やさしい時間 ~ Hot House ~

やさしい時間 ~ Hot House ~

ちょっといいお話。



私が病院勤めをしていて一番思い出深いのは、
「吉川タマ子さん(仮)」以外には思いつかない。

彼女の年齢、96歳。
入院してきた時は食事も食べれず、
中心静脈栄養といって、血管から直接栄養分を入れる点滴を要した。
栄養状態が悪いせいか、歩行もできない。
軽度の認知症(旧:痴呆症)もあり。

見た目はとっても小柄で、今時の小顔^^
全体的に小作りな顔。
目もつぶら、口もおちょぼ口、鼻もコロンって感じ。
すごーくかわいいおばあちゃん。

私はと言えば、まだ22歳。
この病院に勤め始めて、まだ1年ちょっと。

ちなみにこの病院は「姥捨て山」と呼ばれている。
確かに見た目はそうかもしれないけど、
この病院があるから、みんな一人で最期を迎えなくて済むんだよって思う。

だから私はここにいるおじいちゃん、おばあちゃんは家族だった。

さて、それからのタマちゃんはみるみる回復!
普通96歳では回復は難しい(>w<)
でもタマちゃんはやってのけた^^;

「あんたとは話が合う。あんたのことだけは好いちょうばい。」
・・・私が話を合わせてるんですが、、、タマちゃん。
タマちゃんと話すと本当に癒された。
いつもとってもキュートな笑顔で、何故か内緒話のように話す。

タマちゃんは点滴で栄養を取り入れていた生活から、
経管栄養(鼻から胃へチューブを入れる)、そして普通食まで回復した♪
ご家族も毎日来られていて、お昼ご飯は必ず食べさせてくれた。
息子さんのお嫁さんだったが、こちらも本当にいい方だった。

しかも歩行困難だったのが、伝い歩きまで出来るようになった!(^^)!

そしてある日の夕方。私は夜勤だった。
感染症の病室に入ると、しばらく出てこられない為、
タマちゃんにいつものように挨拶。
「タマちゃん、ちょっと行ってくるね♪すぐ戻るきね!」
「うん(^-^)気をつけて行っておいで♪」
いつものようにキュートな笑顔で手を振ってくれた。

後から気付いたのだが、その時何故か情景がスローに見えた。

それから感染症の病室に入り、どれくらいの時間だったろう。
おそらく数分の出来事。

「看護婦さん!タマちゃんが!息してない!」

私は慌てて感染症の病室を飛び出した。
最初は食べ物を喉に詰めたかと思い、Drが来るのを待つ間、
いろいろやってみたが、窒息ではなさそうだった。
どうしても助けたかった。
私の手の中で少しずつタマちゃんは冷たくなった。

せっかくここまで元気になったのに。

結局タマちゃんは急性心臓マヒで亡くなった。

それからしばらくして、葬儀屋さんがお迎えに来た。

その時にお嫁さんから言われた言葉は今も胸から離れることはない。

「ばあちゃんはあなたのこと大好きやったもんね。
 ボケててもあなたのことは忘れんかったよ。
 あなたが夜勤の時に亡くなって良かったと思う。
 本当にありがとう。」

涙が止まらない。
タマちゃんの笑顔も最期にかけてくれた言葉も、絶対に忘れない。
タマちゃんのこと私も大好きだったんだよ。
ホントにホントに大好きだった。
こちらこそ、お礼をいいます。

「本当にありがとう。支えられてたのは私の方でした。」

その後、ご家族と話す機会があり伺ったのだが、本当は1週間後くらいには
家に連れて帰る予定だったらしい。
そうだよね、あんなに元気になったのに。

でもね、私の中でタマちゃんは8年たった今もちゃんと生きてるよ(*^0^*)
今でもタマちゃんのおどけた顔やキュートな笑顔をはっきりと思い出す。




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