人生は10段変速の自転車みたいなもの

人生は10段変速の自転車みたいなもの

2016/07/28
XML
カテゴリ: 読書

ロシア語通訳の第一人者であり、エッセイスト、ノンフィクション作家であった米原万里さんは、本当にスケールの大きな真の国際人でした。
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は私の一番好きな米原さんの作品です。

米原さんの父親は日本共産党の幹部であり、1960年から1964年まで国際共産主義運動に関する雑誌の編集委員として、チェコのプラハに家族と共に赴任しました。この間、米原さんがプラハのソビエト学校で過ごしたのは日本の学年で小学校4年生から中学校2年生までの多感な時期で、そこには50ヶ国以上の共産党関係者の子供たちが通っていました。

この本はノンフィクションであり、プラハのソビエト学校時代に仲の良かった3人の個性的な友人に、30年の時を隔てて会いに行くというドラマチックな3話で構成されています。

それは、平和な時代の平和な国での同窓会的再会とは大きく意味合いの違うものでした。米原さん帰国後の30年間には、プラハの春と呼ばれるチェコ動乱、ソビエト連邦の崩壊、コソボ紛争など旧ユーゴスラビアの内戦などがあり、3人の友人たちのいる東欧諸国は大きな変革とともにダメージを負った時期でした。




3人の友人の話は以下の3つの表題になっています。
・リッツァの夢見た青空
・嘘つきアーニャの真っ赤な真実
・白い都のヤスミンカ

題名に出てくる青、赤、白はロシア国旗の色をもじったのでしょう。この本のタイトルはインパクトのある「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」となっていますが、個人的には「リッツァ」「ヤスミンカ」「アーニャ」の順に感動し、面白いと思いました。

リッツァは感性が豊かなギリシャ人で、父親はパルチザン出身の亡命者。まだ見たことがない祖国ギリシャの真っ青な空を誇らしげに語るリッツァ。勉強が嫌いでおませなリッツァの意外な30年後の姿。当然ギリシャに帰っていると思っていたリッツァとドイツで再開した米原さん。リッツァのような友人は生涯の宝物でしょうね。本当の強さと優しさを教えられたような気がします。

呼吸をするようにいつも他愛のない嘘をつくが、優しく誰からも愛されるルーマニア人のアーニャ。父親がチャウシェスク政権の幹部であり、共産主義と祖国への思い入れが特に強かった。しかし、実際の生活はルーマニア民衆の貧しい生活とはかけ離れた豪華な生活をしており、その矛盾に気が付く素振りさえないアーニャ。30年後に再会したアーニャは、父親の特権でイギリス留学、そしてイギリス人と結婚していた。簡単に祖国を捨てたアーニャはおぼつかなくなったロシア語の替わりに、流暢な英語でイギリス社会のアッパー・ミドルの生活を楽しんでいた。彼女の生涯の中に内在する矛盾。最後までどこまでが本心なのかを推し量れない心の持ち主でした。

アーニャとは対極にあるのがユーゴスラビア人のヤスミンカ。成績優秀で芸術的感性にも優れ、非のうちどころがない孤高の少女。ソビエト学校時代に米原さんが一度訪ねたヤスミンカの家族は、皆人がよく温かい家族でした。しかし、その後の30年はユーゴスラビアは内戦の真っ只中。読みながら本当に会えるのだろうか?それ以前に無事なのだろうか?とハラハラする展開でした。

平和な日本でこれまで過ごしたお陰で、あまり真剣に考えたことのない国家という意識。国家を意識しないですむ世の中を平和と呼ぶのか、国家を意識しない人を平和ボケと呼ぶのかは分かりませんが、本書の中で対極にある以下の言葉が心に残りました。

ヤスミンカ:
「国家としてではなくて、たくさんの友人、知人、隣人がいるでしょう。その人たちと一緒に築いている日常があるでしょう。国を捨てようと思うたびに、それを捨てられないと思うの」

アーニャ:
「ルーマニアの人々の惨状に心が痛まないの?」と聞く米原さん。アーニャは「それは、痛むに決まっているじゃないの。アフリカにもアジアにも南米にももっとひどいところはたくさんあるわ」と答える。
さらに米原さんが「でも、ルーマニアはあなたが育った国でしょう」と言うと「そういう狭い民族主義が、世界を不幸にするもとなのよ」と誠実そのものという風情で言ってのけた。


にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2016/07/28 06:39:08 PM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: