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「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。しんしんと雪が降る中、その赤ん坊は孤児院の前に捨てられていた。宝石のような美しい紫と碧の瞳を持ったその赤ん坊の絹の産着には、“シエル”と金糸で刺繍がされていた。孤児院の職員達は、その赤ん坊を我が子のように育てた。それから、13年もの歳月が過ぎた。「シエル、ご飯よ~!」「今行きま~す!」シエルはそう言うと、読んでいた本にしおりを挟み、図書館から出て、食堂へと向かった。「頂きます!」「シエル、昼食の後にわたしの部屋に来て。」「はい、わかりました。」昼食の後、シエルが院長室に入ると、彼女は何処か思いつめたような表情を浮かべていた。「院長先生?」「シエル、そこへおかけなさい。」「は、はい・・」シエルは院長室のソファの上に腰を下ろした。「さぁ、デザートにアップルパイをどうぞ。」「頂きます・・」シエルは、熱々のアップルパイを一口大にフォークで切り、それを食べながら院長の話を聞いた。「あなたは、もうすぐ誕生日を迎えるわね、シエル。」「はい・・」「実は、あなた宛にこの手紙とトランクが届いたの。」院長はそう言うと、机の上にトランクと一通の手紙を置いた。シエルは恐る恐る手紙を読み始めた。“親愛なる坊やへ、13歳のお誕生日おめでとう。あなたの家族に関するものを贈ります。どうかあなたが、家族と再会出来ますように。”手紙の差出人の名前は、書かれていなかった。「この手紙は、誰からのものですか?」「それが、わからないのよ。」シエルは手紙を丁寧に折り畳んで封筒の中に仕舞うと、トランクの蓋を開けた。中には薄紅色の絹のドレスと、一冊の日記帳が入っていた。日記帳には、鍵がかかっていた。「日記帳の鍵は、これよ。」院長がシエルに手渡したのは、碧い石が中央に嵌め込まれている美しい鍵だった。シエルがその鍵を日記帳の鍵穴に挿し込むと、軽快な音と共に日記帳が開いた。“この日記を、愛する我が子達へ贈る。”その日記帳には、ある女性が産まれて来る子供達に宛てた手紙のような内容だった。“あなた達にもうすぐ会えるのが楽しみだわ。”日記帳のページは、そこで終わっていた。「この日記帳は、誰の物ですか?」「それが、わからないのよ。もしかしたら、あなたを産んだお母様のものなのかもしれないわね。」「僕の、お母様・・」シエルは、院長からその時初めて、自分を産んだ母親が何処かで生きている事を知った。「院長先生、僕、お母様に会いたいです!」「あなたなら、そう言うと思ったわ。」院長はそう言うと、シエルに優しく微笑んだ。「シエル、院長先生と何の話をしていたの?」シエルが院長室から出て廊下を歩くと、孤児院仲間のフィニアンがシエルの方へと駆け寄って来た。フィニアンは金髪にエメラルドの瞳を持った少年で、シエルと仲良しだ。「フィニ、僕もうすぐ孤児院を出る事になるんだ。」「え!?」「実は・・」シエルはフィニに、手紙の事を話した。「そう・・じゃぁ寂しくなるね。」「あぁ。」その日の夜、シエルがフィニ達と部屋で寝ていると、何かが割れるような音と共に、何かが焦げたような臭いが漂って来た。「みんな、火事よ!」エミリー先生の声でシエル達は飛び起き、一目散に部屋から飛び出した。その時、シエルはトランクを部屋に置き忘れてしまった事に気づいた。「シエル、何処行くの!?」「トランクを取って来る!」「僕も行くよ!」シエルがフィニと共に部屋へと戻ると、フィニはシエルのベッドの上に置かれていたトランクを掴むと、それを窓の外へと放り投げた。「シエル、こっちだ!」フィニがシエルの手を掴んで燃え盛る部屋から出た直後、紅蓮の炎に孤児院は包まれ、一瞬で焼け落ちた。「危なかったわね・・」「はい・・先生、これから僕達はどうなるのでしょうか?」「それは、わからないわ・・」火災の後、シエルをはじめとする孤児院の子供達は、他の孤児院へと移る事になった。「シエル、元気でね!」「先生達も、お元気で!」シエルはフィニ達と初めて離れ離れとなり、東部にある孤児院で暮らす事になった。駅でフィニ達と別れを告げ、シエルは一人、東部行きの汽車に乗り込んだ。見慣れた街の景色が徐々に遠ざかってゆくのを車窓から眺めながら、シエルは急に襲って来た不安と寂しさを、溜息を吐くことで誤魔化した。そんな彼を乗せた汽車が海岸沿いの線路を走っている頃、王都・ロンドンではある騒動が起こっていた。それは、長年失踪していた女王の愛娘・アリスの遺体が東部の海岸で発見された事から始まった。検死解剖の結果、アリスの死因は溺死ではなく、後頭部を鈍器のようなもので殴打された事による頭部外傷だった。警察はアリスを殺害した犯人を捜したが、依然として見つからなかった。捜査は行き詰まり、未解決事件としてやがて人々の記憶から徐々に薄れてゆくものと警察はそう思っていた矢先、アリスを殺害したと一人の女が出頭して来た。女の名はマリア、かつてアリスの家庭教師だった彼女は、更に驚愕の事実を話し始めた。アリスは、母親である女王から逃げ、密かに子供を産んだが、その子供はマリアが個人へ預け、その事を知ったアリスと口論の末揉み合いとなった末に彼女を殺害してしまったと、マリアは犯行を自供した。思いもよらぬ事件の真相を知ったマスコミは、連日アリスの子供が何処にいるのかを報道し、人々の好奇心を煽った。「何とかしなくてはね。」「母上・・」「この事件の所為で、女王陛下は床に臥せてしまわれたわ。一刻も早く、アリス様の子を見つけないと。」「ええ、そうですね・・」「レイチェル、どうしたの?」ファントムハイヴ伯爵邸では、女主人・クローディアがそう言って自分の右隣に居るレイチェルを見た。「もしかして、“あの子”の事を考えていたの?」「いえ、そんな事は・・」「“あの子”の事はもう忘れなさい、いいわね?」「はい・・」「母上、余りレイチェルをいじめないで下さい。彼女は病み上がりで、余り本調子ではないのですから。」「そうね。わたくしはそろそろ出かけるから、後は頼んだわよ。」「はい。」クローディアはレイチェルを横目でちらりと見た後、ダイニングルームから出て行った。「ヴィンセント、ごめんなさい・・」「レイチェル、わたしの方こそ君の力になってやれなくて済まない・・」「時々思い出すの。もし、“あの子”が生きていたら、今頃どんな子に育っていたのかしらって・・」レイチェルはレースのハンカチで目元を拭いながら、産まれてすぐに死んだ双子の片割れの事を想った。「“あの子”は、きっと何処かで・・」「え?」「ヴィンセント様、女王陛下からお手紙が届いております。」「わかった。」レイチェルは、夫のヴィンセントの言葉を聞いてある疑問を抱き始めた。(もしかして、“あの子”は生きているの?)書斎で女王からの手紙を読み終わった後、ヴィンセントは深い溜息を吐いた。「どうか、なさいましたか?」「いや・・少し、困った事になりそうだと思ってね。」ヴィンセントがそう呟いた時、外から雷鳴が轟き、激しい雨が書斎の窓を打ち始めた。「ひぃ~、降って来たな。」「さっさと宿屋の中に入ろう。」同じ頃、旅芸人一座・ポラリス座の団員達は、そんな事を話しながら宿屋の中へと入っていった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月25日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「はぁ・・」 その日、ファントムハイヴ社社長・シエル=ファントムハイヴは何度目かの溜息を吐いていた。 というのも、新商品を開発しようと思い立ったはいいものの、中々そのアイディアが湧いてこない。 かといって、今更中止にも出来ない。「坊ちゃん、失礼致します。」 ベルを鳴らしてもいないのに、部屋に滑るように入って来たのは、ファントムハイヴ伯爵家執事・セバスチャンだった。「本日のデザートは、ガトーショコラのクランベリーソースがけでございます。」「悪くない。」「おやおや、仕事が余り進んでいらっしゃらないようですね?」 セバスチャンは、書類の山を前にして唸るシエルにそう言うと、一通の手紙を差し出した。『可愛い坊やへ、今年の夏は異常な暑さですね。プリマスの街で、最近猟奇殺人事件が起きていて、被害者は皆10~13歳までの子供達です。どうか、子供達が安心して家族と眠れる夜を迎えられますように、ヴィクトリア。』「プリマスか・・遠いな。」「夏の休暇を取って、プリマスへ行かれてはいかがでしょう?そうされた方が、新商品開発のアイディアが浮かぶかと。」「今すぐ身支度をしろ、プリマスへ向かう。」「イエス、マイ・ロード。」 こうしてシエルとセバスチャンは、プリマスへと向かった。「暑い・・」 ロンドンのキング=クロスから汽車でプリマスへと向かったシエルは、駅舎から出た途端、強烈な日差しに襲われ思わず顔を顰めた。「こんな日差しだったら、エリザベス様から頂いた日傘を持って行けば良かったですね。」「お前、ふざけているのか!?」 シエルがそう言って執事の方を睨むと、彼は黒い雨傘をさしていた。 真夏の強烈な日差しを浴びたシエルは、プリマスの警察署に着くまで何度も気絶しそうになった。「あ、あなたは!?」 プリマス警察の記録保管庫に居た一人の刑事と、シエルとセバスチャンは鉢合わせしてしまった。「確か君は、アバーライン君だっけ?」「そうです。お久しぶりです、ファントムハイヴ伯爵!」「どうして、君がここに?」「異動になりました!」「そ、そうか・・」 セバスチャンは記録保管庫から事件の捜査資料を書き写すと、被害者達の写真を抜き取った。「では僕達はこれで失礼する。」 警察署を出たシエル達は、近くのカフェで昼食を取る事にした。「フィッシュ&チップスか。ロンドンで食べた物よりも美味いな。」「港町だから、新鮮な魚介類が入って来るので、ロンドンの物よりも美味しいのでしょう。」「そうか。それにしても、事件の被害者達は皆黒髪かブルネットか・・しかも、年齢が・」「坊ちゃんが、あの儀式に生贄にされた時と同じ年齢ですね。」 あの時、悪魔崇拝者達は全員セバスチャンに殺された筈だった。 だが、まだその残党が居るかもしれない。 シエルとセバスチャンは昼食を済ませると、カフェから出て、“ホーの丘”へと向かった。 そこは、何も無い所だった。「確か、ここだったな。」「ええ、確か最初の被害者・ジムはある儀式の最中に殺されたようです。」「ある儀式だと?」「妖精の国へ行く儀式だそうです。」「下らん、妖精なんて居る訳が・・」「悪魔を呼び出した坊ちゃんがそれを言いますか?」「うるさい。」「この“ホーの丘”は、妖精の国へと通じる“トンネル”があると、昔から噂されております。」「時間の無駄だったな・・帰るぞ、セバスチャン・・」 シエルがそう言ってセバスチャンの方を振り返ろうとした時、突然シエルの足元の地面が光り出した。「坊ちゃん!」「セバスチャ・・」 シエルがセバスチャンに向かって手を伸ばそうとした時、シエルは地中深くに吸い込まれてしまった。(妖精は、本当に居るのですね・・) セバスチャンは呆然としながら、シエルを吸い込んだ“穴”を見つめた。 いつまで、気を失ってしまったのか、わからなかった。 ただシエルにわかるのは、全身に広がって来る鈍い痛みだけだった。「う・・」 シエルが呻いて起き上がろうとすると、右足に激痛が走った。「セバスチャン、何処だ!返事をしろ、セバスチャン!」 シエルが呼べはすぐに自分の元に駆けつけてくれる執事は、何時まで経っても来ない。(どうなっているんだ・・) シエルが混乱した頭で周囲の状況を確認していると、丘の麓の方から、馬車の音と人の話し声が聞こえて来た。「カイト、本当に“ホーの丘”に・・」「リリー、間違いないって・・」「それにしても、こんな日に・・」 シエルは護身用の銃を取り出すと、話し声が徐々に近づいて来る事に気づいた。 海斗とリリー、ジェフリーが“ホーの丘”へと向かうと、一人の少年が自分達に銃口を向けている事に気づいた。「誰だ、お前達!?」「お前こそ誰だ?俺はジェフリー=ロックフォード。坊主、その身なりからして、貴族の子供か何かか?」「僕は、シエル=ファントムハイヴ伯爵だ。」「ファントムハイヴ伯爵・・ファントムハイヴ伯爵家の者か?」 自分の隣に立っていた恋人がそう呟いたのを、海斗は聞き逃さなかった。「ジェフリー、どうしたの?」「お~いジェフリー、どうした・・ってあれ、このガキは・・」 海斗達に遅れてやって来たのは、キットだった。「キット、そいつを知っているのか?」「知っているも何も、この子は失踪中のファントムハイヴ伯爵家の双子の片割れじゃないか!」「えっ・・」 海斗は、思わず目の前に居る少年の服装を見た。 シルクハットに上等な外出着、そして靴下留めと、ヒールのある編み上げブーツ。 どう見ても、16世紀の服装ではない。「どうしたの、カイト?」「リリー、もしかしたらあの子、俺達と同じかもしれない。」「え?」 海斗がリリーに、少年の服装を見て、彼が16世紀の人間ではなく、19世紀の人間なのではないかという事を話した。「カイト、どうした?」 ジェフリーとキットが謎の少年と睨み合っていると、海斗が自分達の方へと近づいて来た事に気づいた。「ねぇジェフリー、この子はきっと俺と同じなんだと思う。」「そりゃ一体どういう事だ?」「上手く言えないけれど・・“ホーの丘”にこの子が居るのなら・・」「もしかして、この子も“妖精”に連れて来られたというのか?」「“妖精”だと?」 海斗の言葉を聞いたシエルは、驚きの余り目を見開いた。「ジェフリー、この子怪我をしているし、うちの店まで連れて行きましょう。」 リリーはそう言うとシエルの右足に触れようとしたが、シエルに邪険に手を払われた。「僕に触るな!」「落ち着いて、わたしはあなたを助けようとしているの。」「助けなんて、要らない・・」 シエルはそう言って呻くと、そのまま意識を失った。「右足は骨折しているわね。」「“ホーの丘”でタイムスリップした時に、骨折したんじゃない?」「やっぱり、この子の服は、この時代のものじゃないわね。ブーツはオーダーメイドだし、杖もあなたが言う通り、19世紀のものね、カイト。」“ホーの丘”から気絶したシエルを馬車で白鹿亭へと運んだリリーは、シエルの右足の治療をしながら、海斗と話をしていた。「やっぱり、この子の服装は薄着だから、向こうの世界は夏だったんだろうね。」「キットとジェフリーが話していた“ファントムハイヴ伯爵家”の事が気になるなぁ。」「後でジェフリー達に聞いてみたら?」「そうする。」 シエルが白鹿亭のベッドの上で目を覚ますと、丁度部屋に“ホーの丘”で見た女性が入って来た。「あら、起きたのね。」「ここは?」「わたしの店よ。こんな所にあなたみたいな子供を連れて来るのはいけない事だけど、緊急事態だから仕方ないわね。」 そう言いながら女性―リリーがシエルに手渡したのは、鶏肉とハーブが入ったスープだった。 いつもセバスチャンが作ってくれた料理とは比べ物にならない程の粗末なものだったが、シエルは空腹だったのでそのスープを平らげた。「今は、何年だ?」「1589年1月よ。それがどうかした?」「そんな、嘘だろう・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月22日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。かつて、この地には、人間と魔族が共存して暮らしていた。魔族は魔界に、人間は人間界に。互いに干渉する事をせず、境界線を互いに彼らは守って生きて来た。しかし、その二つの世界の均衡を崩したのは、一人の人間と、吸血鬼の女だった。共に王家として民を統べる立場でありながら、彼らは最大の禁忌を犯した。二つの民族の血を濃く受け継いだ、子をこの世に産み出したのだ。―みろ、この子を。お前に瓜二つの顔をしているぞ。妻に抱かれた赤子は、碧みがかった切れ長の黒―両親の瞳の色をそれぞれ受け継いでいた。―名は、どうする?―有匡、この子は有匡だ。7年後、父・有仁によって人間として育てられた有匡は、戦へと向かう有仁を見送った。「父上、どうかご武運を。」「有匡、この国を頼む。お前だけが、この国の望みなのだ。」有仁は、そう言うと美しい装飾が施された懐剣を有匡に手渡された。「これは?」「母上の・・スウリヤの物だ。いつかお前に大切な人が出来たら、その時はこの懐剣をその人に渡しなさい。」「はい・・」「愛しているよ。」それが、有匡が父と交わした、最後の会話だった。有仁は、戦死しその遺体は王家の墓地に埋葬された。その日から、有匡は白と黒、灰色の世界で生きる事になった。有仁の死から、十年の歳月が経った。「有匡様、どちらにおられますか~!」「有匡様・・」「どこにもいらっしゃらないわ!」「あぁ、早く有匡様の子種が欲しいわ。」この世界には、六つの性別がある。男と女、そして第二性と呼ばれる、α、β、Ω。人口の大半を占めるβ、そして人口の約3%を占める、αとΩ。王侯貴族であるαと、その貴族や裕福な商人の奴隷や、娼婦・男娼であるΩ。Ωは、男女問わず子を産める、繁殖に特化した種。それ故に、人間界でも魔界でもΩの社会的地位が低い。第二次性徴期―所謂思春期を迎えた頃、有匡の第二性がαだと判明すると、王宮のΩの女官達が一斉に有匡の子種を欲しがり始めた。人間も魔物も、優秀なαの子種を欲しがる。半分吸血鬼―かつて神の一族であった高貴な血をひく有匡は、その命と子種を常に狙われていた。「祝福を!」「新しき王に祝福を!」十八となり、成人を迎えた有匡の戴冠式は、華々しく行われた。白貂の外套を纏い、司祭の前に跪いた有匡がその頭に戴いたのは、美しい宝石で彩られた王冠ではなく、茨棘の冠だった。「呪われよ!」「闇より生まれし忌み子に、神の呪いあれ!」楽園から追放された有匡は、戦場へと身を投じ、その手を血で汚してきた。いつしか、有匡は、こう呼ばれるようになった。“ブラッディー・ムーン(血まみれの月)”と。―見ろ、あれは、アリマサ様の・・―凛々しいお姿ね・・―きゃぁ、今わたしを見たわ!戦場から帰って来た有匡は、王に拝謁を済ませ、王宮から出て行こうとした時、王に呼び止められた。「今宵、そなた達の労を大いに労ってやろう。」その夜、有匡が王達に連れて行かれたのは、高級娼館だった。「陛下、わたしは・・」「何を言う。そなたは数々の女を篭絡して来たと聞いているぞ。現に、女達もそなたの事を熱く見つめておるではないか?」「外の風に、当たって参ります。」有匡がそう言って娼館から外へと出ると、一人の娘が、屈強な男達に取り囲まれて、今まさに犯されようとしている所に彼は出くわした。「その汚い手を、離せ。」「何だてめぇ、こいつは俺が買った娘なんだよ・・」有匡を睨みつけた男の首が宙を舞い、鮮血が辺り一面に飛び散った。「ひ、ひぃぃっ!」「この娘は、どうした?」「この娘は、親の借金のカタにここへ売られた貴族の妾腹の娘でさぁ。“商品”として売り出す前に、俺達が“味見”をしようと・・」「失せろ。」有匡の殺気を感じ、男達は蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。「娘、怪我は無いか?」「はい。」そう言って俯いた顔を上げた娘の顔を、紅い月が照らした。腰下までの長い金髪をなびかせ、血の如き美しい真紅の瞳をした娘と目が合った瞬間、有匡は心臓が激しく脈打つのを感じた。(何だ?)「お願い、抱いて・・」「あ、おい!」己の腕の中で気絶した娘を、有匡は娼館の中へと運んだ。「まぁ、その娘をお気に召しましたのね。」娼館の女将は、そう言って笑うと、有匡をこの娼館で一番良い部屋へと案内した。「どうぞ、ごゆっくり。」「待て!」女将の誤解を解こうとした有匡だったが、非情にも部屋の扉は有匡の前で閉められてしまった。「ん・・」「気がついたか?」「あの、さっきは助けて下さり、ありがとうございました。」「そなた、名は?」「火月・・炎の月という意味で、火月と申します。」「そうか。火月、わたしは有匡だ。事のなりゆきでそなたを抱く事になったが、わたしはそなたを抱かぬ。」「何故ですか?」「わたしは、嫌がる娘を犯すような趣味はない。仮にもそなたは妾腹とはいえ貴族の娘。借金が幾らになるかは知らぬが、わたしは・・」有匡がそう言って娘の方を見ると、彼女は有匡のズボンを脱がそうとしていた。「何をしている、やめろ!」「ごめんなさい・・」娘―火月は、苦しそうに息を吐きながら有匡から離れた。その時、彼女の全身から甘い蜜のような匂いが漂って来る事に、有匡は感じた。(こんな子供が、わたしの“魂の番”だというのか?)魂の番、それは稀に出逢ったら最後、心から惹かれ合う、繋がり合う事が出来る運命の相手。そのようなものは、昔話の中だけで、存在しないと思っていた。それなのに・・「あっ、あぁ~!」有匡は雄の本能を剥き出しにし、初めて会ったばかりの娘を貪るかのように、気遣いも優しさも無く、激しく抱いていた。欲望が爆ぜ、脳髄が焼き切れてしまうかのような激しい快感に襲われ、有匡は意識を失った。朝を迎え、火照った身体を冷やそうと有匡が夜着の上に外套を羽織って森の奥にある湖へと向かうと、そこには昨夜自分が抱いた火月の姿があった。「あ・・」「逃げるな。」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月22日
