2006年01月08日
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2005年11月04日


■リスクコントロールの一般論

 特に運用資金が大きい場合には、プロのファンドマネジャーの、運用の勝負所の大半は「ウェイトの付け方」にあるといっていい。小型株に特化したファンドや、相当に特殊なアクティブ・ファンドでなければ、たとえばトヨタとかキャノンといった主な銘柄は殆どのファンドが持っている訳だが、問題はそれぞれの保有銘柄をどのような比率で持つか、ということになる。
 数十・数百の銘柄を管理する場合には、先の日立Riskscopeのようなポートフォリオ管理のツールを使う場合が多いが、プロの運用では、保有銘柄のウェイト調整に大いに気を遣う(そうでないプロも居るが、基本的に二流以下だ)。
 また、たとえば年金基金のような顧客に対して自分が運用するポートフォリオを説明するためには、厳密には、トヨタならトヨタの保有ウェイトがなぜ2%とか3%といった特定の数字なのか、計算根拠をしっかり説明できるようでないと、プロの仕事としては不十分だ。銘柄の保有ウェイトは、その銘柄がポートフォリオのリスクに対して与えている影響と、その銘柄の期待リターンとのバランスで決まるので、この計算が説明できなければならない。
 もっとも、すべてのファンドマネジャーがそのように厳密に数字を計算してポートフォリオを作っているわけではないし、また、勘所を押さえておけば、厳密な計算でなくとも大勢に影響はないといった面はある。ポートフォリオの歪みも、結果論で見ると、プラスに働くこととマイナスに働くことがおおよそ半々なので、事後的な運用パフォーマンスで当初のポートフォリオの評価をすることは難しい。しかし、「事前のレベル」で合理的かつ効率的であることこそがファンドマネジャーにとっては重要なことなので、プロを目指す学生はしっかり勉強して欲しい。
 なお、学生の提出した商品企画の中には、「学校にBARRAモデルがあるので」これを使ってリスク管理を行うとするものがあった。BARRAモデルは、日立Riskscopeと同様のマルチファクター・モデルと呼ばれるポートフォリオ分析のツールだが、大学の装備もかつてに比べて随分進んできたようだ。
 ただし、その商品企画の説明には、重要な経済指標などの発表がある際には、BARRAモデルを使ってリスク管理をするというようなことが書いてあったが、BARRAモデルのようなマルチファクター・モデルのリスクは経済指標の発表(たとえば日米のGDP統計や米国失業率とか日銀短観)では殆ど影響を受けない。
 また、こうした発表のイベントについては、その前に何をするのか、それが発表されてから何ができるのか、を考えると、案外何もやりようがないものだ(実際、発表前に、全体のリスクを少し落とすというくらいしか、アクションのとり方が無いケースが多い)。結局、もともとのポートフォリオのリスク状態を、「運用者が意図してとったリスク」による、少なくとも運用者にとって望ましいものにして置くことぐらいした運用者にできることはない(勿論どうして望ましいかは顧客に説明できなければならない)。
 なお、基本的な点について一点補足しておくと、「長期の運用」と「短期の運用」では適切な戦略や持つべきポートフォリオが異なると考える向きが多いが、よく考えると、短期の運用(たとえば半年)でも、長期の運用(たとえば20年でも)で有望だと思えるような銘柄(実体価値よりも割安だと思う株価の銘柄)を買うよりないことが多いし、逆に、長期の運用資金であっても、相当の確度で短期間に儲かりそうなチャンスがあれば、これを見送ることは合理的ではない。厳密な意味で両者に違いがあるとすれば、売買コストの影響をポートフォリオにどう反映させるかという程度の問題だ。

 もう一つ基本的なことを付け加えておこう。たとえば同じくらいのリターンが期待できると思う銘柄で、「10銘柄のポートフォリオ」と「100銘柄のポートフォリオ」があるとすれば(何れも銘柄のウェイトは等金額としよう)、原則として、100銘柄のポートフォリオの方が優れている。「結果的に」10銘柄のポートフォリオが勝つことはしばしばあるだろうが、ポートフォリオを組んだ時点では、100銘柄のポートフォリオの方が、リスクが小さくて期待リターンが同じなのだから、こちらが優れている。
 投資銘柄を絞り込むことを売り物にする商品を時々見かけるが、あれは、もっと多くの良い銘柄を探さない運用者の怠慢といってよい。


