文がまさにこの内容だった)、当時はそれなりに話題になった。
 なお、経済学部の学生読者のために注釈しておくが、「Qレシオ」は経済学でいう「トービンのq」にちなんで命名されたものだが、後者は、企業価値(「時価総額」とは異なる)を企業設備の再取得価値(同等の効果のあるものを取得するコスト。資産の売却価格とは異なる)で割った比率であり、内容的には別物だ。
 筆者が、Qレシオのはなばなしい復活はあるまいと思う理由は三つある。
 まず、不動産をはじめとする企業の資産は換金が難しいことだ。資産の換金が簡単なら、Qレシオが1未満の銘柄をどんどん買って、企業を清算すると大儲けできるはずだが、現実には企業を清算するのは簡単ではないし、出来たとしてもコストが掛かる。また、資産価格の「時価」はあくまでも目処であり、実際に大口の売り物を出してみた場合にいくらで売れるのかはやってみなければ分からない。
 ただ、この点については、たとえば企業の所有する不動産を証券化して一気に現金化できる(要するに流動性の乏しさという「ババ」を投資家に掴ませることなのだが)なら、少し様子が変わるかも知れない。一つ象徴的な実例が出ると、一時的に資産株ブームが起こる可能性はあるので、この点は少し気にかけておこう。 次に、いくらか相場的な判断に関わるのだが、不動産関連株は近年随分上昇したし、株価の全般的な上昇でPBRが大きく1倍を割る銘柄が減ってきており(めぼしいものはすでにかなり上昇した)、今後、株価に対する純資産の価値を囃す相場が大規模に展開することは難しいのではないかと思うからだ。株価が上昇したとはいえ、都市部を中心に不動産価格は好調だが、今後、家賃が株価並みのペースで上がるとは想像しにくい。近年、「収益還元法」の考え方が浸透してきたので、家賃上昇の伴わない不動産物件価格の上昇は継続しないと考えるべきだろう。


■Qレシオ論のどこがおかしかったか?


 80年代のQレシオの理屈付けは、(1)(不動産価格から推測するとあるはずの)収益の飛躍的改善の可能性が→(2)不動産価格に反映しているが→(3)株価にいまだ反映していない→(4)したがって株価はまだ上昇する、といったロジックであった。
 このロジックのどこが間違いであったかというと、収益の改善見通しがまず不動産価格に反映して、株価の反応が遅れることの不自然さにあった。常識的に考えても、株式の方が取引コストが安くて、流動性も高いし、参加者が多いマーケットだから、企業収益の飛躍的な改善が予想されるならこれはまず株価に反映すべきだった。この点は、直接の証明ではないが、バブルの崩壊が、株価にあっては90年の年初からで、不動産価格(全国レベルの)にあっては92年くらいからであったことを見ると、納得していただけると思う。
 加えて、Qレシオについては、証券業界の意をうけた学者や実務界の研究者が、理論らしきものを振りかざして、バブルの後押しに努めた姿が印象深い。投資家は、学者の意見や理論の背景にも商売が隠れていることがある点を教訓とされたい。なお、筆者はこれまで、Qレシオを発表した学者や研究者を名指しで何度も批判してきたが、さすがに、彼らも今では反省しているだろうから、今回は名前を挙げない。


■投資ファンドの銘柄選択基準

 なお、包括的に調べたわけではないので、印象論にとどまるが、村上ファンドやスティール・パートナーズといった投資ファンドが主に買っていると報じられている銘柄は、必ずしもQレシオ的な銘柄ではないようだ。
 PBRについても、市場平均よりも低い銘柄に投資しているようだが、極端に低いわけではなさそうだし(たぶん平均的には1倍をかなり上回るだろう)、目立った土地持ち企業というわけでもない。
 彼らは、むしろ、自己資本比率の高さ、キャッシュないし有価証券など容易に換金できる資産の保有、安定した大株主で過半数を占めない株主構成、といった点に注目しているように思える。要は、大株主になって、財務リストラ(自社株買いなどで株主に価値を返して自己資本をスリムにする。理論的には株主にとって得になることが多い)を要求できそうな会社をターゲットにしているということだろう。
 ただ、たとえば村上ファンドのようなファンドの投資銘柄を見ると、かつてよりも儲けるまでに想定されるストーリーが複雑になっている。つまり、投資としては難度が高くなっている印象であり、これは大きな資金が集まったことと、株価全般の上昇による投資チャンスの減少の、両方の要因によるものだろう。


■PERとPBRを合わせて見る簡便法

 ところで、最近の株価水準は、東証一部の平均で、PERで20倍強(日本の金利を考えるとそう高いとは言えないと思う)、PBRで2倍強というくらいの考えやすいレベルにある。
 PERとPBRを合わせて判断するには、BPS(一株当たり純資産)にEPS(一株当たり純利益)の10倍を足したものを株価と比べると非常に分かりやすい。
 たとえばBPSが500円で、EPSが50円の会社があったとすれば、500+50×10=1000なので1000円の株価なら「まあ普通だ」と考え、株価がこれよりも高ければ「高い」、安ければ「安い」と一応考えてみるといいだろう。この状態で、PERは20倍、PBRは2倍となる。
 EPSを一桁ずらして(10倍して)BPSに足すだけだから暗算でも計算できる。そして、なぜ高いのか、安いのか、と考えてみるといいだろう。簡単な方法なので、「会社四季報」などを見るときに、試してみて欲しい。







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最終更新日  2006年02月10日 02時25分06秒
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