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熊よけの鈴をダイソーで買いました。気休め程度ですが、スリ対策としてリュックやバッグにつけようと思います。
2026年09月22日
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以前北海道旅行へ連れて行くぬい達は、パイロットハチワレと、プリンセスなハチワレとちいかわです。色々と気温とか調べていこうと思うのですが、まだ時間があるので無理しないようにします。
2026年09月21日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。一部捏造設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。遥か昔、妖狐と雷獣は共存していたが、いつしか互いに国を治めるようになってからは、宿敵同士として憎しみ合うようになっていった。月を神とする、雷獣の一族・紅牙族。炎を神とする、妖狐の一族。両者の間には、幾度となく血が流れた。憎しみは末代まで引き継がれ、それは互いの国が繁栄した現在に至っても、変わらない。そんな中、紅牙族の王家に生まれた王女・火月と、人間と妖狐との間に生まれた妖狐族の皇太子・有匡との縁談話が持ち上がった。「まぁ、どうしてあの子が?」「体のいい厄介払いでしょう。ほら、だってあの子は・・」「姉様、有匡様からお手紙が届いたの!」火月の義姉・美琴がそんな事を侍女達と話していると、そこへ火月がやって来た。「まぁ、良かったわね、火月。」「有匡様とお会いできる日が楽しみだわ!」火月はそう言うと、屈託の無い笑みを浮かべた。まだ幼い彼女は、自分と有匡の婚姻が、この国の将来を左右するものであるという事を知らずにいた。―火月様が・・―あんな子に、炎宵国の皇太子妃が務まるのかしら?―国王陛下も、色々とお考えがあるのでしょう。―それにしても、“あれ”はどうなっているのかしら?―さぁね・・女官達が噂をしているのは、火月の双子の兄・アルハンの事だった。アルハンは、生まれつき病弱で、その上ある事情を抱えており、それ故に王宮の奥深くにある塔に監禁されている。火月は、アルハンの元に毎日通っては、その日あった事を話していた。その日も、彼女は自分宛に届いた有匡の手紙を扉越しにアルハンに読み聞かせていた。「有匡様って、どんなお方なのかしら?早くお会いしたいわ!」「きっと火月なら、幸せになれるよ。」「ありがとう、アルハン!」扉越しに聞こえる、妹のはしゃぐ声が、アルハンの心を沈ませた。(いいなぁ・・火月は、何もかも持っていて・・)生まれてすぐ、ある事情から塔に監禁された自分と、王女として何不自由ない生活を送っている火月。同じ顔をしているのに、どうして自分だけが・・「アルハン、どうしたの?」「何でもないわよ。」「じゃぁ、また明日ね!」「あぁ・・」火月が塔から出て、王宮内にある自室へと戻ろうとしていると、廊下で女官達が何かを囁き合っていた。―ねぇ、あの噂は本当なの?―北方の蛮族が攻めて来るって・・―嫌ぁね。―火月様のご婚礼が控えているというのに・・「父様、北方の蛮族が攻めて来るって、本当なの?」「まぁ火月、一体何処でそんな話を聞いたの?」「女官達が話していたの。」「大丈夫だ火月、この国はわたし達が守るから、お前は安心しなさい。」「はい、父様!」そんな話を火月が家族と話していた頃、彼女の縁談相手である有匡は、中庭で剣術の稽古に励んでいた。「ま、参りましたっ!」「ここに居たのか、有匡。」「父上!」稽古用の木剣を執事に手渡した後、有匡は偵察から帰って来た父・有仁に抱きついた。「ますます剣の腕を上げたな。」「はい、いつか父上のような立派な兵士になりたくて、日々稽古に励んでおります!」「そうか、わたしは頼もしい息子に恵まれて幸せだな。」そう言って有仁が笑った時、そこへ彼の妻・スウリヤがやって来た。「帰って来たのか、有仁。」「ただいま、スウリヤ。」スウリヤは、第二子を妊娠中だった。「母上・・」「有匡はますますお前に似て来たな、有仁。」「そうか?ならば、もうすぐ産まれて来る子は、お前に似て美人だろうな。」「男だったらどうする?」「どちらでもいいさ、健康に産まれてくれれば。」「そうだな。」そんな和気藹々とした雰囲気の中、有匡達の元に一人の兵士がやって来た。「陛下、北方で反乱が起きました!」「わかった、すぐ行く。」「父上・・」「そんな顔をするな、すぐに戻って来る。それまで、母上達を頼んだぞ。」「はい・・」泣き喚き、どうか行かないでくれと父に縋りつきたいのを必死に堪え、有匡は笑顔で父を見送った。北方の蛮族が反乱を起こし、反乱軍が炎宵国の王都・ティエンカに迫って来るのは時間の問題であった。「荷物は必要最低限の物だけを詰めて持ってゆけ!」「母上、どうしても王宮を離れなければならないのですか?」「有匡、そんな顔をするな。お前はいずれこの国の王となるのだから。」「でも・・」「さぁ、行くぞ!」有匡とスウリヤ達は王都を離れ、東部にある離宮で避難生活を送る事になった。そんな中スウリヤは、第二子である神官を出産した。「おめでとうございます、元気な皇女様ですよ!」「そうか。」スウリヤは、腕に抱いた娘に、“艶夜”と名付けた。「可愛い・・」「これからは親子三人、力を合わせて頑張らねばな。」「え?」「皇后様、申し上げます!皇帝陛下が・・」有仁の訃報が届いたのは、スウリヤが神官を出産した直後の事だった。有仁の葬儀は、王都でしめやかに営まれた。(父上、どうして・・)有仁を喪い、有匡は悲しみに沈んでいた。一方、火月の十歳の誕生日パーティーが盛大に開かれ、各国から祝いの品々が引っ切り無しに届いた。そのパーティーには、有匡が国賓として招かれていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月17日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。火月は、幸せな頃の夢を見ていた。“先生!” 自分よりも年上で、博識な有匡の事を、火月はいつしか“先生”と呼ぶようになった。 二人はいつも一緒に居た。“ねぇ先生、おとなになったら、けっこんしてくれる?”“あぁ、約束だ!”“やくそくね!” それは、子供の頃に交わした、他愛のない約束だった。 平和で穏やかな日々は、戦争によって突然終わりを告げた。 火月は、家族と共に安全な国外へと避難する事となった。“戦争になったら、会えなくなるの?” そう言って不安がる火月に、有匡はこんな言葉を掛けてくれた。“大丈夫、また会えるよ。” 有匡は、火月に紅玉の耳飾りを贈った。“ありがとう、大切にするね。” それから、二人は離れ離れになった。 有匡は、戦争で名将軍と謳われた父・有仁を亡くし、敵国の捕虜となった。 捕虜となった有匡を待っていたものは、生き地獄そのものだった。 毎日長時間、薄暗く狭い炭鉱で働かされ、粗末な食事を与えられる日々。 少しでも反抗しようものなら、暴力が待っていた。(生き抜いてやる、何としてでも!) 成長した有匡は猛勉強の末に士官学校に入学し、首席で卒業し、幹部候補生の一人となった。 血統と家柄を重んじるラグナス皇国軍の中で、戦災孤児の有匡が大佐となったのは、ごく稀な事だった。 周囲からは、憧憬と嫉妬、そして畏怖の目で見られた。 捕虜だった頃の忌まわしい記憶は、有匡の記憶を大きく傷つけた。 その所為か、有匡は余り人と関わらないようにしていた。 いつしか、彼は“人嫌いの策士”と噂されるようになった。 だがそんな彼にも、一番大切にしているものがあった。 それは―「起きろ。」「ん・・」 火月が目を開けると、そこには長年おもいつづけていた有匡の姿があった。「先生・・」「火月、久し振りだな。」「ここは、何処ですか?」「ここは、ラグナス皇国軍本部だ。お前には、暫くここでわたしと暮らして貰う。」「えっ・・」「何をそんなに驚く事がある?お前は敵の捕虜となったのだから、当然だろう?」「捕虜・・」 有匡の言葉を聞いた途端、火月の脳裏にあの音楽祭で起きた惨劇の光景がよみがえって来た。「あの人達は・・」「皆、死んだ。わたしが殺した。」「どうして・・」「戦争に理由などない。あるのは無限に続く悲しみと憎しみの連鎖だけだ。」 有匡はそう言うと、恐怖に震えている火月を見た。「安心しろ、お前だけは、わたしが絶対に守ってやる。」「本当に?」「あぁ、本当だ。」 火月を抱き締めたい衝動に駆られたが、有匡はそれを堪えて彼女の部屋から出て行った。「大佐、こちらにおられましたか。」 有匡が火月の部屋から出ると、彼を見つけ、一人の青年が彼の元へと駆け寄って来た。「アレクシス、どうした?何か問題でも起きたのか?」「いいえ、何も問題はありません。ただ・・」「その顔だと、また誰かがわたしの事を色々と噂をしているのだろう。全く、暇な連中だ。」 有匡はそう言って部下を見ると、彼が両腕に抱えている手紙の束に気づいた。「それは?」「あ~、これは・・」 部下の戸惑った様子を見た有匡は、彼から手紙の束を受け取った。 それは案の定、自分宛の恋文だった。「これはわたしが全て処分しておくから、お前は仕事に戻れ。」「は、はい!」 廊下を走ってゆく部下を見送ると、有匡は手紙の束を抱えながら執務室へと入った。 中は外と同じように寒かったので、有匡は手紙の束を暖炉にくべた後、執務机の上に置かれている未決済の書類の山を見て溜息を吐いた。「これでよし、と・・」 書類の山を半分片づけた有匡が溜息を吐いていると、執務室のドアが荒々しく何者かにノックされた。「アリマサ、居るか?」「そのようにノックしなくても、居りますよ。」 有匡がそう言って執務室で書類仕事をしていると、そこへ有匡の上司であるフランク将軍が入って来た。「これは何だ!?」「何だ、とは?」 フランク将軍が有匡に見せたのは、一枚の写真だった。 そこには、有匡が火月を横抱きにしている姿が映っていた。「この金髪の娘は、あの歌姫ではないか!一体この娘とお前はどんな関係があるのだ!?」「彼女とは、ただの幼馴染です。それ以上でも、それ以下でもありません。」「それで、今その娘は何処に居るのだ!?」「それは、たとえ閣下であってもお教えする事は出来ません。」「相変わらず、食えない奴だな!とにかく、我が国とエーリシアとの関係は良好とはいえん。いいか、おかしな真似をするなよ、いいな!」「わかりました。」(うるさいジジイだ・・) フランク将軍が執務室から去った後、有匡は溜息を吐いて書類仕事を再開した。 同じ頃、火月は部屋から抜け出し、ラグナス皇軍本部の内部を散策していた。(ここは・・何処?) 広大で複雑に入り組んだ建物の中を歩いている内に、火月は迷子になってしまった。 部屋に戻ろうにも、何処をどう行けばいいのかわからない。(どうしよう・・)「もし、そこのお嬢さん、何かお困りのようですね?」 困り果てた火月の前に現れたのは、銀髪紅眼の青年だった。「あの、部屋に戻りたいのですが、どう戻ればいいのかわからなくて・・」「では、わたしがあなたの部屋まで案内しましょう。」「え、いいんですか!?」「困っている淑女(レディ)を助けるのは、紳士の仕事ですから。」 そう言った青年は、優しく火月に微笑んだ。「火月、こんな所に居たのか!」「先、先生・・」 二人の背後から氷のような冷たい声が聞こえ、彼らが振り向くと、そこには眉間に皺を寄せた有匡が立っていた。「殿下、このような所にいらっしゃるとはお珍しい。」「いやいや、偶には現場に出てみないとわからない事があるからね。」 青年と有匡の間に、ピリピリとした空気が流れている事に火月は気づいた。(何だろう?)「こちらの淑女とは、知り合いかい?」「はい、わたしの大切な客人です。」 有匡は少し苛立った様子で火月を青年から引き離すかのように、自分の方へと抱き寄せた。「おや、こんな時間だ。アリマサ、またね。」「ええ・・」 青年は去り際、火月にウィンクした。「先生、ごめんなさい。」「ここが敵地だという事を忘れるな。」「はい。あの、さっき僕を助けてくれた人は、先生のお知り合いなのですか?」「知り合いではない。あの方は、この国の皇太子様だ。」「え、えぇ~!」「そんなに驚く事はないだろう。あの方はいつも“銀の塔”にいらっしゃるから・・」「“銀の塔”?」「王族のみが住む事を許された場所だ。火月、あの方には余り近づかぬ方がいい。」「え、どうして?」「どうしても、だ。今お前の身分を知っているのは、わたしと、軍の上層部の者だけだ。今、お前の国とこの国との関係が悪いのは、お前も知っているだろう?」「はい・・」「むやみに出歩くな。わたしが留守にしている間、お前に何かあったら・・」 有匡はそう言うと、火月を見つめた。「部屋まで送ろう。」「ありがとう、ございます・・」(何だったんだろう、“あれ”は・・) 部屋に送り届けてくれた際に有匡が一瞬見せた、自分に向けてくれた笑顔の意味を知りたくて、火月はその日の夜、一睡も出来なかった。「今日はいつになくご機嫌ですね、サーシャ様。何か良い事でもありましたか?」「あぁ。今日皇国軍の本部に行ったら、天使に会えたんだ。」「天使、でございますか?」「金色の髪に、わたしと同じ紅い瞳をした美しい娘だったよ。何処かで会ったような気がする。」 ラグナス皇国皇太子・アレクサンドルは、温かい浴槽にその身を沈めながら、自分を睨んでいた黒髪の美丈夫の事を思い出していた。 彼とは、士官学校時代に何度か会った事があったが、余り親しくなかった。「サーシャ様、どうかなさいましたか?」「いいや、少し疲れていてね。君達はもう下がっていいよ。」「わかりました・・」 執事官達が自室から出て行った後、アレクサンドルは浴室から出ると、素肌の上にガウンを羽織り、冷たい夜風が吹くバルコニーへと出た。(これから、楽しくなりそうだ・・) 翌朝、火月が寝返りを打ちながら大きな欠伸をしていると、誰かが部屋の扉を激しくノックした。(誰?) 火月が恐怖で固まっていると、誰かが部屋の前から遠ざかってゆく足音が聞こえた。「なぁ、本当に居るのか、大佐の愛人?」「居るに決まってるって!だって俺、見たんだ、この前・・」「お前達、そこで何をしている?」 火月の部屋の前で騒いでいる兵士達に有匡がそう声を掛けると、彼らはまるで蜘蛛の子を散らすかのようにその場から逃げていった。(全く、人の噂というものは恐ろしいな・・) 有匡がそんな事を思いながら溜息を吐いていると、部屋の中から大きな物音がした。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月17日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。その日は、雲一つない快晴の日だった。「見て、綺麗な空!今が戦争中だなんて思えないや!」腰下までの長さがある金髪を揺らしながら、一人の歌姫はそう叫んで青空を見つめた。「火月様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、そろそろお時間ですよ。」「わかった。」歌姫―エーリシア連合国軍所属の高原火月は、音楽祭に出演する為、基地に来ていた。戦場で戦っている兵士達を慰める為、火月は音楽祭に出演している他の歌姫達と音楽祭を盛り上げた。音楽祭の盛り上がりが最高潮に達した時、“それ”は起きた。「何あれ?」「サプライズ?」観客達が口々にそう言いながら上空を見上げると、そこにはカラフルな落下傘が次々と地上に降りて来た。「え、あれ・・」観客達が地上に降りて来た者達が、敵国軍の兵士達だと気づいたのは、彼らのシンボルカラーである真紅の軍服が落下傘の陰から見えた時だった。「逃げろ、敵だ!」それまで歓声に包まれていた会場は、悲鳴と銃声、怒号に包まれた。「火月様、こちらです!」「一体何が起きているの!?」「それは、わかりません。それよりも早く・・うっ!」火月は、目の前で人が撃ち殺されるのを初めて見た。「嫌、しっかりして!」無駄だと知りながらも、火月は倒れた男の身体を揺さ振った。その時、無機質かつ冷たい靴音が火月の方へと近づいて来た。(敵の残党か・・)紅蓮の炎と漆黒の煙に包まれ、ラグナス皇国大佐・土御門有匡は、弾切れになった拳銃を床に投げ捨てると、携帯していたダガーナイフを取り出し、敵の残党へと迫っていった。その時、一陣の風が吹き、太陽の光が“敵”の姿を照らした。白磁のような肌、眩い光を放つ美しい金髪、そして上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。“せんせい、ぼくがおとなになったら、けっこんしてくれる?”幼い頃、大切な“誰か”と交わした約束。“あぁ、約束だ。”「火月、火月なのか・・?」「先‥生・・?」火月は、自分の前に立っている敵兵が、初恋の人である事に気づき、驚愕の表情を浮かべた。“大きくなったら、結婚しよう。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた大切な人は、自分に向かってナイフの刃先を向けていた。どうして、彼が敵軍に居るのか。何故、彼が“ここ”に・・「大佐、ご無事ですか!?」二人が互いに見つめ合っていると、そこへ一人の兵士が現れた。「あぁ。」「この女は、殺しますか?」「いや、この女は人質として価値がある。彼女はわたしに任せて、お前は先に行け。」「はっ!」有匡の部下が二人の前から去ると、有匡は冷たい目で火月を見た。「わたしと、共に来て貰おうか?」「嫌だと言ったら?」「力ずくで、連れて行くまでだ。」有匡はそう言うと、火月の鳩尾を殴って気絶させた。「済まない、火月。わたしを許されないでくれ。」有匡は火月を横抱きにすると、惨劇の舞台から去って行った。“こんな所に居た。どうして、泣いているの?”“僕の目が、気持ち悪いって。”“どうして、こんなに綺麗なのに。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた、有匡。彼と共に過ごした時間は、何よりも楽しかった。だが、別れの時は突然訪れた。“戦争になったら、会えなくなるの?”“大丈夫、また会えるよ。”別れの時、火月は有匡とあの約束を交わした。それなのに―(どうして、こんな形で再会ってしまったんだ。わたしは、お前の事だけを想っていたんだ。どうか、お前のあの笑顔が、曇らぬように、わたしは・・)有匡は、自分の膝上で眠っている火月の美しい金髪を優しく梳いた。(わたしは、この先どんな事があっても、お前を守る。だから、今は幼子のように眠れ、火月。)「ん、先生・・」火月が寝返りを打った時、彼女が耳につけていた紅玉の耳飾りが美しく光った。「ゆっくり眠れ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月17日
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表紙素材は、めばる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。女体化設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。その日は、百年に一度の大雪に見舞われた日だった。「寒いね。」「そうだね。道が凍っていなければいいけど。」町の人々がそんな話をしていると、湖の方から歓声が上がった。「なんだ?」「行ってみようぜ!」少年達が湖の方へと向かうと、一人の少女が氷の上で美しく舞っていた。赤く美しい炎のような髪をなびかせながら少女が華麗にジャンプを決めていると、そこへ一人の男がやって来た。(何だ、こいつ?)少女―海斗は突然の闖入者の出現に少しムッとしたが、気にせず練習を続けた。すると謎の男も、湖の端の方で滑り始めた。海斗は男が、自分と同じフィギュアスケーターだという事に気づいた。スピンやジャンプを見ても、どれも精度が高く、動きに無駄がなかった。『ねぇ、あんた何者?見たところ、只者ではなさそうだけど。』海斗の言葉に振り向いた男は、美しい金髪をなびかせながら、徐に掛けていたサングラスを外し、宝石のように碧い瞳で海斗を見た。『へぇ、俺の滑りをそこまで観察出来るとは、お前も“同業者”か?』(やっぱり・・)『あんた、名前は?』『お前の事を気に入った。また会おう。』男はそう言うと、海斗の唇を塞いだ。『何すんだ、この変態っ!』海斗はそう叫ぶと、男の頬を平手で打ち、湖から去っていった。(何なんだよ、あいつ!初対面でキスとか、ありえねぇだろ!)「たくっ、初対面でビンタとは・・赤毛のじゃじゃ馬娘か、気に入ったぜ。」湖から去っていく海斗の背中を見送りながら、男はそう呟くと、フッと笑った。「ただいま~」「お嬢様、お帰りなさいませ。」海斗が帰宅すると、リビング・ルームから母・友恵と彼女の友人達が談笑する声がした。彼女達に見つからないよう、海斗が忍び足で二階の自室へと向かおうとしたが、運悪くトイレに立った友恵に見つかってしまった。「あら海斗、帰っていたのね。」「ただいま。」「また湖へ行っていたの?練習も大事だけど程々にね。」「うん、わかっているよ。もう部屋に行ってもいい?」「ええ。そうだ、今夜の舞踏会には出席して貰うわよ。スケートもいいけれど、あなたももう少し社交界に興味を持ちなさい。」「わかったよ・・」今はスケートに集中したいのに、母・友恵は社交界で海斗の婿探しに躍起になっており、ことあるごとに海斗を社交界の集まりに連れ出そうとしたが、海斗は頑なに拒んでいた。しかし、今日はついていないらしい。「え、スケートリンクが使えない?」今夜練習の為に海斗が使おうとしていたスケートリンクへ連絡したが、その日スケートリンクは改修工事に入る事になり、暫く使えなくなる事がわかり、海斗は溜息を吐いた。「お嬢様、失礼致します。」海斗が溜息を吐いてスマートフォンの通話ボタンをタップした時、ノックの音と共に数人のメイド達が部屋に入って来た。「え、何?」「お嬢様、舞踏会まで時間がありませんよ。さぁ、お召し替えを。」「わかったよ・・」「では、失礼します。」寝台の柱に掴まった海斗のウェストを、メイド達がコルセットで締め上げ、海斗は思わず悲鳴を上げた。「海斗、用意は出来た?」「うん・・」いつもパンツスタイルでカジュアルな服装しかしなかった海斗だが、友恵が海斗の為に仕立てた舞踏会用のドレスに袖を通し、化粧までした娘の姿に満足した友恵は、そのまま彼女を連れてリムジンへと乗り込み、王宮へと向かった。「やっぱり、そのドレスはあなたに似合うわね。」「そう・・」コルセットでウェストが締め付けられ、海斗は王宮に友恵と共に入った時、もう帰りたいと思ってしまった。「海斗、どうしたの?」「コルセットが苦しくて、もう帰りたい・・」「そんな事で苦しむなんて、あなたはもう・・」社交界デビューを飾る事になった舞踏会は、海斗は着慣れないドレスの所為で最悪なものとなる―筈だった。“彼”が現れるまでは。―ジェフリー様よ!―社交嫌いのあの方がどうしてここに?―彼にダンスを申し込まれたいわ。そんな周囲の声と、自分に向けられる熱い女達の視線を受けていたジェフリーは、会場の隅でシャンパンをちびちびと飲みながら退屈そうにしている赤毛の娘の姿に気づいた。ペールブルーの裾にサファイアが縫い付けられたプリンセスラインのドレスを纏い、真珠のネックレスとイヤリング、髪飾りが、時折シャンデリアの光に照らされ、美しい輝きを放っていた。「皇太子様?」「きゃぁ、ジェフリー様がこちらにいらっしゃったわ!」海斗がシャンパンをちびちびと飲みながら“壁の花”になっていると、急に周りがざわめき出した。俯いた顔を上げると、黄色い悲鳴を上げている貴族の令嬢達の中心には、金髪碧眼の美青年の姿があった。(この人、どこかで・・)そんな事を思いながら海斗がその男を見つめていると、彼と目が合った。(え?)その碧い瞳が、湖で会った男のそれと同じものだという事に気づいた海斗は慌てて男から逃げようとしたが、男に腕を掴まれ、そのまま踊りの輪に加わる羽目になってしまった。『あんた、一体・・』『また会えたな。自己紹介が遅れて済まない、俺はジェフリー=ロックフォード、この国の皇太子だ。』『え、えぇ~!』海斗の叫び声は、音楽に紛れて聞こえなかった。『この後、二人きりで話さないか?お前の事をもっと知りたい。』『俺、もう帰らないと・・』海斗はそう言ってジェフリーから離れようとしたが、急に息が苦しくなり、男―ジェフリーの腕の中で気絶してしまった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年09月14日
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母から半分もらいました。しっとりとしていて美味しかったです。
2026年09月07日
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ダイソーとセリアで、リールキーホルダーを買いました。リュックにつけているハチワレのぬいぐるみにつけてみました。流石につけすぎですねwセリアで買ったリールキーホルダーにハチワレのマスコットをつけすぎたので、島衣装とまじかるちいかわのハチワレ、あとおにぎりマスコットのハチワレだけをリュックにつけました。 バランスよくなりました。おにぎりマスコットなハチワレが存在感凄いですwパイロットハチワレとナガノクマのパジャマハチワレは、ちいかわ筆箱につけました。
2026年09月07日
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Xで話題になっているハロウィンコスプレのチンチラちゃん、おばけチンチラはなかったのですが、黒猫コスプレのチンチラちゃんがあったのでお迎えしました。 ロフトで気になっていたぬいぐるみ。ランダムで、ユニコーンな馬さんが出ました。 シンデレラのお馬さんらしいです。 チンチラちゃんと一緒にしたら、可愛いです。THREEPPYで買った、リカちゃんのポーチ。プリンセスなハチワレ·ちいかわが2人とも入りました。
2026年09月05日
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月見バーガーの季節になりました。炙り牛すき焼き風月見バーガー。食べ応えがあっておいしかったし、チーズとすき焼きの風味との相性が抜群でした。
2026年09月05日
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今色々とちいかわマスコットをリュックにつけたり、リュックの中に入れたりしているのですが、北海道旅行にどの子を連れて行こうかなと悩んでいます。プリンセスなハチワレとちいかわは持っていく予定です。この子達も、連れて行こうかなと思っています。ただ、国内線の荷物が10キロ以内なんですよね。うーん、どうしようか。
2026年09月03日
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昨日届いたハチワレのおにぎりマスコットをリュックにつけたくて、Seriaで買った落下防止コイルをつけました。カラビナがプラスチック製なので、落下防止コイルでカラビナを開かないようにしました。ちょっと嵩張ってしまいました。
2026年09月03日
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今愛用のリュックにつけているハチワレのマスコットです。最近映画を観てからマスコットを集めるようになりました。ただ、置き場所に悩みますねw夏の間リュックにつけていたセイレーンちゃんと島二郎は、暫くお部屋で休んでもらうことにして、ハチワレまみれのリュックにしてみました。
2026年09月02日
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ちいかわもぐもぐ本舗のオンラインストアで注文したものが届きました。段ボールのイラストが可愛いです。ハチワレのおにぎりマスコットと、シマエナガになったハチワレマスコット、小樽限定の洋装ハチワレマスコットです。 北海道旅行ではちいかわもぐもぐ本舗小樽店に行きますが、そのときは小樽限定のちいかわとうさぎマスコットを買おうと思います。洋装ハチワレマスコットを、プリンセスなハチワレ·ちいかわと一緒に丸カラビナにつけました。大切に使います。
2026年09月02日
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ちいかわマーケットで注文したプリンセスなちいかわが届きました。プリンセスなハチワレと一緒に丸カラビナにつけました。
2026年09月02日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。 総司が出征した後、歳三が自室で彼への手紙を認めていると、突然外から誰かが玄関のドアをノックする音が聞こえた。「姉様、千鶴です。」「どうした?」「山南さんが、階下(した)に・・」「何だって!?」 歳三が千鶴と共に一階の客間へと向かうと、そこには蒼褪めた顔をした山南の姿があった。「山南さん、今まで一体何処に行ってたんだ?」「すいません、心配をお掛けしましたね・・」「話は後で聞くから、まずは休め。」 歳三はそう言うと、女中達にテキパキと指示を出した。「松本先生、山南さんは・・」「軽い肺炎に罹っているね。暫く静養して栄養がつくものを食べさせれば大丈夫だろう。」「そうか・・」 歳三は山南が回復するまで、かいがいしく彼の看病をした。「土方君、迷惑をかけてしまって申し訳ありません。」「謝る事はねぇよ。それよりも、一体何があったんだ?」「実は・・」 山南は、静かにこれかでの事を歳三に話し始めた。 神父として教会でミサをしたり、慈善活動をしたりする傍ら、密かに彼はソ連のパルチザンと連絡を取り合い、反政府運動へと身を投じた。「あんた、なんで・・」「土方君、あなたは弱者が虐げられ、強者だけが権力を握る社会に、一度でも疑問を抱いた事はありますか?」「まぁな。」「わたしはこの世を変えたいのです。その為ならば、命など惜しくありません。」「山南さん・・」「土方君、あなたにお願いがあります・・」 山南はそう言うと、歳三の耳元である事を囁いた。 それは、樺太経由でソ連へと亡命したいというものだった。「あんた・・」「見つかれば、わたしだけではなく、君にも迷惑が掛かります。しかし、わたしはもう、戦争へと突き進んでいくこの国に未来はないと思っています。」「本気なのか?」「えぇ。」「そうか・・」 二人の話を、勇は密かに聞いていた。「トシ、少しいいか?」「どうした、勝っちゃん?」「山南さんの事なんだが・・」「さっきの話を、聞いていたのか?」「あぁ。これから、どうするんだ?」「人が決めた事に、俺は何も口出しする気はねぇよ。」「そうか・・」 翌朝、歳三は山南を港まで見送りに来ていた。「山南さん、気を付けてな。」「ありがとうございます、土方君。」「山南さん、お元気で。」「千鶴君も、息災で居てくださいね。」「はい・・」「餞別だ。金は幾らあっても困らねぇだろう。」「助かります。」 遠くで汽笛が鳴る音が聞こえた。「では、わたしはこれで。」「また会おう。」「えぇ。」 山南と固く握手を交わした歳三は、彼が乗る船が水平線の彼方に消えるまで、山南の無事を祈った。「山南さんに、また会えますかね?」「会えるさ、必ず。」 数日後、山南が樺太経由でソ連へ渡った事が新聞で大きく報じられていた。「無事に渡れたんだな・・」「あぁ・・」 勇が歳三とそんな話をしていると、そこへ誠がやって来た。「母様、お客様がいらっしゃっています。」「客?こんな朝早くに?」「一体誰なんだろうな?」「さぁな。」 歳三と勇が誠と共に客間へと向かうと、そこには軍服姿の男がソファに座っていた。「あの、どちら様でしょうか?」「朝早くに申し訳ありません、わたくし、陸軍内務省の福田と申します。本日こちらへお伺いしたのは、土方様にお話がありまして・・」「俺に一体、何の話があるんだ?」「大変急なお話なのですが、土方様には近々満州へ赴いて頂きます。」「俺が、満州へ?」「はい。土方様には、現地の開拓団の指揮を・・」「それは、もう決まった事なのですか?」「はい。こちらとしては、出来るだけ早くお返事を頂ければと・・」「はぁ・・」 何処か奥歯に物が挟まったような言い方をした福田の態度を見て、歳三は彼に不信感を抱いた。「何だか、怪しいな。」「やはり、トシもそう思うか?」「後で陸軍の方に問い合わせてみる。」「そうした方がいいだろう。」 福田の事で陸軍に歳三が電話で問い合わせると、“そのような人物には心当たりがない”と言われてしまった。 彼は、詐欺師だった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。「姉様、千鶴です。」「入れ。」 子供を流産した歳三は、暫く病院に入院する事になった。「お身体の具合はどうですか?」「大丈夫だ。」 そうは言ったものの、歳三の顔色は冴えなかった。「一体、何があったのですか?」「拷問された。」歳三はそう言うと、浴衣の袖を捲り上げた。右腕には、赤紫色の痣が痛々しく残っていた。「酷い・・」「こんなの、流産に比べたら大した事ねぇよ。」「トシ!」病室の扉が大きな音と共に開き、勇が急に中に入って来て歳三に抱きついた。「流産したなんて、気づいてやれなくてごめんなぁ~!」「・・痛い、勝っちゃん。それに、苦しい。」「す、すまん!」「全く、声がデケェよ、ここは病院だぜ?」「すまん・・」「あんたは昔から変わってねぇな。」「はは・・」勇はそう言って笑うと、頭を少し掻いた。「じゃぁ姉様、また来ますね。」「あぁ、気を付けて帰れよ。」「はい。」 千鶴と勇は病院から出ると、行きつけの喫茶店へと向かった。「いらっしゃいませ。」「シベリアとアメリカンを二つ。」「かしこまりました。」「シベリア、お好きなのですね?」「あぁ。トシは甘い物が苦手でな、でも俺の前では強がってシベリアを注文したんだが、案の定半分残してしまってな。それを、俺が全部食べたんだ。」「そんな事があったのですね。」「雪村君・・いいや、千鶴君、昔も今もトシを支えてくれてありがとう。」「どうしたのですか、急に?」「実は、数日前にこんな物が届いてな。」 そう言って勇は、千鶴にある物を見せた。 それは、姿を消した山南からの手紙だった。「読んでもいいですか?」「あぁ。」 千鶴が勇から山南の手紙を受け取ると、喫茶店に一人の学生が何処か慌てた様子で入って来た。「それは・・」「あなた、どなたです?」「その手紙を、僕に・・」「何をするんですか、やめてください!」 千鶴が山南の手紙を奪おうとしている学生と揉み合いになると、そこへ警官達が雪崩れ込むように入って来た。「居たぞ、あそこだ!」 学生は軽く舌打ちした後、千鶴の手から山南の手紙を奪うと、店の裏口から出て行った。「一体、何だったんだ?」「さぁ・・」「怪我はないか、千鶴君?」「はい。」「トシさ~ん!」「うるせぇ、ここは病院だぞ!」「そうか。」「ねぇトシさん、山南さんと会った?」「いいや、会ってねぇが・・」「実は、僕達が行きつけの喫茶店で、大変な騒ぎが起きたそうだよ。」「山南さんは、今何処で何をしているんだろうな・・」「さぁ。」 歳三がそんな事を言いながら八郎と話していると、そこへ風間がやって来た。「てめぇ、何しに来やがった?」「そう尖るな。俺はただ、この前の返事を貰いに来ただけだ。」「この前の返事?」「貴様を俺の嫁に迎えるという求婚への返事だ。」「それならちゃんと断った筈だが?」「俺はまだ諦めておらんぞ!」「僕だって、トシさんの事を諦めていませんよ!」「うるせぇ、二人共出て行け!」 歳三はそう言って二人を病室からつまみ出した。「トシさん、開けてよ~!」「抜け駆けするな、貴様!」「病院では静かにして下さい!」 看護婦から病院を追い出されても、二人は自分こそが歳三の伴侶に相応しいのかどうかを互いに言い合っていた。「土方さん、お邪魔しま~す!」「うるせぇのがまた来やがった。何の用だ、総司?」「別に。ただお菓子を食べながら土方さんとおしゃべりしたいだけです。」「帰れ。」「嘘ですよ。僕、近々出征する事になったんです。」「お前、まだ学生だろう?」「えぇ。でも、山南さんの件で軍部からにらまれちゃって・・父が、“お国の為に尽くしたら、疑われずに済む”とか言って・・」「そうか、寂しくなるな。」「えぇ。だから土方さん、“今度こそ”近藤さんの事を頼みますよ。」「お前に言われなくても、わかっているよ。」「約束ですよ。」「あぁ、約束だ。」 かつて実の兄弟のように動乱の時を共に過ごした歳三と総司は、互いの手を握り合った。 数日後、総司は出征した。「総司、元気でな。」「えぇ、土方さんも。千鶴ちゃん、土方さんをちゃんと見張っていてね、この人危なかっしいから。」「わかりました。」「必ず、生きて帰って来い。」「大丈夫ですよ、僕はそんなに簡単にくたばりませんから。」「あぁ、そうだな・・」 総司を乗せた汽車が見えなくなるまで、歳三と千鶴は彼に向かって手を振った。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。「トシ、その髪は・・」「千鶴に切って貰った。」「そ、そうか・・」 そう言った勇が落胆しているのを見た歳三は、昔自分が洋装に合わせて髪を切った時の事を思い出した。―トシ、その髪は・・―あぁ、これか?洋装に合わせて切った。戦場だと短い髪の方が楽だからな。―そうか。「そんな顔をするなよ、勝っちゃん。俺は男として生きる事を決めたんだ。」「そうか・・トシ、これからどうするんだ?」「どうするも何も、まずは銀行から借りた金の返済方法を探さねぇと・・」「義父上が、トシにこの手紙を渡してくれと・・」 勇はそう言うと、歳三に一枚の封筒を手渡した。“歳三へ、お前がこれを読んでいる頃には、わたしはもう天国の住人となっているのだろう。この鍵を、困ったときに使いなさい。” 封筒に入っていたのは、一本の鍵だった。 その鍵を持って、歳三はある場所へと向かった。「土方様、ようこそいらっしゃいました。どうぞ、こちらです。」 銀行の者に案内され、歳三は土方家の貸金庫へと向かった。 その中には、ダイヤモンドやルビー、エメラルドなどの宝石が入っていた。「ほぉ、これは非常に価値のある物ですな。」 知り合いの宝石商にそれを鑑定して貰うと、かなり価値が高いものだとわかった。「これでいいんだな?」「あ、あぁ・・」 こうして、土方伯爵家は守られた。「千鶴、何処へ行くんだ?」「教会です。」「最近、ミサの回数が減っているって聞いたぜ。」「えぇ、何でも山南さんは特高に目をつけられているそうで・・」「きな臭ぇ時代になったもんだな・・」 1931年9月18日。「トシさん、大変だ!」「どうした、八郎?」「こんなものが、配られていて・・」それは、満州事変を知らせる号外記事だった。「日本はこれからどうなってしまうのでしょう?」「さぁな。」 満州事変から6年後―1937年7月7日、北京郊外の盧溝橋付近で日中両軍が衝突、日中戦争が勃発した。「母様、おはようございます。」「おはよう。」「誠お兄様はもう学校へ行かれました。」「そうか。」 土方家の穏やかな時間は、突然の来訪者によって破られた。「ここに、山南敬助はいるか!?」「何なんだ、あんたら!?」「トシ、一体何があったんだ?」「わからねぇ・・」「この家の主を出せ、話はそれからだ!」「俺がこの家の主だ。」「貴様、山南敬助神父と親しいようだな?彼奴が社会主義者と知っていたのか?」「悪いがそんな事知らねぇな。それに、山南さんの場所なんて知らねぇ。」「とぼけるな!」 土方家に突然入って来た警官の一人が、そう叫ぶと歳三の頬を張った。「母様!」「トシ!」「貴様には色々と聞きたい事がある。我々と共に来てもらおうか?」「母様と何処へ連れて行く気だ!?」「千歳、誠と千鶴には俺はすぐに帰ると言っておけ!」「母様~!」 買い物から帰宅した千鶴は、誠から歳三が警察に連行された事を知り、倒れそうになった。「あぁ、何て事・・」「山南さんが社会主義者だなんて・・勝先生に連絡しないといけないな。」 勇はそう言うと、勝弁護士に連絡した。「全く、一体どういう事だぁ?」「それが、わたし達にもわからないのです。トシが心配で堪りません・・」「なるべく、手を尽くしてあいつを助けてやるよ。」「どうか、お願いします。」 一方、警察署に連行された歳三は、取調室に連れて行かれた。「服を脱げ!」「嫌だね。」「仕方ない。では、こちらが貴様の服を脱がせてやろう。」「やめろ!」 警官達によって裸に剥かれた歳三は、その裸体を晒され、屈辱で死にそうだった。「俺をこれからどうする気だ?」「知れた事。お前をこれから公衆の面前で辱める。」「やれるものなら、やってみやがれ!」「ほう・・この俺の拷問にどこまで耐えられるのか、試してみるとするか。」 警官の一人―有田は、そう言うと握っていた木刀を歳三の頭上に振り翳した。「先生、大鳥先生、いらっしゃいますか!?」「どうしたんだい、千鶴君?」 その日の真夜中、大鳥圭介は千鶴が何処か慌てた様子で病院に駆け込んで来るのを見て、何かが起きたのだと第六感でわかった。「姉様が・・姉様が大変なんです!」「わかった、すぐに行こう!」 大鳥が土方家へ向かうと、そこには脂汗を浮かべながら呻いている歳三がソファに横たわっていた。「土方君、しっかり!」「子供・・」 歳三は一命を取り留めたが、腹の子は流れた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。「愚問だな。今日俺達は、土方伯爵に会いに来たのだ。金を回収しにな。」「返済期限は一月以内だと新見さんから聞いたが・・」「うちの銀行も、この大恐慌の煽りを受けて経営が苦しくてな。一月など待てぬから、こうして来てやったというのに、茶ひとつださんとは・・」「母様、今日・・」「誠、ここに来たちゃいけないだろう!」 客間に入って来ようとした勇を、慌てて千歳は止めたが、間に合わなかった。「ほう、その子らがお前の息子達か?」 芹沢に視線を向けられ、双子達は恐怖に怯えながら母の背に隠れた。「ふん、男の癖に人見知りとは、情けない。」「二人共、部屋へ行っていろ。」「・・はい。」 双子が客間から出るのを見送った後、歳三は芹沢達に向き直った。「それで、あんた達は一体、俺に何を望むんだ?」「漸く本題に入れそうだな。」 芹沢はそう言うと、口端を歪めて笑った。「土方、貴様この前風間千景に求婚されたそうだな?」「それがどうした?」「その返事は、まだしていないのか?」「あぁ。俺にはまだ、やる事がある。」」「それは何だ?この家を継ぐ事か?」「そうだ。」 歳三の言葉を聞いた芹沢は、大きな声で笑った。「何がおかしい?」「女の癖に家を継ぐだと?女の幸せは、良い家に嫁ぎ、その家の跡継ぎを産む事だ!」「そんなもの、俺には似合わねぇ!」「全く、貴様は昔から変わっておらぬな。女としてこの世に生を享けたというのに、お前は安寧な暮らしよりも、戦場で名誉ある死の方を望むのか?」「俺ぁ、あの人を守れるのなら、他に何も望んじゃいねぇさ。」 暫く歳三と芹沢が睨み合っていると、客間に血相を変えて千鶴がノックもなしに入って来たので、父の身に何かあったのだと歳三は第六感でわかった。「千鶴、どうしたんだ?」「姉様、父様が・・」 涙で潤んだ琥珀色の瞳を歳三に向けた千鶴は、隼人が血を吐いた事を告げた。「父さん!」「来てはいけない、歳三!お前まで伝染ってしまう!」 苦しそうに咳込んだ隼人は、慌てて自分の方へと駆け寄ろうとする歳三をそう叫んで制した。 その白い指の隙間から、赤い鮮血が滴り落ちていた。「千鶴、松本先生をすぐに呼んで来い!」「は、はい!」「歳三、わたしに何かあったら、弁護士の勝海舟先生を頼りなさい・・」「父さん・・」「歳三、わたしはお前が産まれ、その美しい紫の瞳と目が合った時、お前は平凡な生を望まず、戦火の中で散る事を望んでいるとわかった。」 隼人はそう言った後、歳三の手を握った。「歳三、皆を頼む。」「わかった。」 隼人は喀血してから数日後、静かに息を引き取った。 彼は漸く、妻の墓の隣で永遠の眠りに就いた。「これでもう、父様と母様はずっと一緒にいられますね。」「あぁ・・」 歳三と千鶴が墓地から帰宅すると、居間では親族達が遺産の事で揉めていた。「千鶴、お前ぇに頼みてぇ事がある。」「わかりました・・」 歳三の横顔を見た千鶴は、何かを悟った。「俺の髪を切ってくれねぇか?こんな事、お前ぇにしか頼めねぇんだ。」「はい・・」 紅い櫛で千鶴は歳三の髪を梳くと、鋏を手に取った。 ザクリという音と共に、一筋の黒髪がはらりと床に落ちたのを見た瞬間、歳三は女を捨て、男として生きる覚悟を決めた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。 1929年元日。 この日、土方家では新年を祝う宴が開かれていた。「誠ちゃんと千歳ちゃんも、すっかり大きくなったわねぇ。」「えぇ。」「歳三さん、あなたこれからどうする気なの?」「父の会社を継ぐつもりですよ。」「馬鹿言っちゃいけないよ、女のあんたが男と肩を並べて働けるもんかね。」「やらなければわからないでしょう?」「可愛気のない子だねぇ、妹とは大違いだよ。」「可愛気がなくて結構です。」 歳三は富貴子に背を向けると、息子達の方へと向かった。「あ、母様!」「これ、主計兄様に頂いたんです。」「ちゃんと相馬にお礼は言ったのか?」「はい!」「そうか、じゃぁ向こうで遊んでおいで。」「はい!」 誠と千歳は元気よくそう返事をすると、中庭で駒を回し始めた。「二人共、大きくなりましたね。」「あぁ、最近お前ぇ晶とやけに親しいみたいだが・・」「晶君は、将来小説家になりたいそうです。」「へぇ・・知らなかったな。」「それにしても、奥様は何故、土方さんを目の敵にしていらっしゃるのです?」「さぁな。」 歳三はそう言うと、相馬と共に子供達が居る中庭へと向かった。「二人共、寒いから中に入りなさい。」「は~い。」「失礼、こちら土方隼人様のお宅でしょうか?」「えぇ、そうですけれど、あなたは?」「自己紹介が遅れてしまいました、わたしはこういう者です。」そう言って男は、一枚の名刺を歳三に手渡した。「父さん、銀行の方が・・」「わかった、すぐ行く。」 隼人に歳三が銀行員・新見の来訪を告げると、彼はそう言って新見と共に客間へと入っていった。「一体銀行の方がどうなさったのでしょう?」「さぁ。」「これは一体どういうつもりだ!?」「その書類通りですよ。今まで当行がそちらに融資していた額を、全額返済して頂きます。」「何とか待てませんか?」「では、一月待ちましょう。」 新見が客間から出た時、彼はこちらを睨みついている歳三の存在に気づいた。「てめぇ、何しに来た?」「久しぶりだね、土方君。」 新見はそう言うと、口端を歪めて笑った。「さっき父さんと何を話していたんだ?」「こちらで融資していた金を一月以内に全額返済するようにと、あなたのお父様に話しただけですよ。」「もし、それが出来なかったら?」「この家は競売にかけられる事になるでしょうな。」「何だと・・」「まぁ、せいぜい頑張ってくださいね。」 新見が去った後、歳三は苛立ちの余り、履いていた草履を脱いでドアへと投げつけた。「歳三。」「父さん、新見さんとの話は本当なのか?」「あぁ。だが心配するな、お前達に苦労をかけさせるような事はしない。」「余り無理しないでくれ。」「わかったよ。」 隼人はその日から金策に走り回った。 だが無理をした所為で、彼は過労で倒れてしまった。「父さん、俺が何とかするから、ゆっくり休んでくれよ。」「済まないな、歳三。」「旦那様、銀行の方がお見えです。」「俺が会う。」 父の寝室から出て客間へと入った歳三は、そこであの男と再会した。「久しいな、土方。」「芹沢さん、何であんたがここに?」―第二章・完―にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。千鶴が言っていたように、妊娠出産は甘くなかった。“産んで終わり”なのではなく、“産んでから一人前に子を育てる”事こそが大変なのだと、誠と千歳に乳をやりながら歳三はそう実感した。 赤子は、大人の都合などを考えずに、空腹を訴える。 千鶴は家事や育児、夫の仕事の顧客相手や仕事仲間、更に近隣住民との交流などをそつなく完璧にしていた。 自分よりも夫や子供を優先し、自分が体調不良でもそれをおくびに出さない彼女が病に倒れてしまったのは、半分は自分の責任だと歳三は感じていた。 仕事と並行して、家事や育児を手伝っていた“つもり”だった。(敵わねぇな・・) 自分の無力さを、これ程までに歳三が思い知ったのは、生まれて初めてだった。「歳三さん?」「あ、ちょっと考え事をしていた。」「そうですか。」「俺ぁ、今までこんな大変で辛くて、先の見えない仕事をお前ぇ一人でさせてきたんだな。」「母というものは、血を分けた子の為なら我が身を差し出せます。貴方と過ごした宝石のような思い出は、そのままこの子達に引き継がれるんです。それって、とても凄い事ではありませんか?」「そうだな。」 歳三はそう言うと、ベビーベッドで眠っている我が子達の寝顔を慈愛に満ちた目で見つめた。「歳三お嬢様、富貴子様がお呼びです。」「お義母様が?」「はい・・お子様達の事で。」「わかった。」 不吉な予感が、歳三の胸をざわつかせた。「あらぁ、少しやつれたわねぇ。」「お話しとは、何でしょうか?」「あなた、あたしに嘘を吐いたね。」「は?」「父親について前に一度尋ねたら、あなた“知らない男に辱められた”って言ったよね?」「えぇ・・」「まさか、勇さんとの子だったなんてね。」「貴方の父親には、この事を黙っておいた方が良かろうよ。但し、条件がある。」「条件?」「双子のうちどちらか一人を、養子へ出しな。そうだねぇ、病弱な誠にしよう。」「そんな事はさせねぇ!」「そうかい。貴方がその気なら、こっちだって考えがある。」「富貴子様、旦那様がお帰りになられました。」「すぐ行くわ。」 歳三は富貴子と共に、隼人を出迎える為玄関ホールへと向かった。 そこには、昔自分から新選組局長と『誠』の心を引き継いだ男が立っていた。「相馬・・」「歳三、相馬君と知り合いなのか?」「えぇ・・」「あらぁ、こちらの方がうちで世話をする事になった書生さん?」「あぁ、相馬主計君だ。相馬君、長女の歳三だ。」「歳三です。」 相馬と握手を交わした時、歳三は突然眩暈に襲われ、よろめいた。「大丈夫ですか、副長?」「お前・・」「後で話しましょう。」 相馬はそう言うと、歳三から離れた。「相馬さんは、何処から来たの?」「茨城から来たんだ。余りお国訛りを出さないようにしているけれど、難しいな。晶君、その帳面は?」「僕の宝物だよ。」「後で見てもいいかい?」「いいよ!」 相馬は夕食の後、歳三と土方家の図書室へと入り、そこで初めて“彼”と向き合った。「久しぶりだな、相馬。」「副長・・お前ぇにだけ重てぇ荷物を背負わせて済まなかったな。」「いいえ、あの時の選択は間違っていないと・・貴方から新選組を引き継いだ事は後悔していません。」「そうか・・」「先程、近藤さんにもお会い致しました。まさかお二人が兄妹なんて、信じられません。」「義理の、だけどな。」「お嬢様、こちらにいらっしゃったのですね!」 図書室の扉が突然開き、泣きじゃくる誠を抱いた女中が部屋に入って来た。「どうした?」「誠様が、また・・」「お前は仕事に戻れ。」 女中から誠を受け取った歳三は、そのまま彼に乳をやった。「あの、その子は・・」「俺の子だ。生まれてからもうすぐ二月目になる。」 歳三は誠にげっぷをさせ、彼の背中を優しく叩いた。 その時、相馬は彼と目が合った。「抱いてみるか?」「は、はい・・」 恐る恐る相馬がソファに座りながら誠を抱くと、彼は突然不満そうな声を出して暴れ出した。「どうすれば・・」「あ~、こいつは縦抱きじゃないと嫌なんだ。」「そうなのですか・・」「こいつの兄貴・・千歳の方は横抱きでも添い乳でもいいんだが・・」「ちょっと待って下さい、もう一人居るんですか?」「俺が産んだのは双子だが、それがどうした?」「そんなの、聞いていません!」「おい、誠を落とすな!」「す、すいません。」 こうして、かつての部下と上司の奇妙な共同生活が始まった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。「話ってなんだ?」「なぁ土方さん、近藤さんとあんたが男女の関係になった事を、千鶴は気づいているぜ。」「そうか・・あいつには悪い事をしちまったな。」 歳三はそう言うと、コーヒーを一口飲んだ。「なぁ土方さん、千鶴はあんたの事を今でも愛しているんだ。だから、あいつの気持ちを少しは気遣ってやれないかな?」「・・近藤さんとは、あんな別れ方をしたから、義理の兄妹として再会して嬉しくなって舞い上がっちまったのかもしれねぇ。」「ちゃんと千鶴と話し合え。」「わかった。今日はありがとうな、左之。」「良いって事よ。それじゃ、家まで送っていくぜ。」「済まねぇな。」「女を守るのが、男の役目だ。」 左之助と共に帰宅した歳三は、自宅の前に見慣れない高級車が停まっている事に気づいた。「何だ、これ?」「歳三姉様、お帰りなさいませ。」「千鶴、あの車は?」「風間さんが、うちに・・」「風間が?」 歳三が千鶴と共に自宅の客間に入ると、そこにはソファーで優雅に紅茶を飲んでいる風間千景の姿があった。「てめぇ、ここに何しに来やがった!」「愚問だな、歳三。俺は、貴様に求婚しに来たのだ。結納の品はこちら側で用意する故、お前はその身ひとつで俺の元へ来ればいい。」「何勝手な事抜かしてやがる。」「姉様・・」「まぁまぁ歳三様、落ち着きなさいな。今すぐにという訳ではないのだから・・」「俺は・・」「今日のところは失礼するとしよう。」 風間が客間から出て行った後、歳三は溜息を吐きながら頭を掻き毟った。「風間の野郎、ふざけやがって・・」「まだ正式に決まった訳ではありませんし・・」「そうだな。それよりも千鶴、この前はお前ぇを傷つけちまって、申し訳ねぇと思っている。」「歳三さん・・」「昔、俺が言った事をまだ気にしているのなら、それは俺の所為だな。」「歳三さん・・」「昔、俺が言った事をまだ気にしているのなら、それは俺の所為だな。」 歳三はそう言うと、千鶴の涙を優しく掌で拭った。「大丈夫だ、俺はお前を悲しませたりはしねぇよ。」「歳三さん・・」歳三の身体に異変が起きたのは、彼女が勇に抱かれてから二月経った頃だった。 その日、歳三はいつものように家族と朝食を取っていた。 しかし、炊き立てのご飯の匂いを嗅いだ途端、歳三は激しい吐き気に襲われ、彼女は慌てて口元を押さえて厠へと走っていった。「姉様、まさか・・」「そんな・・そんな事、ある筈が・・」 歳三は、そのまま気を失った。「歳三さん!」 チリンチリンと、縁側で風鈴が軽やかな音を立てていた。 歳三は団扇でいつの間にか遊び疲れて眠ってしまった息子の、自分に良く似た絹糸のような黒髪を優しく梳きながら、扇いでいた。―もし俺が女として生まれていたら、あの人の子を腕に抱いていただろうな。―歳三さん、わたしは・・―済まねぇ、忘れてくれ・・―大丈夫です、きっとまた、近藤さんと会えますよ。だから、その時は・・“わたしの事など、忘れて下さいね。”「千鶴、何処だ!」「姉様、わたしはここです。」 歳三が目を開けると、そこには自分の手を握っている千鶴の姿があった。「俺、どうして・・ここは・・」「姉様のお部屋です。姉様、革屋でお倒れになられたのですよ。」「あぁ、そうだったな・・」「姉様、妊娠されているのでは?」「そうかもしれねぇ。月のものが遅れているから・・」「どうなさるのですか?」「産むさ、それ以外に何も考えられねぇ。」「姉様、いいえ歳三さん、昔産婆として働いていたわたしの立場から言わせて貰いますが、妊娠出産は甘くありません。下手すれば母子共に命を落としてしまう事だってあるんです。」「俺は、この子を殺して堕胎罪で牢屋にぶち込まれた方がいいって言うのか?」「いいえ。わたしは同じ女として、歳三さんのお手伝いをしたいのです。」「千鶴、お前ぇ・・」「辛くて苦しい事も、二人で分け合えば大丈夫です。」「ありがとう・・」 かつて苦楽を共にした二人は、今世でも互いの手を取り合って生きてゆく事を誓い合った。 だが、現実はそんなに甘くなかった。「産みたいですって!?冗談じゃないわ!」「父親は誰だ、言いなさい!」そう自分に詰め寄る父親と継母に対し、歳三は頑なに父親の名を言おうとしなかった。「ふん、強情な子ねぇ、誰に似たんだか。」 歳三は女学校を休学し、出産への準備を千鶴とした。「きっと丈夫な子が産まれますよ。」「あぁ、そうだな。」 1924年5月5日―奇しくも、その日は歳三の14歳の誕生日だった。 彼女は、双子の男児を産んだ。「おめでとうございます、歳三さん。この子達の名前は、もう考えていらっしゃるのですか?」「あぁ・・誠と千歳だ。」「良い名ですね。」「トシ、産まれたか!?」「あぁ。勝っちゃん、抱いてくれ。」「可愛い子だなぁ。将来はトシに似て、美人になりそうだ。」「男なのに美人はねぇだろ?」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。 朝日が昇る前の、青白い月が東の空に昇る頃、歳三はゆっくりと目を開けた。「おはよう。」「お、おはよう勝っちゃん・・」 歳三はゆっくりと寝台から起き上がろうとしたが、腰に激痛が走ったので、彼女は思わず悲鳴を上げた。「昨夜は、お前に無理をさせたな・・」「あぁ・・」(そうだ、俺は昨夜勝っちゃんに・・)「どうした、トシ?顔が赤いぞ?」「な、なんでもない!」 歳三はそう叫ぶと、シーツを頭から被った。「歳三はまだ起きて来ないのか?」「わたしが姉様の様子を見て来ます。」 朝食の時間になっても起きて来ない歳三の様子を千鶴が見に行くと、歳三は自分の部屋には居なかった。「どうしたんだ、千鶴?」「勇兄様、歳三姉様は何処にいらっしゃるのですか?」「あぁ、トシなら、俺の部屋で休んでいる。」「勇兄様のお部屋で?」「あぁ。最近無理をし過ぎて体調を崩してしまったみたいだ。」「わかりました、当様にはわたしの方からそう伝えておきます。」「頼む。」 千鶴がそう言って勇の部屋のドアを閉めた後、寝台で眠っている歳三の白い足が見えた。「そうか。歳三が風邪を・・」「珍しい事もあるのですねぇ、丈夫な歳三様がお風邪を召されるなんて。」 そう言ったのは、隼人の三番目の妻で、千鶴達にとっては三番目の継母となる富貴子だった。「姉様、千鶴です。朝食をお持ち致しました。」「おう、入れ。」「失礼致します。」 千鶴が朝食を載せたワゴンを押しながら部屋の中に入ると、歳三は寝台の中で上半身を起こしながら本を読んでいた。「済まねぇな。」「いいえ。」 朝食の膳を歳三の前に置くと、彼女はそれに手を合わせた。「頂きます。」歳三がそう言って箸を手に取った時、千鶴は彼女の首筋から胸元にかけて薔薇色の痣が散っている事に気づいた。 それを見た時、千鶴は全てを悟った。「千鶴、どうした?」「いいえ、何でもありません。」「少し頼みてぇ事があるんだが、いいか?」「はい。」 千鶴は学校が終わった後、初めて試衛館道場を訪れた。「千鶴ちゃん、久しぶりだね。」「沖田さん・・」「ここで立ち話も何だから、中へ入ったら?」「え、千鶴!?お前本当に千鶴なのか?」「やだなぁ平助、もう千鶴ちゃんの事を忘れたの?」 総司はそう言うと、平助を小突いた。「土方さん・・歳三姉様から言伝を預かりました。“近藤さんには皆の事は俺の方から後で伝える”と。」「わかった。それよりも土方さんは?」「今日は風邪をひいてお休みだそうです。」「珍しいなぁ、あのトシさんが風邪なんて。」 八郎はそう言いながら何処かへ行こうとしていた。「トシちゃんの見舞いには行くなよ、八郎。」「え、左之さん何でわかったの?」「お前の態度を見たらバレバレなんだよ。」 左之助はそう言った後、千鶴を見た。「原田さん、あの・・」「わかった、後で話そうぜ。」「左之さん、僕も・・」「八郎、俺達はこれから内緒話の時間だから、大人しく家に帰りな。」「え~!」「諦めなよ、伊庭君。」「それじゃぁ、行こうか、千鶴?」「はい・・」 試衛館道場から出た左之助は千鶴を連れて、いつもの喫茶店へと向かった。「ミルクセーキと、コーヒーひとつ。」「かしこまりました。」 左之助は店員に飲み物を注文した後、千鶴の方へと向き直った。「そうか・・土方さんと近藤さんが・・」「何だか、わたし今混乱していて・・」「そりゃぁ、前世では一応お前と土方さんは夫婦だったんだし・・」「歳三さん、亡くなる前に誠・・息子をあやしながら言ったんです。“もし俺が女だったら、あの人の子供をこの胸に抱けたのかな”って・・歳三さんは、ずっと・・」「あのな千鶴、そんなに卑屈になる事はねぇよ。あの二人は、ずっと一緒だったからな。それに、土方さんはお前の事をちゃんと見てくれているじゃねぇか。」「そうですね・・」「さてと、暗い話はもうやめだ!」「はい!」「やっぱり、お前は泣き顔よりも笑顔の方が似合うぜ。」 左之助はそう言うと、千鶴に微笑んだ。 数日後、歳三はいつものように女学校から出て防具や道着などが入っている袋を竹刀と共に肩に担いで校門から出ると、そこには左之助の姿があった。「土方さん、ちょっといいか?」「・・あぁ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。「風間千景・・」 歳三は目の前に立っている少年を見た。 半世紀以上経っても、その名を忘れた事などは一度もなかった。 “あの頃“、京で、宇都宮で、そして蝦夷地で幾度となく刃を交えた鬼。 ―貴様はもはや紛い物の鬼ではない・・鬼としての名をくれてやろう。「今更、俺に何の用だ?」「決まっている・・前世では果たせなかった約束を、今世で果たすまでだ。」「千鶴は、お前には渡さねぇ!」 歳三がそう叫んで殺意と闘志で滾らせた菫色の瞳で少年―風間千景を睨むと、彼は口端を歪ませて笑った。「勘違いするな、元女鬼には興味はない。」 風間はそう言った後、歳三の前に跪いた。「てめぇ、これは何のつもりだ?」「見てわからぬか、貴様に求婚しているのだ。」「きゅ、求婚だぁ!?」「今日はもう遅い。また改めて貴様に求婚してやるから、待っていろ。」 風間はそう言うと、歳三に背を向けて闇の中へと消えていった。「何だ、あれ・・」「風間さんは、昔から歳三さんに惚れていたのですよ。」「そうだったのか?」「えぇ、そうですよ。まさか、今まで気づいていなかったのですか?」 自分の問いに、沈黙で答えた歳三の姿に、千鶴は内心苦笑した。「トシ、千鶴、遅かったな?」「あぁ。勝っちゃん、明日話せるか?」「何かあったんだな?」「詳しい事は明日話す。」「わかった。二人共部屋でゆっくり休むんだぞ。」「お休み。」 歳三と千鶴はそれぞれ自室に戻って休んだ。 だが歳三は眠ろうとしたが、目が冴えて眠れなかった。 本を読もうと図書室へ向かおうとした時、くぐもった呻き声が勇の部屋から聞こえて来た。(勝っちゃん、具合でも悪いのか?)「トシ、トシ・・」 苦しそうに喘ぎながら、勇は歳三が愛用している赤い髪紐を握り締めた。 初めて見る勇のそんな姿に、歳三は戸惑いながらも腹の奥が疼いて仕方がなかった。 やがて勇は獣のような唸り声を上げると、自分のものを懐紙に包み、その中に欲望を吐き出した。(勝っちゃん・・) 勇に気づかれぬよう部屋から出ようとした歳三だったが、ドアノブに腕をぶつけてしまった。「トシ・・」「勝っちゃん・・」「済まない、トシ・・」「謝る事はねぇ。」「トシ、そんな・・」「トシ、後は自分でやるから・・」「なぁ勝っちゃん、それ俺にくれよ。」「トシ、駄目だ、そんな・・」「俺達が兄と妹、だからか?」 歳三はそう言うと、勇を寝台の上に押し倒した。「俺は昔からあんたの事が好きで堪らなかったんだ・・あんたを守れなくて、俺は・・俺は・・」「トシ・・」「抱いてくれ、勝っちゃん・・」「トシィ!」「やぁ、そんなとこ、汚い・・」「汚くなんてない、とても綺麗だ。」「あぁ、やんっ!」「何か、来る・・!」「トシ、トシ!」「あ、もう、あ~!」 「ううん・・く・・」「トシ、辛いいならやめておこう。」「大丈夫、俺なら平気だ・・!」「あぁ、固い・・」「トシ、今抜いてやるから・・」「嫌だ、抜かないで!」 歳三は自分から離れようとしている勇の腰を両手で押さえつけると、静かに腰を前後に動かし始めた。 「トシ~!」 勇は堪らず、歳三と繋がったまま彼女の身体を反転させると、我武者羅に腰を振った。「あぁっ!」「トシ、愛してる、トシッ!」「勝っちゃん、俺もだっ!」 勇と歳三は、汗ばんだ互いの手を握り合いながら喜びに浸った。「トシ・・」「勝っちゃん・・二度と俺を離さないでくれ・・」「あぁ・・」 勇はそう言うと、歳三の髪を優しく梳いた。(どうか、このままこの幸せが続きますように。)にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。 この日起きた未曽有の災害は、後に“関東大震災”と呼ばれた。 多くの家屋が倒壊する中で、土方邸は奇跡的に無事だった。 歳三達は、カトリック教会で山南と共に被災者への炊き出しを行っていた。「母ちゃん、腹減ったよ~!」「おい、まだ俺の分はねぇのか!」「ちょいと、押さないでおくれよ!」 教会の前には、家を失くし路上を彷徨っている被災者たちが、空腹を練る場所を求め、長蛇の列を作っていた。「皆さん、苛立っていますね。」「俺達は運が良かっただけだ。今は俺達に出来る事をするだけだ。」「はい・・」 歳三と千鶴は怪我人の手当てや炊き出しを手伝っていたが、それらを終わらせた後、二人は疲れ果てて暫く教会の信徒席に座って休んでいた。「何だか、まるで戦場を思い出しますね。」「あぁ、そうだな。」「あの人は、どうなるのでしょう?」 千鶴はそう言うと、正気を失った継母の事を思った。「さてと、いつまでも休んじゃいられねぇ、戻るぞ。」「はい。」 二人が教会から出ると、握り飯を巡って数人の男女が言い争っていた。 「こいつはあたしのだよ!」「てやんでい、この握り飯は俺っちのだ!」「わっちのだ!」 彼らは皆、乱れた髪に破れた着物姿で、顔は煤に塗れていた。「そんなに慌てずとも、握り飯は沢山ありますよ。」「そうかい、騒いで済まなかったねぇ。」 山南が何とか彼らを宥めて事なきをえたが、そのやり取りを他の被災者達が苦々しい様子で見ていた。 先行きが見えない事への不安は、人々の心を苛立たせ、ささくれ立たせる。 皆、鬱憤を腹の内に溜めこみ、いつ爆発するのかわからぬそれを必死に抑え込んでいるのだ。「トシ、大丈夫か?」「あぁ。」「トシ、今日は風呂に入ってゆっくり休んだ方がいい。」「そうだな・・」 歳三と勇がそんな事を話していると、突然向こうから千鶴の悲鳴が聞こえた。「何だ、今のは!?」「トシ、行くぞ!」 二人が千鶴の姿を探していると、粗末な身なりの男によって千鶴が丁度物陰に引き摺り込まれそうになっている所を彼らは目撃した。「てめぇ、その汚い手を俺の嫁から離しやがれ!」 鬼の形相を浮かべ、歳三はそう叫ぶと近くに置いてあった円匙(シャベル)を掴んで男の頭上にそれを振り翳した。 歳三に円匙で殴られた男は頭から血を噴き出し、地面にどうと倒れた。「千鶴、大丈夫か?」「はい。それよりもさっき、わたしのことを、“俺の嫁”って・・」「それは、昔の癖だ・・」「そうですか・・」「まぁ、無事で良かった。」 歳三はそう言って照れ臭そうに笑うと、顔を伏せた。「試衛館の皆さんは大丈夫でしょうか?」「一度様子を見に行ってみるか。」 歳三達が試衛館道場へと向かうと、そこは奇跡的に無事だった。「トシさん、無事だったんだね!」「八郎、抱きつくんじゃねぇ、苦しい・・」「ごめん、トシさんが無事で嬉しくて、つい・・」「ったく、お前ぇは・・」「トシちゃん、千鶴、無事で良かった。」「左之さ~ん、こんな所に居たのかよ!瓦礫片付けるの手伝ってくれよ!」 向こうから声変りをする前の、少年特有の甲高い声が聞こえた後、一人の少年が歳三達の前に現れた。 明るい栗色の、癖のある髪。 そして、澄んだ緑の瞳。「平助・・お前、平助なのか?」「え、もしかして・・土方さん?」 少年―藤堂平助は、そう叫ぶと歳三の顔を見た。 「いやぁ~、驚いたなぁ、まさかあの土方さんが、女になっているなんて。昔、初めて土方さんと会った時女かと思ったけれど、今は胸があるから女だってすぐにわかったぜ!」「・・てめぇ、殴られてぇのか?」「おいおい平助、今のはお前が悪い。」「え~!」絶望と混沌の中でも、こうして昔の仲間達と笑い合える事が、歳三にとっては何よりの救いだった。「じゃぁ、またな平助!」「気をつけてな~!」 試衛館の前で平助達を別れた歳三と千鶴は、日が暮れる前に家路を急いでいた。家まで後少しという所で、歳三は不穏な“何か”の気配を感じ、円匙を握り締めた。「千鶴、絶対に俺から離れるんじゃねぇぞ。」「はい・・」 やがて薄闇の中から一人の少年が姿を現した。 闇夜に輝く金色の髪に、上質な紅玉(ルビー)を思わせるかのような真紅の瞳を持った少年は、歳三を見ると口端を歪めてこう言った。「久しいな、土方歳三・・いや、“薄桜鬼”よ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。 1923年9月1日。その日、何ら変わる事がない“日常”を、歳三は送っていた。「歳三姉様、千鶴姉様、おはようございます。」「おはよう、晶。今日は何だかご機嫌ね?」「今日、お父様に剣術を習う事になったのです。」「それは良かったな。」「僕も姉様みたいに強くなれるかな?」「お前ならきっと、俺よりも強くなれるさ。」歳三はそう言って弟の頭を撫でた。「あなた、お話があります。」 ダイニング・ルームで歳三達が朝食を取っている頃、亜希子は隼人と彼の書斎で向き合っていた。「何だ、こんなに忙しい時に。」「あんたはいつまで、歳三さんにここに置いておくつもりなのですか?」「・・また、その話か。亜希子、お前は何故あの子を嫌うんだ?」「あの子は、虚ろな魂を持っています・・あなただって感じているのでしょう、あの子が年相応らしからぬ言動をしている事を・・それに、あの子と勇の関係を・・」「それは・・」「あの子は、冥界の使者なのです・・あの紫の瞳は・・」「亜希子、お前の下らない話にこれ以上付き合ってられん。」 隼人はそう言うと、書斎から出た。「旦那様、会社からお電話です。」「わかった、すぐ行くと伝えてくれ。」「かしこまりました。」 隼人が寝間着からスーツへと着替え、自室から出て一階へと降りようとした時、隣の部屋から楽しそうな笑い声が聞こえて来た。 そっと隼人が部屋のドアの隙間から中を覗き見ると、鏡台の前に座った歳三が勇に髪を梳いて貰っていた。「トシの髪は綺麗だなぁ。」そう言いながら紅い櫛で歳三の髪に梳いている勇の顔は、まさしく妻を慈しむ夫のそれだった。「勝っちゃん、あんたは昔から俺の髪を梳くのが好きだな。」「あの時・・トシが洋装に合わせて髪を短くして、俺は暫く落ち込んだんだぞ。」「あんた、みんなが洋装に変えたっていうのに、一人だけ断髪を拒んだよな。」「俺は武士になりたくて、その証を切り落としたくなかったんだ。」「そうか。」「この前婦人雑誌で見た編み込みをしてやろう。」「あぁ、頼む。勝っちゃん、あんたまた顔に米粒がついているぜ。」「何処だ?」「ここだよ。」 歳三はそう言うと、さり気なく勇の唇を塞いだ。隼人はそっと部屋の前から去った。「歳三、その髪は勇君にやって貰ったのか?」「はい。父様、それがどうかされましたか?」「いや、何でもない・・」「もう昼か・・」「社長、今回は何とか乗り切れそうですね。」「あぁ・・」 隼人が会社で社員達とそんな話をしていると、突然彼は激しい揺れに襲われた。「大丈夫か、みんな!?」「はい・・それよりも社長、あれを・・」 隼人が社長室の窓から見た光景は、地獄絵図そのものだった。「一体、何が起こっているんだ!?」「社長、火災が発生したそうです!」「全員、ここから逃げろ!」 隼人は重要書類が入った鞄を抱え、社員達と共に会社から出た。 その数分後、彼の会社が入っていたビルは、まるで脆い積木細工のように轟音を立てながら倒壊した。「千鶴、晶、勝っちゃん、無事か!?」「トシ、無事で良かった!」「姉様、晶と彩華ちゃんが瓦礫の下敷きに・・」「何だって!?」 歳三が勇と千鶴と共に倒壊した離れへと向かうと、そこには瓦礫の下敷きとなったままピクリとも動かない晶と彩華の姿があった。「二人共、しっかりしろ!」「痛い・・歳三姉様・・」「勝っちゃん、早く二人をここから出すぞ!」「あぁ、わかった!」「姉様、これを!」 千鶴は勇と歳三に角材を手渡すと、彩華の方へと向かい、瓦礫を退かし始めた。「彩華ちゃん、大丈夫・・」 千鶴は、その時彩華の首が変な角度に曲がっている事に気づいた。「千鶴、彩華は・・」 歳三の問いに、千鶴はただ首を横に振る事しか出来なかった。「逃げろ、火事だ~!」「後少しだ、頑張れ晶!」 勇と歳三は何とか二人がかりで晶を救出したが、彼は瓦礫で左足を潰されていた。「トシ、早くここから避難しないと・・」「あぁ。」「彩華ぁ~!」 歳三達が離れから避難しようとすると、彼女達と入れ違いに亜希子が娘を救おうと離れへ向かおうとしたが、そこは既に炎に包まれていた。「奥様、ここは危険です!」「嫌よ、嫌~!」 歳三達が隼人と再会出来たのは、その日の夜の事だった。「みんな、無事か!?」「彩華は、瓦礫の下敷きになっていて、俺達が来た時は既に死んでいた・・」「そうか。今日はみんな疲れただろうから、風呂に入って休め。」「死を招く紫の瞳・・」 亜希子はそう呟くと、歳三に掴みかかった。「お前、お前が娘を殺したんだ、この人殺し!」「やめろ、亜希子!」「お前・・お前さえ居なければ!」 亜希子はそう叫んだ後、気絶した。目が覚めた彼女は、完全に正気を失っていた。―第一章・完―にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。「あなた、あの子の事ですけれど・・」「あの子?」「歳三さんの事ですわ。あの子は勇ととても仲が良いのですけれど、何だか不安で・・」そう言った歳三達の継母・亜希子は不安そうな表情を浮かべた。「兄妹仲が良いのは、悪い事ではないだろう?」「そうですけれど、あの二人はそれ以上の関係だと思えて仕方ありませんの・・まるで、前世から夫婦だったかのように・・」「何を馬鹿な事を。」 隼人はそう言って亜希子の言葉を鼻で笑っていたが、彼がはじめて勇と歳三の関係に違和感を抱いたのはその日の夕食の事だった。「勝っちゃ・・兄さん、口端にソースがついているぜ。」「おぅ、済まないねぇ、トシ。」「全く、あんたって人はいつも口端にいつも米粒をつけているんだから・・それに、肉が上手く切れてねぇぜ。」「いやぁ、西洋料理は食べるのに慣れていなくてな。」「ったく、世話かけさせやがる・・」 何なのだろう、これは。 今自分の前に座っている勇と歳三の様子は、どこからどう見ても、長年連れ添った夫婦にしか見えなかった。「千鶴姉様、よろしいでしょうか?」 夕食後、千鶴が自室で読書をしていると、ノックの音と共に晶が入って来た。「どうしたの、晶?」「勇兄様と歳三姉様は、どのような関係なのでしょうか?」「ただの兄と妹の関係でしょう?」「僕はそう思いません。あの二人はいつも一緒に居て、互いの足りないところを補い合っているように見えるのです。」「そうか・・晶がそんな事を・・」「姉様、近藤さんと再会出来て嬉しいのはわかりますが、周りに怪しまれてしまいます。」「わかった。」 歳三は千鶴と図書室でそんな話をしていると、そこへ八郎がやって来た。「二人で内緒話なんて狡いや、僕も混ぜてよトシさん!」「うるせぇ、少しは静かにしねぇか八郎。そういや、お前ぇにはまだ近藤さんが見つかった事言っていなかったな。」「え、近藤さん見つかったんですか?何処で?」「今度うちに遊びに来い。」「わかりました。」「・・はぁ、やっと静かになったな。千鶴、どうした?」「姉様、袴に血が・・」 千鶴からそう言われて歳三が袴を見ると、そこは鮮血で汚れていた。「嘘だろ、おい・・」歳三は己の身を襲う下腹の痛みに耐え切れず、その場に蹲り気を失った。「姉様!」 目を覚ました歳三は、保健室のベッドに寝かされていた。「おめでとう、歳三さん。これであなたも一人前ね。」亜希子の言葉を聞いた歳三は、絶望の淵に突き落とされた。 初潮を迎え、胸が膨らみ始め、身体が徐々に丸みを帯びてゆく―それらの事はかつて、“男”として生きてきた歳三にとって屈辱以外の何物でもなかった。 七日間も続く下腹の痛みと、己の内側から流れ出る鮮血―女というものは、こんなに厄介なものを抱えながら生きていかねばならないのか。 せめて気を紛らわそうと歳三が道場に行こうとすると、亜希子に止められた。「女の子がやっとうを習うなんていけません。いずれあなたは嫁に行く身なのですから、今の内に花嫁修業をなさい。」「そんなもの、死んでもやるもんか!」 その日の夜、歳三は一晩中自室に籠もって泣いた。「トシ、握り飯を作ったんだが、食うか?」「あぁ。済まねぇな、勝っちゃん、取り乱しちまって・・」「いいんだ。今まで男として剣を振るって来たお前が、女として生きる事になったんだものなぁ。戸惑うのも無理はないさ。」「勝っちゃん・・」「トシ、俺は今度生まれて来た時、お前には何処かで幸せになって欲しいと思っていたんだ。戦のない平和な世で、お前には・・お前だけは誰かと添い遂げて幸せに・・」「馬鹿言ってんじゃねぇ、俺はあんたしか要らねぇ。今も、昔も・・」「トシ!」 震える声でそう叫ぶ歳三を、勇は部屋に入って堪らず彼女を抱き締めた。「勝っちゃん・・勝っちゃん・・」 何度も自分の名を呼んでは自分の胸に顔を埋めて泣く歳三の艶やかな髪を、勇は彼女が泣き止むまで梳いた。「もう落ち着いたか?」「あぁ。」 歳三はそう言った後、涙を乱暴に寝間着の袖を拭った。「大丈夫だ、トシ。俺は何処にも行かない。」「本当か?」「あぁ。」「握り飯、一緒に食おう。」 握り飯はすっかり冷えていたが、美味しかった。「あなた、歳三さんは初潮を迎えたのですから、そろそろ結婚相手を探しませんと・・」「あの子はまだ10歳だ、結婚など考えるのは早過ぎる。」「あなた、あの子をこれ以上この家に置いていてはいけませんわ!死を招くあの子の瞳は、いつかこの家に災いを・・」「これ以上、わたしの娘を侮辱するな!」 隼人はそう言って亜希子を突き飛ばした。「あなた・・」「お母様、どうなさったの?」 一人亜希子が居間に佇んでいると、そこに前夫の間に出来た娘・彩華(あやか)が入って来た。「彩華、あなただけはお母様の味方でいてくれるわよね?」「・・勿論ですわ、お母様。」「彩華、あなただけよ・・あなたが、わたくしの希望・・」 そう娘の耳元で呟く亜希子の目は、虚ろだった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。「お母様、お呼びでしょうか?」「二人共、来たわね。」 歳三達の母・恵津は、そう言うと明を抱いたまま近くのソファに腰を下ろした。 それに倣って、二人も母と向かい合うような形でソファに座った。「お母様、お話しとはなんでしょうか?」「歳三、千鶴、お母様はあなた達と暮らせなくなりました。」「それは、どうして・・」「わたくしは、もう永くはないそうだと、お医者様から言われました。だから、わたくしは葉山のサナトリウムに入る事にしました。」 サナトリウム―そこがどんな所なのか、歳三は知っていた。「じゃぁ、もう二度とお母様と会えないのですか?」「そうね、だからあなた達には、この家を守って貰わなければなりませんね。」「お母様・・」 堪え切れずに泣き出した千鶴の頬を、恵津は優しく撫でた。「悲しまないで。別れは必ず来るものだけれど、お母様にとってはそれが早過ぎただけ。」 恵津はそう言って目元を手の甲で優しく拭うと、歳三と千鶴を交互に抱き締めた。「二人共、お母様の代わりにお父様と弟を守ってね。」「はい、お母様・・」 これが、二人と恵津との今生との別れとなった。 恵津は葉山のサナトリウムに入所して僅か一月後に、肺結核で亡くなった。―お子様もまだ小さいのに、奥様に先立たれるなんて、可哀想に・・―隼人様は、一体どうなさるおつもりなのかしら?―さぁ・・ 恵津の葬儀は、カトリック教会でしめやかに行われた。「二人共、お母様と最後のお別れをしなさい。」「はい、お父様・・」 棺の中で眠る母は、何処か幸せそうだった。 弔いの鐘が鳴り響く中、歳三は母の棺が地中に埋められるのをただじっと見ていた。 人は皆、生を享け、いずは死ぬ。 死は避けらぬものだが、やがて来る“その時”までを、これからどう過ごせば良いのか―そんな事を考えながら、歳三は一人墓地に佇んでいた。「お嬢さん、こんな所に居たら風邪をひいてしまいますよ?」 突然頭上から声がして歳三が俯いていた顔を上げると、そこには丸眼鏡を掛けた一人の神父の姿があった。「山・・南さん?」「おや、その紫の瞳・・もしかして貴方は、土方君ですか?」そう言った神父―山南敬助は、歳三に微笑んだ。「まさか羅刹であったわたしが神に仕える身になるとは、皮肉なものですね。」 山南はそう自嘲めいた笑みを浮かべながら、祭壇に架けられた十字架を見た。 羅刹は、元々西洋の鬼の血を薄めた『変若水』を飲み、超人的な力を得た者の事であった。 だが、その力は己の命を代償にしていた。 山南も歳三も羅刹となり、それぞれ己の寿命を全うした。「その様子だと、近藤君にはまだお会いにはなっていないようですね?」「あぁ。」「ではもし、会えるとしたらあなたはどうするつもりなのですか?」「俺は、今度こそ勝っちゃんをあいつらから守って・・」「土方君、現実を見なさい。今は“あの頃”とは違うのです。この時代には幕府も朝廷も存在しない・・あなたが憎んでいた“敵”は、もう何処にも居ないのですよ。」「そんなの、わかっている・・けど、俺は・・俺は・・」―トシ、そろそろ楽にさせてくれ。「あなたはまだ非力な子供に過ぎません。」 山南はそう言うと、竹刀だこが残る歳三の手を見た。「今のあなたは、まだ世間の厳しさというものを知らない。無理に背伸びをしなくていいのですよ。」 その時、歳三は今まで堪えていたものを、一気に吐き出した。「たまには、こちらで気持ちを吐き出しにいらっしゃい。昔からあなたは何でも背負い込む癖がありますからね。」「・・邪魔したな。」 ひとしきり泣いた後、歳三は教会を後にした。「姉様、何処に行っていたのですか、心配したのですよ!」「済まねぇ・・」「歳三、勝手に居なくなるな!」「ごめんなさい・・」「歳三、怒鳴って済まなかった。お前の帰りが余りにも遅いから、心配したんだよ・・」 隼人はそう言うと、泣きじゃくる娘の頭を撫でた。 母の死から五年の歳月が経ち、歳三は10歳、千鶴は8歳となった。「お前達は新しい家族が出来たぞ。」 父がそう言って紹介したのは、美しいが何処か冷たい雰囲気を纏った継母と、そして―「勝っちゃん・・」「トシ・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。 少し癖のある栗色の髪を揺らして、翡翠の瞳を宝石のように輝かせながら歳三に抱きついて来たのは、伊庭子爵家の嫡子・八郎だった。「トシさん、今日こそ僕と結婚してくれるんですよね?」「何言っていやがる、俺はそんな約束した覚えはねぇぞ。」「酷いや、トシさん!」「何だか今日は妙に賑やかだと思ったら、また来ていたのか、お前。」 そう言いながら歳三に抱きついている八郎を呆れ顔で見ているのは、この道場の門下生で唯一の槍使い・原田左之助だった。「左之さん、トシさんが~」「その様子だと、またトシちゃんに振られたな?」「だって、だって・・」「あのなぁ、男っていうのは、軽々しく惚れた女の耳元で愛の言葉を囁くもんじゃねぇ。ここぞという時に使うものなんだよ。」「ここぞという時?」「まぁ、俺くらいの年位になったらわかるさ。」 そう言った左之助は、悪戯っぽく金色の瞳を輝かせながら歳三を見た。(何だ?)「トシちゃん、この後時間あるか?」「お、おぅ・・」「左之さん、抜け駆けは狡いよ!」 稽古の後、歳三は左之助に連れられ、新しく出来たばかりの喫茶店へと向かった。「何でも好きな物、頼んでもいいぞ。」「いいのか?」「あぁ。」 歳三は紫の瞳を輝かせながら、美しいガラスの器に盛られたパフェーをじっと見つめた。「早く食べないと溶けちまうぜ?」「甘味も、俺達が居た頃よりも進化したもんだなぁ。」「そりゃそうだろう。もうあの頃から四十年以上も経っているんだぜ?」「そうか・・そんなに経つのか。俺にとっちゃ、ついこの間の事のように思えて仕方ねぇんだ。」「トシさん・・いや、土方さん、まだあの人は見つからないのか?」「あぁ。この時代に俺が会ったのは、斎藤と伊庭八、お前に・・千鶴。」「千鶴に会ったのか!?」「会ったというか、妹として一緒に暮らしているけれどな。」 歳三はそう言ってスプーンの先で少し溶けたアイスクリームを舐めながら、千鶴が“覚醒”した日の事を思い出した。“土方さん、漸く会えた・・” 桜が舞い散る中、歳三と千鶴は、“夫婦”ではなく、“姉妹”として今世で再会を果たした。「あと俺が会ってねぇのは、平助、山南さん、山崎、相馬、野村、それに風間と総司かな。」「その総司なんだが、この前俺、あいつに会ったぜ。」「本当か!?」「あぁ。あいつはこの時代でも、元気に剣術に打ち込んでいるぜ。」「そうか・・」羅刹になっても労咳を抱えながら最期まで戦った総司の姿を知っているだけに、歳三は、その言葉を聞いて思わず涙を流した。「そうか、良かった・・」「おいおい、何も泣くこたぁねぇだろ。俺があんたを泣かせているように見えるだろうが。」「すまねぇ・・」「まぁでも、生きてりゃ必ず会えるさ、総司にも、近藤さんにも。まだたっぷりと時間があるんだ、焦るんじゃねぇよ。」「そうだな。さてと、お前ぇに奢って貰った甘味、残しちまうのも勿体ねぇな。」歳三はそう言うと、半分溶けた苺パフェーを急いで掻き込んだ。「おいおい、そんなに急いで食べたら腹壊すぞ。」「あれぇ、誰かと思った左之さんじゃないですか。こんな昼間に小さい子を連れて何しているんです?」 店のドアベルを鳴らす音と共に、栗色の少し癖がある神に黒い学帽を被り、黒い外套を纏った一人の学生が歳三達の前に現れた。「総司、丁度いいところに来たな。」「左之さん、その子は・・」「久しぶりだな、総司。」「土方さん、本当に土方さんなんですか?」「あぁ。」「へぇ~、あの鬼副長が今はいたいけな幼女ですか。可愛いけれど、口の悪さは昔から変わりませんね。」「う、うるせぇ!」「まぁ、土方さんと会えて良かったです。」 総司は翡翠の瞳を輝かせると、歳三が最後まで大事に取っておいた苺を食べた。「てめぇ~!」「じゃぁ、二人共また会いましょうね。」 歳三の怒声と彼女を宥める左之助の声を背後で聞きながら、総司は喫茶店を後にした。「姉様、お帰りなさい。」「ただいま、千鶴。」「今日は何だか機嫌が良さそうですね?」「お前なぁ・・いつも俺が眉間に皺寄せているようにそんな事言ったら思われるだろうが!」「すいません。今日は何か良い事でもあったのですか?」「今日は総司に会えたんだ。」「沖田さんに?」「あぁ。あの頃と同じ性格だ。元気そうで良かった・・」「他の皆さんは、元気で何処かにいらっしゃるんでしょうか?」「あぁ。今はまだ会えねぇだけで、生きてりゃ必ず会えるさ。」「えぇ・・」「歳三お嬢様、千鶴お嬢様、こちらにいらっしゃったのですね、奥様がお呼びですよ!」(今の話、聞かれていなかったよな?)(大丈夫だと思います。) 二人が母の部屋へと向かうと、彼女は待望の息子であり二人の弟でもある晶を抱いていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。 1910年、5月5日。 その日は、初夏らしい爽やかな風が吹いていた。土方伯爵家では、皆が待望の跡継ぎの男児の誕生を今か今かと待っていた。「まだ産まれないのかしらねぇ?」「初産は時間がかかりますからねぇ、待つしかないでしょうよ。」そう言いながら親族達が暇を持て余していると、大きな産声が産室の方から聞こえて来た。「お産まれになりました!」「男か、女か?」「とても可愛らしいお嬢様です!」「何だ女かぁ。」「元気に産まれて来たから良いじゃないか。」 産まれて来た赤ん坊に性別が女だとわかると一斉に落胆する親族達に向かって土方伯爵家当主・隼人はそう言った後、妻が居る産室へと向かった。「あなた、申し訳ございません・・今度こそ男の子を産みますから・・」 産後間もない彼の妻は、そう言って夫に跡継ぎの男児を産めなかった事を詫びた。「謝るな。初産だから良く身体を労わってくれ。」「はい・・」「恵津、この子が私達の娘かい?」「えぇ、あなた。どうか抱いてやって下さいな。」「あぁ。」 妻から産まれたばかりの娘を抱いた隼人は、彼女が美しい紫の瞳を持っている事に気づいた。 その瞳に見つめられた時、隼人は瞬時に娘の名前を決めた。「・・三。」「え?」「歳三、この子の名前は歳三だ。」「それは、男の名前ではありませんか。」「長生きできそうな名前だろう。そう思わないか?」「あなたがそうおっしゃるのなら、わたくしは何も言いませんわ。」 この日、土方歳三は土方伯爵家の長女として生を享けた。 仲の良い両親と何不自由ない生活に恵まれた歳三は、幸福な幼少期を過ごした。 だが、それは5歳の誕生日を迎えた時に大きく崩れ落ちた。「うわ~ん!」「歳三、一体どうしたの!?」「勝っちゃん、勝っちゃん、何処~!」 その日、歳三は突如として新選組副長・土方歳三として“覚醒してしまったのだった。「勝っちゃ~ん!」 知らない者の名を一晩中呼んでは泣き叫ぶ娘を前に、両親は戸惑う事しか出来なかった。 その日から、歳三はかつての仲間達の名を呼んでは、一晩中泣き叫んでいた。「あの子は一体、どうしてしまったのでしょう?」「一度、医者に診て貰った方がいいな。」両親がそんな話をしているのを廊下で聞きながら、歳三は自室のドアを閉めた。病院に行っても、自分が抱える苦しみと悲しみが消える訳がない。寝台に寝転がりながら、歳三は己の小さな両手を見つめた。こんな手では、刀どころか木刀も握れない。(早く強くなりてぇ・・強くなって、今度こそ勝っちゃんを守るんだ!)「まぁ、歳三がやっとうを習いたいですって?女の子なのに、どうしてそんな・・」「いいじゃないか、本人がやりたがっているのだから。」 隼人は歳三を自分が通っている道場で剣道を習わせた。 すると歳三はまるで水を得た魚のように、めきめきと上達し、その上達ぶりは周囲の大人達を驚かせた。(もっと、もっと強くなりてぇ!) そんなある日、歳三はいつものように道場へと向かっていると、その途中で彼女は数人の少年達が一人の少年を取り囲んでいじめていた。「てめぇら、何してやがる!」「うるせぇ、女は引っ込んでろ!」「何を~!」 少年達は、歳三によって完膚無きまでに叩きのめされた。「くそっ、おぼえていろよっ!」「へっ、おととい来やがれ!」歳三は自分に向かって捨て台詞を吐いた少年達に向かってそう悪態を吐いた後、地面に身体を丸めたままの状態で動かない少年を見た。「おい、大丈夫か?」 歳三の声を聞いた少年は、ゆっくりと俯いていた顔を上げた。「土方、さん・・?」 少年の、黒みがかった青い瞳を見た瞬間、歳三は彼が誰なのかわかった。「斎藤、斎藤なのか?」「大変ご無沙汰しております、副長。」「おい、俺はもう副長じゃねぇぞ。」「も、申し訳ありません、副長!」「・・そういう所は、昔から変わらねぇな・・」 歳三はそう言うと、笑った。「また、会えますか?」「あぁ。」 歳三は斎藤に向かって手を振ると、そのまま道場へと向かった。「トシさ~ん!」 道場で着替えを終えた歳三が胴と籠手を着けていると、彼女の前に一人の少年が現れた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「薄桜鬼」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。土方さんが女性設定です。一部残酷描写あり、苦手な方はご注意ください。―トシ、愛しているよ。 目を閉じれば、愛しい男の声が聞こえる。 全て、憶えている。 自分に笑いかける時に目尻に皺を寄せて笑うその顔も、艶のある長い黒髪を優しく梳いてくれた、大きな手も。 誰よりも大切な人だったのに。 絶対に、喪いたくなかったのに。 それなのに――トシ・・ あの時、新政府軍に投降する前に見せた、彼の笑顔。“必ず、来世で会おう。”そう言ってくれたような気がした。だから― 「漸くお目覚めになりましたね。」 頭上から玲瓏な声が聞こえ、土方歳三がゆっくりと目を開けると、そこには自分がかつて愛した妻・千鶴の姿があった。「千鶴・・お前・・ここは・・」「ここは、魂が再び現世へ向かう場所ですよ。」千鶴はそう言うと、歳三を河岸へと連れていった。 そこには、既に常世の住人となった者が美しい華灯籠を流していた。「あれは?」「あれは、あの人達が前世の想いを込めて来世へと流しているのです。」「そうか。千鶴、お前はもう・・」「そんなに悲しい顔をしないで下さい。わたしは、貴方と出会えて幸せでしたから。」「千鶴・・」「土方さん、これを。」 千鶴がそう言って笑って自分に手渡したのは、自分と、彼の名が入った華灯籠だった。「土方さん、あの人とまた、会って幸せになって下さい。」「お前ぇはこれからどうするんだ?」「わたしはまだ、ここに居ます。だから土方さん・・いいえ歳三さん、貴方とはここでお別れです。」 千鶴がそう言った瞬間、突然周囲の景色が暗転し、歳三は自分達が駅舎に居る事に気づいた。「ここは?」「行って下さい、歳三さん。決してあれに乗るまでは、振り向かないで下さい。」「わかった・・」 歳三は駅舎のプラットホームに停まっている汽車へと乗り込むと、千鶴が居た方を見た。 彼女は、唇だけ動かしてこう言った。“さようなら。” やがて汽笛が高らかに鳴り響き、汽車がゆっくりと駅舎から離れ、スピードを徐々に上げていった。 歳三は汽車がカーブを曲がって千鶴の姿が見えなくなるまで、彼女に向かって必死に手を振った。 千鶴は汽車が去った後、涙を流してこう呟いた。「さようなら、歳三さん・・この世で唯一、わたしが愛した人・・」 歳三が乗った汽車は、やがてトンネルへと入った。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。「ビセンテ様、おはようございます。」「レオ、カイトの様子はどうだ?」「部屋に閉じ籠もり、食事も殆ど召し上がれておりません。」「そうか。」ビセンテはレオからその報告を受け、ビセンテは海斗の部屋へと向かった。「カイト、わたしだ。少し話がしたい。」そう言ってビセンテは海斗に呼びかけたが、中からは何も返って来なかった。「開けるぞ、カイト?」恐る恐るビセンテが海斗の部屋の襖を開けると、海斗は苦しそうに咳込んでいた。「どうした、カイト!?」「さわんなっ!」心配そうに自分の背中を擦ろうとするビセンテの手を邪険に払い除けた海斗だったが、その場に蹲ってしまった。「誰か、薬師を呼べ!」ビセンテは突然嘔吐した海斗の姿に慌てふためいたが、すぐさま海斗を抱き上げ、汚れた彼女の身体を風呂場で清め、新しい夜着を着せた後、清潔な布団の上に寝かせた。「う・・」「カイト、気がついたか?」「水、水・・」ビセンテは海斗に水差しの中にある水を飲ませようとしたが、中々かいとは水を飲まなかった。これ以上埒が明かないと思ったビセンテは、口移しで海斗に水を飲ませた。「俺、どうして・・」「薬師を呼んだから、安心しろ。」数分後、海斗は医師の診察を受け、妊娠している事が判った。「俺が、妊娠・・」「レオ、カイトの荷物をまとめておけ。」「は、はい・・」「カイト、お前をあの龍神の元へ返す。」「どういうつもり?」「わたしはお前をここに連れてゆけば、わたしのものになると思っていたが、違ったようだ。お前は、身も心もロックフォードのものなのだろう?ならば、もうお前をここにはおいていくことは出来ん。」「ヴィンセント・・」「元気な子を産め。」ビセンテに送り出され、海斗は二月振りにジェフリーの元へと帰って来た。「ジェフリー、ただいま。」「カイト、お帰り。」ジェフリーは海斗と再会の抱擁を交わした。「ジェフリー、今いいか?」「あぁ。ナイジェル、どうしたんだこんな時間に来るなんて?」自室で書類仕事をしていたジェフリーは、ナイジェルが渋面を浮かべている事に気づいた。「あの陰陽師から、何も聞かされていないのか?」「何をだ?」「カイトにあれ程執着していたあいつが、あっさりとカイトを手放す訳がない。何か裏がありそうだ。」「考え過ぎだ。」「そうか。」ジェフリーが海斗の異変に気付いたのは、彼女が時折食事を残している事だった。「カイト、何か俺に隠している事はないか?」「ジェフリー、実は・・」海斗は、ジェフリーに妊娠を告げた。「そうか、俺が・・」「あの人は、俺が妊娠している事を知って、解放してくれたんだ。」「そうか。」海斗は、酷いつわりに襲われ、床に臥せる事が多くなった。「やはり、こういった事は男には解らない事が多いな。」ジェフリーはそう言いながら、書庫内にある本を漁っていた。「カイトを暫く実家に帰らせた方がいいんじゃないのか?」「そうだな、一度カイトに話してみよう。」ジェフリーが書庫の前でナイジェルと別れ、ジェルリーが海斗の部屋へと向かうと、中から海斗が苦しそうに咳込む声が聞こえて来た。「カイト、大丈夫か?」「ジェフリー、ごめん、心配かけちゃって・・」「謝るな。それよりもカイト、暫く実家に帰ったらどうだ?」「そうしたいけれど、今は実家に帰れないんだ。」「それは、どういう事だ?」「実は・・」海斗はジェフリーに、実家に帰れない事情を話した。数日前、海斗は実家宛に妊娠した事と里帰りしたい旨を書いた文を送ると、友恵から翌日返事が返って来た。それは、海斗の事を狙っている者達が居る、子が産まれるまで暫く婚家に居るようにという内容の文だった。「お前を狙っている連中?」「うん・・何でも、実家の里辺りで妙な噂が流れているんだ。なんでも、人魚と龍は同じ一族だから、龍の元に嫁いだ俺の血肉を喰らえば、不老不死になる事が出来るって・・」「馬鹿な事を・・」「ジェフリー、カイト、今入っても良いか?」「ナイジェル、どうした?」海斗の部屋に入って来たナイジェルは、一通の手紙を二人に見せた。そこには、海斗を暫く海辺にある別邸で過ごさせるようにという旨が書かれていた。「本家筋の爺共からか。こんな大切な時に、一体何を考えていやがる・・」「ジェフリー、俺一人だけで行くのは心細いから、一緒に来てくれる?」「わかった。」こうして、海斗とジェフリーは、海辺の別邸へと向かう事になった。「カイト、大丈夫か?」「うん。」別邸へと海斗とジェフリーが向かう日の朝、二人は屋敷の正門前で車を待っていたが、中々来なかった。その日は朝から蒸し暑くて、日陰の中に居ても海斗はハンカチで時折額の汗を拭っていた。「車が来るまで、屋敷の中に戻ろうか?」「大丈夫。」「遅れて申し訳ありません!道が混んでいて・・」「荷物は俺が運んでおくから、お前は先に車に乗っていろ。」「わかった。」二人を乗せた車は屋敷から駅へと向かった。「初めてだね、二人きりでこうして旅行に行くの。」「そうだな。そのワンピース、似合っているぞ。」「ありがとう。これ、自分で作ったんだ。」駅舎の中へとジェフリーとそんな話をしながら海斗が入ろうとした時、海斗は一人の女とぶつかった。「すいません、お怪我はありませんでしたか?」「大丈夫よ、気にかけてくださってありがとう。」淡褐色の髪を揺らしながら、その女はじっと淡褐色の瞳で海斗を見た。「あなたが、噂の・・」「カイト、もう行くぞ。」「う、うん・・」海斗はその女に背を向け、ジェフリーと共に汽車へと乗り込んだ。二人の席は、一等車両の中にあった。「うわぁ、綺麗!」車窓から見える海に、海斗は子供のように興奮した。「海を見るのは、初めてなのか?」「うん。」「そうか。」汽車から降りた二人が駅舎から出ると、駅舎の前に一台の車が停まっていた。「ジェフリー様、海斗様、長旅お疲れ様でございました。」「ありがとう。」海辺の別邸は、美しく清掃されていた。「こちらへどうぞ。」海斗とジェフリーが案内された部屋は、バルコニーから海が眺める事が出来た。「ここなら、ゆっくり出来そう。」「そうだな。」龍神の里の本邸は四方を山と川に囲まれていたが、別邸は海を臨む高台に建っていた。「潮風が気持ちいい。」「ここが気に入ったか?」「うん。」別邸での暮らしは、快適そのものだった。環境を変えたからなのか、海斗は床に臥せる事がなくなった。「カイト、なんだか最近調子がいいな。」「そう?やっぱり環境が変わったからかな?」「カイト様、ジェフリー様、おはようございます。」別邸の使用人・雫は、そう言うと海斗に薬湯が入った湯呑みを手渡した。「おはよう、雫。いつもありがとう。」「では、また。」雫は二人の部屋から出た後、使用人専用の出入口から別邸の外へと出ると、ある場所へと向かった。そこは、人気のない洞窟だった。「例の物は、持って来たかい?」「はい。」「それを洞窟の入り口の前に置いて去りなさい。」「は、はい・・」「さぁ、もうおゆき。」雫が洞窟に背を向けて走り出したのを、一人の女が見送った。「さて・・これをどう使おうかね?」女は、雫が洞窟の入り口に置いていった硝子壜の中で揺らめく真紅の液体を眺めた。女の淡褐色の瞳が、光を弾いて黄金色に輝いた。「カイト、今日はどう過ごす?」「町を散策してみたいな。」「そうか、わかった。」ジェフリーと共に、海斗は初めて町を散策する事になった。町は、煉瓦造りの美しい建物が軒を連ね、活気に溢れていた。「うわぁ、綺麗・・」簪や櫛などが売られている店のショーウィンドウで、海斗はある簪を見つけた。それは、美しい翡翠の簪だった。「何だ、その簪が欲しいのか?」「うん・・」「親爺、この簪を頂こうか?」「ありがとうございます。」「お前の髪に、良く似合うな。」「ありがとう、大切にするね。」店を出た海斗は、一瞬背後に視線を感じたが、それには気を留めず、ジェフリーと共に町を散策した。「昼飯はどこにする?」「何処でもいいよ・」「じゃぁ、あそこのカフェに行こうか。」「うん。」二人が昼食に入ったカフェは、お洒落な内装や調度品で飾られた店だった。「いらっしゃいませ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月31日
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素材表紙は湯弐さんからお借りしました。「天上の愛地上の恋」「薔薇王の葬列」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「ハイリンヒ様、おはようございます。」「ハイリンヒ様、お召し替えをなさいませんと。」 翌朝、女官達がそう言いながらハイリンヒの部屋に入ると、そこには寝台の上で互いの手を握り合いながら眠っているリヒャルトとハイリンヒの姿があった。「リヒャルト、一緒に朝ご飯食べようよ!」「いいえ、俺は・・」「ハイリンヒ様がそう仰っておられるのですから、遠慮するものではありませんよ。」「は、はい・・」 ハンガリー人の女官からそう言われ、リヒャルトはその日の朝からハイリンヒと食事を共にするようになった。「ねぇ、リヒャルトはどうして左右の目の色が違うの?」「これは生まれつきなので、何故左右の目の色が違うのかは俺にもわかりません。それよりもあの白い犬は・・」「あの子、犬じゃなくて狼なんだ。昔ここへ来た時、森で怪我をして倒れているのを見つけて世話をしていたら、いつの間にか僕に懐いちゃったんだ。」「そうなのですか。名前はお付けになられたのですか?」「ううん、まだ付けていないんだ。これといった名前が思い浮かばなくて。リヒャルト、僕と一緒にこの子の名前を考えてくれない?」「わかりました。」 リヒャルトがそう言った時、窓の外から賑やかな笑い声が聞えて来た。ふと窓の外を見ると、邸宅の中庭ではルドルフとアルフレートが、ルドルフの愛犬・アレクサンダーと戯れていた。「どうやら仲直りできたようですね、あの二人。」「そうだね。」 イシュルで休暇を過ごした皇帝一家は、王宮があるウィーンへと戻った。「リヒャルト、どうしてもメルクに行っちゃうの?」「休暇の時には必ずこちらへ帰って来ますから、どうか聞き分けてください。」「嫌だよ、ずっと一緒に居たのに、独りぼっちになるなんて耐えられないよ!」「ハイリンヒ様・・」 リヒャルトとアルフレートがメルクへと発つ前日の夜、ハイリンヒはリヒャルトに駄々を捏ね、リヒャルトを困らせた。「俺がメルクに行っても、アマリリスが居るでしょう?」「そうだけど、アマリリスは言葉が話せないよ。ねぇ、毎日僕に手紙をくれる?」「ええ、毎日手紙を書きますよ。だから、俺のメルク行きを許していただけますね?」「わかったよ・・」 リヒャルトはそう言ってハイリンヒと毎日手紙を出すという約束をかわし、リヒャルトはアルフレートと共にメルクへと向かった。 メルクでの集団生活は厳格な規則などがあり、最初は慣れなかったものの、それぞれ友人ができ、二人は次第にメルクでの生活に慣れていった。「それ、ハイリンヒ様への手紙かい?」「ああ。毎日手紙を出さないとハイリンヒ様は駄々を捏ねてしまわれるから・・」 リヒャルトが図書館でハイリンヒへの手紙をしたためていると、そこへ友人のマリウスがやって来た。「そういえばさっき、君の幼馴染も手紙を書いていたよ。きっとその相手はルドルフ様だと思うなぁ。」「どうして、そう思うんだ?」「だってあいつ、ルドルフ様の話ばかりするんだもの。まるで恋人の話をしているかのようだったぜ、あいつ。」「恋人、ねぇ・・」 一時期険悪な関係だったルドルフとアルフレートだったが、最近二人は毎日手紙のやり取りをしたりしている。「それで、お前はハイリンヒ様とどういう関係なんだ?」「別に、ただの友人同士だが・・」「嘘つけ。ハイリンヒ様への手紙を書いている時のお前の顔、まるで恋人へ向けて手紙を書いているような顔だったぜ。」「そんな・・」 リヒャルトは友人からそんな指摘を受けて頬を赤く染めながら、ハイリンヒ宛の手紙を封筒に入れた。「アマリリス、リヒャルトから手紙が届いたよ!」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月28日
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素材表紙は湯弐さんからお借りしました。「天上の愛地上の恋」「薔薇王の葬列」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 そう言ってリヒャルトを迎えたハイリンヒの部屋は、美しい調度品や家具で飾られており、部屋の中央には真紅のチンツ張りのソファが置かれてあった。「ハイリンヒ様にはご機嫌麗しく・・」「そんな堅苦しい挨拶はしないで!それに僕を“様”づけで呼ぶのを止めて。僕は、君と友達になりたいんだ!」「俺と、友達に?ですが、俺は平民で・・」「友達になるのに、身分なんて関係ないよ!ねぇ、ここに一緒に座って、お互いの事を話そうよ!」「は、はい・・」ハイリンヒに勧められ、リヒャルトは恐る恐るソファの上に座った。 そこはふわふわで座り心地が良く、こんな高価なソファに座る事も、見た事もリヒャルトは今まで一度もなかった。「君は、あの子・・アルフレートって言ったっけ?あの子と一緒の村出身なの?」「はい。俺は赤ん坊の時に親から捨てられて、村の神父様が俺の事を育ててくださいました。アルフレートと俺は幼馴染で、アルフレートの両親には彼らが流行病で亡くなるまで、彼らは俺の事を本当の子供のように接してくれました。でも、小さい貧しい村で、俺達のような育ち盛りの子供二人を抱えた神父様の心情を慮ると、俺達はウィーンへ来て良かったのだと・・」「そう、君は色々と辛い目に遭ったんだね。リヒャルト、僕の事を何不自由なく育った、甘えん坊の貴族の子と思っているの?」「それは・・」「そう思ってもいいよ。でも僕は、この国の皇太子でありながら病弱で、勉強もスポーツもゲームも、弟のルドルフと違って何も出来ないんだ。だからゾフィーお祖母様も、お父様もルドルフの方ばかり可愛がるんだ・・」 そう言ったハイリンヒの蒼い瞳が、涙で潤んでいる事にリヒャルトは気づいた。「ごめんね、暗い話をしちゃって。ねぇ、リヒャルトは何が得意なの?僕は絵を描いたり、物語を書いたりするのが好きなんだ。」 ハイリンヒはソファから立ち上がると、窓際に置かれている机の上から一冊のスケッチブックを取った。「見ても、宜しいでしょうか?」「うん、いいよ。」 リヒャルトがスケッチブックを開くと、そこにはシュタルンベルク湖の美しい青と翠が鮮やかに描かれ、その中央に白い犬と戯れているハイリンヒの姿が描かれていた。「とてもお上手ですね。」「ありがとう。」「俺は刺繍や裁縫、それに料理をするのが好きで、良く村の子供達からはそんな女みたいな事をするなと揶揄われました。でも教会には女手が居なかったので、俺が神父様の代わりに家事をこなすしかなかったんです。」「そうなんだ。ねぇリヒャルト、君はお菓子も作れるの?」「はい。何度か村の教会の集まりでパイを焼いたことがあって、それが村の大人達に喜ばれた事があります。」「そうなんだ!じゃぁ今度、君が作ったパイが食べたいな!」