2006年11月02日
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■簡便法の例



 例えば、ユニバースが東証一部上場銘柄でベンチマークもTOPIX(東証株価指数)で、手もとに全銘柄のPERのデータがあり、PERのみを判断材料にして銘柄の評価をする(低い方が好ましい、と考えるとする)、と決意したとしよう。概略以下のような方法で期待リターンを作ることができる。
(1) 全銘柄のデータを表計算ソフト等に取り込む。
(2) 赤字会社についての処理を決める。(例えば、一旦ユニバースから除外することにする。)
(3) 対象データの平均と標準偏差を計算する。
(4) プラス/マイナス3標準偏差だけ平均から離れたデータの値をそれぞれプラス/マイナス3標準偏差に対応する値に置き換える。(この際に、赤字会社をプラス3標準偏差位の値でデータに加えても良い。)
(5) 上記のデータ(修正された生データ)に対してもう一度平均と標準偏差を計算する。
(6) 各銘柄の修正生データから上記の平均値を引いたものを上記の標準偏差で割った値を求める。(「正規化されたPER」が得られる。)
(7) プラス/マイナス3以上の値を持つものをそれぞれプラス/マイナス3の値に置き換える。


(例)例えば、修正された平均PERが20倍で、東証一部のPERの1標準偏差が5倍とした場合に、PER15倍の銘柄のアクティブ・リターンは年率1.5%と考えられることになる。

 一般に、PERのような数値データを直接評価尺度とする場合には、データの範囲と分布の様子について考慮する必要がある。単純に求めた平均や標準偏差をそのまま使うと、大きな外れ値があった場合にその影響を受けて、大多数の普通の値を程良く評価することができなくなることがある。もちろん、外れ値の意味によっては扱い方が異なるべきだし、上記の手順は数ある処理方法の一例に過ぎないが、「無難な値」を作るために、大きく外れた値の処理について工夫している。
 なお、評価の基準となるデータは必ずしもPERのような数値データである必要はない。例えば、銘柄に対するアナリストのレーティングのようなものを判断材料にする場合は、レーティングを100点満点に直して適当な点数を対応させるなどの処理をして、データの正規化を行った値に1標準偏差当たりの期待リターンを掛ける、といった操作をするとよい。
 通常は、一度「1標準偏差=1.5%」で過去のデータに関するバックテストを行って、その結果を参考にしながら、評価尺度自体の妥当性を見直したり、見直しを反映して、入力値を修正したり、といった手順を踏んでポートフォリオを作ることになる。「1標準偏差=1.5%」と考えて、データにあたってみて、過去データを参考に修正するというやり方は、何らかの評価尺度や投資アイデアがどの程度使えるかを検証する際には、有効な方法だった。ファンドマネジャーの為に、もう少し説明すると、一般論として、ある尺度に関して余りに大きな期待リターンを仮定すると、バックテストの際にできるポートフォリオが大きく歪んで、当該尺度以外の意図しない要因が相当程度入ってくるケースが増える。そうした場合、過去のデータについて当該評価尺度単独の影響を評価することが難しくなるので、最初のテストをする際には、やや控えめな値を使用することが無難な場合が多い。そこでテストを行ってみて、IR(インフォメーション・レシオ)や、アクティブ・リターンの出方の安定性、アクティブ・リターンの要因分解などを見て、アイデアを評価するといい。


■効用関数との関係

 ところで、この「ポートフォリオ運用の一般的な原則」のシリーズの冒頭で説明したポートフォリオの効用関数に沿って考えると、現実的なポートフォリオを作るためには、リターンとして入力すべき数字の大きさと、ポートフォリオ全体の推定リスクの大きさの見当及びリスク拒否度の数値の大きさとのバランスが問題になる。上記の「1標準偏差=1.5%方式」もリスク拒否度と推定リスクの大きさによってはほとんど用をなさなくなることがあるので、テストを行う条件の妥当性については、吟味が必要だ。
 また、売買コストとの関係について考えると、ファンドの目的関数を考えると、例えば、リスクに関する影響を無視して考えた場合に、売買コストが1ターンオーバー(往復)あたり年率換算3%とすると、評価尺度に関して上下に2標準偏差の差が生じてはじめて銘柄入れ替えのメリットが発生することになる。現実には、そうした組み合わせになる銘柄が、そうたくさん出てくるわけではないので、売買回転率は、そう大きくはならないはずだ。
 もちろん、リスク拒否度、推定リスク、売買コスト、さらに期待リターンのいずれも本来は独立に、最終的にファンドマネジャーの判断によって決まるべきものであり、効用関数の値に対する影響のバランスから考えて、実際にそれぞれの数値がどのくらいの値を取るか、そして、それに対して、ポートフォリオがどう動くかといったことに対して想像力を働かせることが重要になる。
 ある評価尺度、つまり投資アイデアの、リターンとしての価値がどのくらいあるか、ということの評価は、ある意味ではファンドマネジメントの仕事の核心であり、ファンドマネジャーの主な仕事場はこの辺りにある。
 個人投資家の場合、株式投資では、「この銘柄はいい!」と評価した場合の具体的な期待リターンの数字が問題になることは多くないかと思われるが、機関投資家の運用の舞台裏を知ると共に、「自分の当たり外れの信頼度を反映させて銘柄を評価すると、妥当な期待リターンの数字は、そんなに大きなものではない」ということを知っておかれるといいだろう。





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最終更新日  2006年11月06日 09時36分27秒
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