2007年05月18日
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■銘柄が多すぎると管理できない?

 「分散投資は効率が悪い」、或いは、「株式投資は、ある程度の集中投資がいい」といった意見を聞くことは、昔も今も少なくない。聞く度に、正直なところ、「またか」と思う。

 分散投資を批判する意見は、分散投資自体が「悪い」、つまりパフォーマンスを悪化させると主張するものと、ある程度の集中投資(「ある程度の」という辺りが微妙だが)の方が、効率がいい、という話に大別される。

 分散投資がパフォーマンスを悪化させる可能性があるとすると、どんな理由があるのだろうか。

 よく聞く意見の一つは、「銘柄数が多くなりすぎると、管理が行き届かなくなる」というものだ。この種の意見は、投資の入門本を書いている半可通の書き手のほかにも、運用会社の相場好きの役員などが、口にすることがある。たとえば、「一人で眼が行き届くのは、せいぜい30銘柄くらいであり、これを超えると、十分な管理ができない」というようなことを言う。社内の偉い人にこのような事を言われると、なかなか反論しにくいものだ。これに、気にせずにすっきり反論できない人はファンドマネジャーに不向きだし、さりとて、勝ち負けのはっきりする言い方で上司に反論するような人物はサラリーマンに向かない。

 三段階の反論が考えられる。

 第一に、もともと、個別の銘柄に十分な管理などできないから、分散投資しているのではないか、という根本的な問題だ。そもそも、「十分な管理」とは、具体的に何を指すのか。先ず、株価の動きを詳細に見ていても、これを売買につなげて収益を改善することはできない。では、業績に関わる情報を見るのだとしても、直接的な情報(業績修正など)も、間接的な情報(景気や流行などの情報)も、それなりに株価に反映する。たとえば、1銘柄だけに投資して、その銘柄に全精力を集中しているとしても、株価が下がるような情報が出る前に自分だけが保有株を売ることは、経営者になって決算操作(違法だ!)でもしない限り、有効にはできない。

 第二に、十分な銘柄数を持てないのは、運用者の怠慢ではないか、という意見があり得る。この点については、次の例で考えると分かりやすい。

 今から十数年前に、実際にあった話だ。筆者は、ある運用会社のオフィスを訪ねて、その会社の社長さん(現在もご活躍中の方なので名前を秘する)のお話を伺っていた。彼は、自身の会社の当時の運用方針について熱く語り「我々は、他社のサラリーマンファンドマネジャーと違って、徹底的に調査をして、可能なら、その会社の全株式を買ってもいい、というくらいのガッツを持って投資する」と語ってくれた。ポートフォリオは、30銘柄前後の集中投資的なものだという。そこで、筆者は、「もし、同じくらい有望な銘柄が100(個)見つかったら、どんなポートフォリオを作りますか?」と質問してみた。社長さんは、一瞬怪訝な顔をして、「それでも我々は、我々がいいと思う30銘柄くらいを選んで投資すると思う」と答えた。



 このように考えると、30銘柄しか有望な銘柄を見つけていないのは、ファンドマネジャーとして職務怠慢なだけで、「厳選された集中投資」などと自慢している場合ではない、と言うこともできる。

 「しかし、現実問題として、多数の銘柄を調べ尽くすことなどできない」という反論が返って来そうだが、その場合には、「だから、十分な管理などできないので、分散投資すると言ったではないですか」と、第一段階に話を戻せばよく、これが、反論の第三段階だ。


■アマチュアとプロでは「ゲーム」が違う

 ここで補足しておくと、アマチュアの運用の場合、30銘柄もあればたいていは十分以上だが、投資信託や年金運用などプロの運用の場合は、
(1)運用金額が大きいので銘柄数を増やしても売買コストが急増しないこと、
(2)顧客に対する説明責任を負うので意図しないリスクによる勝ち負けの幅をある程度抑える必要があること、
(3)他社との勝ち負けに関するビジネス上のリスクを意識しなければいけない(大負けは解約につながるし、多くの場合、勝ちのプラスよりも、負けのマイナスの方が、ビジネス上の影響が大きい)こと、
の三つの違いがあって、たいてい30銘柄程度では分散投資が不足になる。

 アマチュアの相対的には少額の(稀には巨額の人もいるが)運用の場合、分散投資でのリスク低下のメリットを、分散投資に伴う売買コスト(手数料等)増加が打ち消して、さらにマイナスの効果をもたらすことがある。また、説明責任や、他社との競争は、意識せずに運用ができる。

 従って、アマチュアとプロとでは、見かけ上同じ日本株ポートフォリオの運用をしていても、現実的には、かなり違うゲームをしているので、よく、幸運だったアマチュアが、プロの運用を十把一絡げに批判することがあるが、彼は、ゲームの構造とデータのばらつきについて、よく理解していないのだ。

 ただし、だからといって、プロの運用の方がより立派なのだということを言いたいわけではないので、注意して欲しい。プロが勝っているのは、「運用サービス業」の能力であって、同じリスクに対してより高いリターンを稼ぐような「運用力」そのものではない。



 さて、ここまで考えてみると、「ある程度の集中投資の方が、効率がいい」という(やや中途半端だけれども、実感のこもった)意見の正体も、よく分かるのではなかろうか。この意見は、リスク削減のメリットを売買コストの増加が上回るような微妙な場合(通常は少額の投資の場合)を除くと、結果論と事前でベストの意思決定との区別がつかない論者が、「私の経験では」(自分の経験を一般化して話すことは、かなり恥ずかしいことだ)、あるいは「成功した投資を見ると」(事後的に成功例を見ると集中投資の方が見事なのは当然だ)、といった前提の下に、「集中投資の方が上手く行った事例がある」ということを言っているに過ぎず、これは、一般論として、集中投資がいいか、分散投資がいいか、という議論の足しになる話ではない。

 それでは、あまり大きな金額を運用していないアマチュアの投資家はどうするといいかというと、コストを大きく上げてまで(たとえばミニ株を使ってまで)広範な分散投資をする必要はないけれども、銘柄数を増やすきっかけがあれば、特に、新たに投資資金が増えたような場合には、新しい銘柄を買って、保有銘柄数を増やし、銘柄数が増えることを気にせずにいるといい、ということだ。

 なお、詳しい理由は省略するが、一般論として、運用期間が長くなるのと共に、保有銘柄数が増えるのは、合理的な選択であり、自然な現象でもある。





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最終更新日  2007年05月18日 17時40分37秒
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