■学生のファンドのリスクコントロール

 日立Riskscopeで評価した、学生達のポートフォリオの構築については、はじめに今年のプログラムを見たときに懸念したとおり、率直にいって、かなり不満足だった。
 学生達のポートフォリオは、銘柄数が少ないもので10数銘柄、多いもので40~50銘柄くらいで、典型的には20数銘柄であった。これは、20銘柄あればリスクはそこそこに分散されるという教義の影響だろうか。
 日立Riskscopeで見た、リスクの推計値を見ると、ベンチマークをTOPIXとした場合に、ベンチマークに対する相対的なリスク(運用業界では「推定トラッキング・エラー」と呼ぶ)は5~6%くらいの一般にもよくあるようなアクティブ・ファンドと、10%前後の非常に個性が強い「超アクティブ」と呼んでいいようなファンドとに二分されたが、どちらかといえば後者が多かった。
 仮に超アクティブを標榜するようなファンドであっても、リスクの内容が、運用者及び商品コンセプトが意図したリスクに明らかに重点があればいいのだが、「業種配分の偏りに起因するリスク」か、企業規模や利益に対する株価の割安具合といった「一般的な属性の偏りに起因するリスク」か、「主に分散不足による個別銘柄のリスク」か、といった分解をしてみると、それぞれのリスクが同じくらいに大きいものが多く、これでは、運用商品として、商品コンセプトを的確に実現しているとは言い難いし、もちろん、運用状態としても好ましくない。また、運用内容を顧客に説明するような場合も上手くいきにくいだろう。
 特にどのファンドも、分散投資の不足による個別銘柄のリスクが、小さい場合でも5%前後もあって、これでは一般顧客向けの運用商品としては苦しい。
 もっとも、学生達が作ったポートフォリオの多くは、トータルの推定リスクでみると、現在12%くらいの水準であるTOPIXと大差のないものが多かった(10%~13%くらい)。これは、たとえば、個人が自分のために運用するポートフォリオであれば、TOPIXにこだわる必要がないことが多いので、十分満足できる程度のものだが、商品として顧客に売る場合は、顧客のアセットアロケーションの条件と整合的であることが望ましいし、顧客の側の「日本株はこんなリスクとリターンだろう」という期待からあまり大きく外れない方がいい(外れる場合にはリターンの獲得がかなり期待できなければならない)。
 この辺りに関しては、学生達が、「個人で満足できるポートフォリオ」と「顧客用に品質管理されたポートフォリオ」の具体的な違いを理解してくれると嬉しいのだが、いきなりそこまでの理解を求めるのは厳しいかも知れない(運用会社の経営者が理解していないこともあるくらいなので)。
 現実に、他人のお金を運用するファンド運用を担当することになれば、より重要なのは、リターン獲得のアイデアよりも、まずはリスクコントロールの技術だ。後者を先に身につけるとクビになるリスクは小さくなるが、後者を身につける前に前者に熱中して、独りよがりのポートフォリオを作ると職を失う可能性が大いにある。
 来年以降のプログラムでアセット・マネジメントを再びとり上げるなら、ポートフォリオのリスクコントロールの技術について、もっと学べるプログラムを作るといいと思う。


■顧客のニーズと運用の内容


 この種の商品案に対しては、筆者は、些か厳しい評価を下したのだが、ぜひ考えてみて欲しい点がある。
 先ず、顧客は通常単一の商品で資金を運用するのではなく、いくつかの運用対象を組合せて運用することが多く、また、顧客に対する運用アドバイスとしても、複数の商品を的確に組み合わせることを推奨すべきだという点を理解して欲しい。たとえば、顧客が、元本割れを強く嫌うなら、そもそも株式で運用すること自体が不自然だし、株式に投資するとしても、資産全体の中で株式運用の商品に投資するウェイトを下げるべきだ。運用商品は、その商品だけ単独で顧客のニーズを満たすのではなく、顧客の運用計画の中で採用される優秀な部品になることが望まれるのだ。
 ただし、マーケティング上のコンセプトの当たり外れによって、「運用観点からは望ましくない商品」が売れることは時々ある。だからといって、最初から、運用の観点からの望ましさを捨てては欲しくないと筆者は思う。
 また、将来の資金使途が教育資金だろうと遊興費だろうと、お金はお金で同じものだ。有り体にいって、顧客のニーズとは、「リスクに対して効率よく儲けること」に集約される。あとは、顧客が自分がとってもいいと思うリスクの内容と大きさを決めるだけのことだ。
 家計の財務状態をしっかり把握していなければならないという観念から、資金の用途に合った運用商品を選ぶべきだという通念がしばしば形成されているようだが、これはファイナンシャル・プランニングの重要性と運用商品の選択の際に必要な考え方とを混同した誤解である。



■運用結果は予想できない

 16本の商品案を分析するのは、なかなか骨の折れる作業だったが、久しぶりにファンドを作ることについて考えたので楽しかった。プロの商品としてこれらを評価すると、個々のポートフォリオについて良し悪しを評価することははっきりできる。ただし、そのことは、たとえば1年運用したとして、評価の高いポートフォリオの方がパフォーマンスが勝る可能性が高いといえるような単純なものではない。実際に学生が作った通りのポートフォリオを運用した場合に、どれが勝つのかは、予想する手段がないのが現実だ。これは、プロの商品を評価する場合でも同様で、パフォーマンスのいいアクティブ・ファンドを事前に選ぶことができるような気分は、顧客の側の錯覚だし、商品の売り手としてはそうした錯覚を上手く醸成して、商品の販売につなげたい、というのが運用ビジネスの現状である。


以上





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最終更新日  2006年02月10日 02時08分35秒
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