2.社長ホリエモン
筆者は、ライブドアで働いたこともないし、同社の社員を取材したこともないので、主にホリエモンの著書を参考にして彼の社長ぶりを推測するしかないが、推測する限り、ホリエモンはベンチャー企業の社長としては普通の人だと思う。ベンチャーの社長の人間像は、主に、(1)わがまま、(2)純粋(ときに子供っぽい)、(3)せっかち、(4)けち、といった特色を持っていることが多い。著書やブログで見る限り、彼にも、ほぼそのまま当てはまると思う。
社員の平均的な給与水準が高くないこと、成果主義的な報酬の払い方であること、鉛筆などの備品に至るまで会社経費をほとんど使わせないこと(パソコンも社員の自前持ち込みだが、パソコン購入用14万円の補助が出るらしい)、接待費もあまり使わせないこと、社員の服装や勤務時間は比較的自由であるらしいこと、なども、一部に極端な徹底を感じるものの、ベンチャー企業としてはごく普通だと思う。
あえて言えば、社員の居心地よりも、業績を黒字にして少しでも株価を上げることにウェイトを置いていると感じる。2004年の高額納税者の報道では、ホリエモン自身の収入もたいしたことがないという印象を受けたのだが、株式を上場している(或いは上場前の)会社の経営者は、自分の給与を抑えるとともに社員の給与も抑えて、社内に向かって「私もそんなに貰っていないのだから、社員も我慢してくれ」という態度をとることが多い。これは、社長にとって、もっぱら自分の持ち株の株価が重要であることからくる、全く「合理的」な判断だから、社員はしらけることが多いのだが、ホリエモンもそうした社長だったのかも知れない。
その後の報道から推測するに、幹部社員の報酬は、ストックオプションが中心だったのではないかと推測する。もちろん、ストックオプションは、正当な手続きを経て発行したものだろうが、株主から見た場合に、費用としてのインパクトが見えにくいという、アメリカで提起され、議論されている問題が、この種の会社を評価する際には重要だと感じる。また、ストックオプションは、費用として問題なだけでなく、幹部社員の行動の変化をももたらすから(たとえば短期的に株価が上昇するような情報発信や経営選択に傾きやすくなる)、会社の性格を見る上でも、幹部社員の持ち株の状況やストックオプションの使われ方に関する分析は有用だと思う。
ホリエモンの著書『稼ぐが勝ち』を見ると、ビジネスそのものに関しては、営業の重要性を強調しており、さらに営業にあたっては根性論への傾斜が見られる。この点は、ベンチャー企業の社長としてはオーソドックスだが、平凡でもある。
事業の選び方・進め方については、成功したビジネスのパターンをともかく自社のラインナップの中に加えてゆくような、割合に堅実な二番手、三番手戦略を採っているように見える。ユーザーに容易に比較検討されるネットの世界では、お互いが似てきやすいのかも知れないが、たとえばライブドアのポータルサイトは、業界最大手のヤフーのそれに、機能・サービスばかりでなくデザインまでもがよく似ている。
ただし、無線LANのターミナルの敷設など、なかなか面白そうなことも考えているし(まだそれ自体で黒字のビジネスにはなっていまいが、工夫によっては、今後の発展の可能性はある)、詳しくは専門家の分析に譲るとしても、ライブドア社のビジネス・ラインナップは、後から見て、ネット関連のビジネスを一通りバランス良く揃えており、これらのうちの幾つかは、その買収が、報道されているように業績の粉飾に使われたのだとしても、社長ホリエモンのビジネス選択眼は悪くないのだろうと思う。
それにしても、今回の事件に絡んで、2004年のライブドア社の単体の業績が黒字に粉飾されていたとの報道があったが、ネットのビジネスでは、カテゴリーの一番手以外は本当に儲かりにくいものなのだな、ということが改めて印象づけられた。あの頃、元気に見えたライブドアが実は大して儲かってはいなかった、というのは何やら興ざめする事実である。
結局、本業では、社員を安く使いつつ、プラスのキャッシュフローにこだわり、これを対外的にできるだけ良く見せると共に、その他の金融的な操作で、時価総額の構築のベースになる利益を積み増ししていたということだ。
『稼ぐが勝ち』にも、会社が要は他人を使うための仕組みであることと、社員として他人に使われることがいかに不利であるかが露骨に書かれていて、ライブドアの社員はこれを読んで気を悪くしないのかと心配したところであったが、株式に関わる諸々を除いて、ホリエモンの会社運営は、「搾取」という古い言葉を思い出させるような古典的な資本主義だ。そして、こうした会社運営自体はこの種のベンチャー企業としては普通のことで、不思議なことは何もない。
第百二回 10年単位で投資を考えること… 2009年05月15日
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