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父様 貴方が逝かれて 6度目の春です
いつか貴方の腕の中で「おかあさん・・」と言葉を残して逝かれたあの方のお宅を尋ねていくとき 両手に抱えて持っていった あの桃の花ですよ
母さんがつぼみのいっぱいついた大きな桃の枝を ばっさり切って「これを・・・」と私たちの前に差し出したときはさすがに驚きましたよね
もう かれこれ28年も前のことですねぇ・・・・
大まかな住所と苗字くらいしか解らない ・・・しかも戦後30年くらい経ているというのに・・
それでも 貴方の心のどこかで その方の遺族に最後を 伝えたかったのですね・・・・
墓前で手を合わせたかったのですね
母さんの用意してくれた桃の枝は つぶらでとても可愛らしく戦争のあったことなど微塵も感じさせなかったのが若かった私には なぜか印象的でしたよ
私は運転免許は取ったばかりで不安だらけの道中でしたよね
今考えたら冷や汗ものでしたね 苦笑
自宅から出発したばかりのことでしたね
突然の雷と風雨に襲われたのは・・・・・バケツをひっくり返したような雨の中を
ワイパーを全速力で作動しながら それでも 進みましたよねぇ・・・・
でもね・・・今だから言えるけど 私はなぜかどんなことがあっても貴方をその目的の場所というか家まで 届けてあげたかった。 途中でひきかえそうなんて 一抹も思えませんでしたよ
お昼が過ぎた頃 随分探した挙句 それらしき家が見つかって
ほんとに良かったですね・・・・・・・
そのころには 嘘のように 雨もあがり 風もおさまっていたのが ・・・不思議で
とても印象的だったことが今でも忘れられないのですよ
あのとき私は その家の仏間に通されたときの貴方の叫び声と光景が
私は未だに脳裏に焼きついています・・・
「おおぉ。。三浦くん・・ 三浦くんだよ・・」って・・・唸る様な叫ぶような・・そして語りかけるような
貴方の声が鮮明に蘇ってきます
それにしても あの家のご遺族の方たちは驚かれたことでしょうねぇ
あのお宅の庭先には 白い椿が咲いていましたね
仏間の鴨居に掲げてあった軍服姿の男性は若く凛々しく静かな笑みを浮かべておられた
20歳の青年だったのですよね ・・・
檜第68師団 あなたの部隊にいらっしゃった あの探していた 彼ですよ・・
魯山攻撃の際 生死をともにした 彼ですよ・・・
「おかあさん」っと言葉を残して 貴方の腕の中で息をひきとられたのですよね
中国に戦争のため行っていたにもかかわらず あなたは私たち子供には
決して当時敵国であった中国の悪口は言いませんでしたよね
「戦争は憎んでも 決して人は憎んだりしたらいけない また戦争の悲惨さは語りつづけ二度と繰り返してはならない」と・・
私はそれが私の父であった人として 今 大きな誇りと自慢の一つです
貴方の孫たちは いつのまにか大人になりそれぞれ生活を始めましたよ
先日息子の引越しに行ったとき 息子の机の上には 貴方の写真が飾ってありました
父様 桃の花の下では 皆さんと会えましたか ?
魯山の話に夢中になっているのでしょねぇ・・・笑
父様
桃は今年も綺麗に咲きましたよ・・・・ 貴方が逝かれて 6度目の春です・・
追記 母さんが先日貴方のへそくりを見つけたようでしたが・・・
ピーコックのあのお財布に 入ってましたよ
もうしばらく預かりますが そのうち皆いきますので・・・・ 笑
気長に待っててくださいね
拝啓 桜花の父上様 2008年04月05日
千夜一夜(もんママ版) 第四話 2008年02月12日
千夜一夜(もんママ版) 第三話 2008年01月28日