「はい・・」屈託なく笑うハイリンヒの姿を見たリヒャルトは、彼の笑顔に孤独だった心が少し癒された。「ハイリンヒ様、もうすぐラテン語の授業ですよ。」「わかったよ。じゃぁまた後でね、リヒャルト!」「ではこれで失礼いたします、ハイリンヒ様。」 ラテン語教師と入れ違いにハイリンヒの部屋から出たリヒャルトは、パイのレシピを調べる為、ホーフブルク宮殿内にある王宮図書館へと向かった。 そこは約740万冊もの蔵書を収蔵し、尚且つ美しい天井のフレスコ画や、大理石の彫像に囲まれた世界で一番美しい図書館と謳われている場所であった。 広大な図書館内で何とか自力で菓子作りの本を何冊か持って来たリヒャルトがそれに目を通そうと長テーブルの前に腰を下ろした時、丁度マイヤー司祭の手伝いを終えたばかりのアルフレートが図書館に入って来た。「アルフレート、もうマイヤー司祭の手伝いは終わったのか?」「うん。リヒャルト、どうしてお菓子作りの本を読んでいるの?」「先ほどハイリンヒ様にお会いして、菓子作りが得意だと言ったら、今度俺のパイを食べたいとおっしゃったから、今色々とパイのレシピをこの本から調べている所なんだ。」「ハイリンヒ様はルドルフ様と同じ顔をしていらっしゃるけれど、ハイリンヒ様の方がルドルフ様よりもお優しそうだね。」「そういえば、お前はルドルフ様の遊び相手として暮らしているんだったな。ルドルフ様はどんな性格をされているんだ?」「う~ん、気難しい性格をしていらっしゃるし、僕より3つも年下の割には陛下と政治のお話なんかをされているよ。どうしてそんな事が知りたいの、リヒャルト?」「いや、ハイリンヒ様の弟君だから、少し知りたくてな。それにしても、貴族の生活というのは堅苦しいことだらけだな。故郷には余りいい思い出は全くないが、時々のどかな時間が流れるあそこへ戻りたい。あそこなら、人の顔色を窺ったり、口煩い女官達に監視されたりする事もないからな。」「そうだね・・でも、ここでなら多くの事が学べる。父さんが昔、言っていたよ、“金銀財宝は人に奪われるが、学んだことは決して奪われない。何よりもそれはお前自身の財産となる”って。」「お前の父さん達は、村でつまはじきにされていた俺に唯一優しくしてくれた。俺がお前とここで多くの事を学び、それを身に付ける姿を天国から二人が見守ってくださるのかもしれないな。」「そうだね。これからお互いに頑張ろう、リヒャルト。」「ああ。」 リヒャルトとアルフレートが誓いの握手を交わしたとき、図書館に皇妃付きの女官が入って来た。「二人とも、ここに居たのですね。わたくしと共について来なさい、皇妃様があなた方をお呼びですよ。」「は、はい!」「わかりました、すぐに参ります。」 女官と共に二人が向かったのは、皇帝一家が集まっている部屋だった。「皇妃様、二人をお連れ致しました。」「ご苦労様、アデーレ。」「皇妃様、ご機嫌麗しく・・」皇妃の玲瓏な声が頭上から響いて来たので、アルフレートは慌てて彼女にそう挨拶すると、彼女は鈴を転がすかのような声で笑った。「まぁ、そんな堅苦しい挨拶など要らないわ、同じバイエルン出身ではないの。さぁ、顔を上げなさい、二人とも。」「はい・・」アルフレートとリヒャルトが恐る恐る俯いていた顔を上げると、そこには欧州随一の美女と謳われた、オーストリア=ハンガリー帝国皇妃・エリザベートの姿があった。「貴方達が、ルドルフとハイリンヒがわざわざバイエルンから連れて来たお友達ね?」「はい、皇妃様。僕はアルフレート=フェリックスといいます。こちらは、僕の友人のリヒャルトです。」「初めまして皇妃様、リヒャルト=プレトリウスと申します、以後お見知りおきを。」「リヒャルト、貴方左右の瞳の色が違うのね?前髪で隠している左目を少しわたしに見せて頂戴。」「はい・・」リヒャルトがいつも前髪で隠している左目をエリザベートに見せると、彼女はほぅっと感嘆の溜息を吐いた。「綺麗な銀色ね。まるで美しく磨き上げられたダイヤモンドみたいだわ。」「有り難き幸せにございます、皇妃様。」「そうだわ、この子は末っ子のマリア=ヴァレリーよ。この子達とも仲良くしてあげてね。」そう言うとエリザベートは、揺り籠の中で眠っている赤ん坊を二人に見せた。「皇妃様、もうお発ちになりませんと。」「ええ、わかったわ。フランツ、わたしはこれからハンガリーへと向かうから、子供達の事を宜しくお願いしますわね。」「シシィ、もう行ってしまうのかい?」「そんなに寂しがらないでくださいな。一度ゲデレーにいらして。ジゼル、ルドルフ達の事を頼むわね。」「はい、お母様。」「お母様、僕もゲデレーに行っては駄目ですか?」「まぁハイリンヒ、我儘を言ってはいけないわ。今度沢山貴方にお土産を買って来てあげるから、先生達の言う事を良く聞きなさいね。」「わかりました、お気をつけて、お母様。」 ハイリンヒとルドルフ、そして双子の姉である皇女・ジゼルとエリザベートはそれぞれ別れの抱擁を交わした後、アルフレートの額にキスをして彼にこう言った。「メルクへ行って沢山お勉強をしていらっしゃい、アルフレート、リヒャルト。わたしは貴方のような賢い子は大好きよ。」 エリザベートが去った後、ルドルフが憎悪の眼差しをアルフレートに向けている事にリヒャルトは気づいた。 アルフレートが突然外へと飛び出して行ったルドルフの後を慌てて追った姿を見たリヒャルトは、庭園で二人が言い争っている姿を見た。 激昂したルドルフが、手に持っていた乗馬用の鞭でアルフレートの頬を強かに打った。「君はとっくに僕の共犯者だ!」そうアルフレートに言い放ったルドルフの美しい顔は、涙に濡れていた。「アルフレート、大丈夫か?」「うん、大丈夫・・」「マイヤー司祭様の所へ一緒に行こう。傷の手当てをしないと。」 マイヤー司祭の元へアルフレートをリヒャルトが連れて行くと、マイヤー司祭から傷の手当てを受けたアルフレートが突然泣き出した。「どうしたんだ、アルフレート?そんなに傷が痛むのかね?」 左頬にガーゼと絆創膏を貼られても、アルフレートの美貌はそれで衰えることはなかった。「アルフレート、傷は大丈夫なの?」「はい、ジゼル様。ただマイヤー司祭様から、傷跡が残ると言われました。」「まぁ、そんな綺麗な顔をしているのに可哀想だわ。ルドルフを後できつく叱ってやらないと。」 その日、ルドルフの姿を二人は見ることはなかった。 それから暫く経ち、イシュルへと向かう皇帝一家と共に、二人もイシュルへと向かった。 夕食後、ルドルフがアルフレートを連れて外出したのを見送ったリヒャルトが厨房で作ったパイを持ってハイリンヒの部屋へと向かい、ドアをノックすると、中からハイリンヒの愛犬が爪でドアを引っ掻く音が聞こえて来た。「ハイリンヒ様?」嫌な予感がしてドアを開けて部屋の中に入ると、そこには寝台で横たわり、じっと発作に耐えているハイリンヒの姿があった。「今、人を呼びます。」「やめて、呼ばないで・・誰にも、こんな姿を見せたくないんだ。お願いだから、放っておいて・・」「わかりました。では俺が、あなた様の手を一晩中握ってあなた様のお傍に居ます。」リヒャルトはそう言うと、ハイリンヒの手を優しく握った。「有難うリヒャルト、君は僕の天使だ。」「朝になったら、一緒にパイを食べましょうね、ハイリンヒ様。それまで、ゆっくりと休んでください。」 その夜は一晩中、リヒャルトとハイリンヒは互いの手を握り合ったまま眠った。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月28日
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素材表紙は湯弐さんからお借りしました。「天上の愛地上の恋」「薔薇王の葬列」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。両性具有・男性妊娠設定ありです、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 1855年10月2日、バイエルン王国、シュタルンベルク湖畔の小さな村で、黒髪に黒と銀の瞳を持った赤子が生まれた。 その赤子は男女両方の性器を持つ、所謂両性具有者だった。 赤子の両親はほどなくして流行病に罹りこの世を去り、残された赤子はリヒャルトと名付けられ、教会へと預けられた。 その赤子の誕生から数年後の1858年8月21日、オーストリア・ウィーン郊外にあるラクセンブルク宮殿にて、欧州随一の美女と謳われたフランツ=カール=ヨーゼフ一世の后・エリザベートは待望の皇太子であるハイリンヒとその弟・ルドルフを出産した。 だが二人の皇子達は生後間もなくエリザベートの手から、彼女の姑に当たるゾフィー大公妃によって取り上げられた。 金髪碧眼である二人の皇子達の性格は全く正反対だった。兄のハイリンヒは争いを嫌い、信心深い性格だったが、対して弟のルドルフは先進的な考えを持ち、9歳の子供でありながらも己の意見を教師達に理路整然と主張し、6ヶ国語を流暢に操ることが出来た。 そんな優秀な弟と、病弱で臆病なハイリンヒは常に周囲から比較されながら育った所為か、いつしか彼は心を病んでいった。 (お父様もお母様も、ルドルフだけが可愛いんだ。僕は、要らない子なんだ・・) 夏の避暑に皇帝一家がこの村を訪れると知った村人達は、皇帝一家を手厚くもてなす為に慌ただしく動き始めた。 そんな中、12歳となったリヒャルトは、農作業で掻いた汗を洗い流す為、シュタルンベルク湖で水浴びをしていた。 ここは余り人が近寄らず、リヒャルトにとって唯一の憩いの場だった。村の大人達や、自分の養い親である教会の神父は自分によくしてくれているが、一部の心無い者達が自分の事を「悪魔」と呼んでいる事を、リヒャルトは知っていた。 そして、小さな村の教会が二人の育ち盛りの孤児を育てる金銭的余裕がない事も。「リヒャルト、ここに居たんだね。」「誰かと思ったら、アルフレートか。」 湖畔の方から声がしてリヒャルトがそちらの方を向くと、そこには自分と一日違いで生まれた黒髪に翡翠の瞳を持った村の天使・アルフレート=フェリックスが立っていた。 悪魔と罵られる自分とは対照的に、アルフレートはその清らかな心と容貌故に天使と村人達から呼ばれ、可愛がられていた。 そんなアルフレートの両目蓋の下が少し腫れている事に気づいたリヒャルトは、彼が神父の話を聞いてしまったのだと勘で解った。「僕達はこれからどうなってしまうんだろう?神様はどうして、僕達を大人にしてくれないんだろう?」「そんな下らない事を考えても無駄だ。」水浴びを終えたリヒャルトが、そう言いながら持って来た布で濡れた髪と身体を拭いていると、不意に向こうから一発の銃声が聞こえた。「何だろう、僕ちょっと見て来るよ。」「おい、待て!」 アルフレートを慌てて止めようとしたリヒャルトだったが、自分が裸である事に気づき、慌てて初潮を迎えた後微かに膨らみ始めた乳房を隠す為、晒しを胸に巻き付けた。 その時、白い毛皮の塊のようなものが自分に突進してきたので、リヒャルトはそれを避ける間もなく全裸のまま草むらの上に倒れてしまった。「エドワード、ステイ!」 甲高い変声期前の少年の声が頭上から聞こえ、その直後金色の髪を揺らしながら仕立ての良い服を着た貴族の子息と思しき少年が現れた。「ごめんね、怪我はなかった?」 少年は蒼い瞳でリヒャルトを見つめながらそう言ってゆっくりとリヒャルトの方へと近づいて来た。「来るな!」リヒャルトは布で全身を覆い隠し、少年が何処かへ立ち去ってくれるのを望みながら、ゆっくりと目を閉じた。 だが再びリヒャルトが目を開けると、そこには先ほどの少年と、彼の従者と思しき軍服姿の男が立っていた。「近くの村の子供でしょう。おい貴様、名を何という?」「リヒャルトだ。俺に用がないのなら早くここから立ち去れ。」「こいつ、生意気な!」男はリヒャルトを睨みつけ、手袋を嵌めた手でその頬を張った。「やめて、僕がエドワードを見ていなかったから悪いんだ!その子に乱暴しないで!」「ですが、ハイリンヒ様・・」 男が少年の言葉を聞いてリヒャルトと彼を交互に見ていた時、銃声が聞こえていた方向からアルフレートの声と、もう一人の少年と思しき泣き声が聞こえた。「お前も服を着て我々と一緒に来い。」 リヒャルトが服を着て男達と一緒にアルフレートが居る場所へと向かうと、そこにはアルフレートと泣き声の主である少年が、彼の乳母と侍女と思しき数人の女性達に囲まれ、一人の男と対峙していた。「伯爵は、突然僕の前でピストルを咥えて・・そのまま、引き金を・・アルフレート、君も彼が自殺するところを見たよね!?」「伯爵は敬虔なカトリックだ、自殺なんてあり得ない!」「いい加減にしてください、ゴンドレクールト大佐!ルドルフ様はショックを受けておられるのですよ!」 女性達の一人がそう声を上げて男を睨みつけると、彼は少し怯んだ様子でそのまま黙り込んでしまった。「はい、僕は見ました・・」アルフレートの言葉を聞いたリヒャルトが、ふと女性達の腕に抱かれている少年の顔を見ると、彼はリヒャルトに気づき、微かに口元を歪めて笑った。「さぁ、ルドルフ様を早くお連れしなければなりませんわ。」「ハイリンヒ様、こちらへ!」 突然自分達の前に現われた少年達の正体を、アルフレートとリヒャルトが数日後に知ることになったのは、彼らが暮らす教会の前に一台の壮麗な馬車が停まり、その中から軍服姿の男が降りて来た時だった。「アルフレート=フェリックス様、リヒャルト=プレトリウス様、ハイリンヒ様と、ルドルフ皇太子様の命により、お二人をお迎えに参りました。」 馬車に乗せられ、美しい館にある一室へと通された二人を出迎えたのは、寝台の上で本を読んでいるルドルフ=フランツ=カール=ヨーゼフ=フォン=オーストリア、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子その人だった。「ねぇアルフレート、伯爵は何故自殺したと思う?」「それは、僕にはわかりません。ですが自ら命を絶つことを、神様はお許しにはなりません。」「はは、神様ねぇ・・ねぇアルフレート、神様は嘘を吐く事もお許しにならないんじゃないかい?」そう言ってアルフレートを見つめるルドルフの目は、冷たかった。「失礼します・・僕、もう帰らないと。リヒャルト、行こう。」「誰が勝手に帰っていいと言った?君達は僕達と一緒にウィーンへ行くんだ。」「何故、俺もお前達と一緒に行かなくてはならないんだ?」「兄上がお前に興味を持っている。安心しろ、お前達には僕達の方から口煩い大人達に釘を刺しておく。これから味気ない宮廷での日々が楽しくなりそうだな、アレクサンダー?」 ルドルフはそう言って自分の胸元へと乗ってきた黒い犬の頭を撫でた。 こうしてアルフレートとリヒャルトは、ルドルフ達と共に故郷の村を離れ、ウィーンへと向かう事になった。「君達の事は、きっと神様が守ってくださる。だから何も心配せずにウィーンへ行きなさい。」「はい、神父様。」「リヒャルト、ウィーンへ行ったら毎日手紙を頂戴ね。」「わかった。」「アルフレート、わたしにも手紙を頂戴ね、約束よ!」二人は教会の前で幼馴染のローザとアンとそれぞれ別れの抱擁を交わし、故郷の村を後にした。 バイエルンから遠く離れたウィーンの街は喧騒に満ちた、美しい都だった。 その中心部に立つ白亜の宮殿・ホーフブルク宮殿で皇帝夫妻と二人の皇子達と彼らの姉であるジゼル皇女と暮らすことになったアルフレートとリヒャルトは、アウグスティーナ教会の司祭であるマイヤー司祭の下、互いに切磋琢磨し合いながら勉学に励む日々を送った。「リヒャルト、ハイリンヒ様がお呼びだ。」「わかりました。」 宮廷での暮らしに漸く二人が馴染めてきたある日の事、王宮図書館で本を読んでいたリヒャルトは、あの湖で起きた事件から二週間ぶりにルドルフ皇太子の兄であるハイリンヒと再会した。「やっと会えたね、リヒャルト!」にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月28日
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10月に2泊3日で北海道旅行が決まったので、色々と電車やバスのことを調べています。小樽と函館だけなので、交通手段は電車とバスだけです。計画しているだけでも楽しいのですが、調べるのが少し疲れます。まだ準備·下調べ期間はあるので、ゆっくり調べてみようと思います。
2026年08月28日
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ちいかわマーケットで注文した、プリンセスなハチワレが届きました。ダイソーの丸カラビナにつけてみました。プリンセスなちいかわも注文したので、一緒につけます。
2026年08月25日
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碧(あおい)·金太·ベル「久しぶりの外食、おいしかった!」母の誕生日祝いに久しぶりに外食しました。お盆過ぎた平日だったので、人が少なかったです。近所のイオンシネマの売店で、ちいかわグッズを見に行きましたが、お目当てのマスコット類は完売していて、島二郎のメダルとちいかわとハチワレのシャーペンが1本ずつ残っていたので、ハチワレのシャーペンを買いました。大切に使います。
2026年08月21日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あの、あなたは・・」「エル=ティムール神官、あんたの義妹になる女さ。」「御台所様、大奥に入られた暁には、京風の装束や調度品を全て武家風に改めて頂きます。」「そのような事、主上がお許しになる筈がございません!」「そうや、宮様を蔑ろにする事は、主上を蔑ろにする事どす!身の程を弁えなはれ!」 滝山の言葉に猛反発したのは、火月のお付きの女官達だった。「あ~あ、やっぱり始まったね、縄張り争い。下らないったらありゃしない。」 神官はそう言って笑うと、その場から去っていった。「皆さん、待ってください!僕が、今から装束や調度品を武家風に改めます。」「宮様・・」「あきません、そのような事をなさっては!」「荻、僕は武家に嫁いだのですから、その家風に染まるのは当然でしょう。」「まぁ、御台所様からそのような言葉を頂き、嬉しい限りでございます。では早速、わたくし達が・・」「装束や調度品は大切な物ばかりなので、荻達に運んで貰います。」「そ、そうですか・・」大奥での騒動は、たちまち「表」にも伝わった。「絢宮様は、どうやら芯がお強いお方のようで・・」「偽者だけどね。」「つ、艶夜様!?」「なぁに、そんなに驚く事ないじゃん。アリマサはそれを承知のうえでカゲツと結婚したんだし。」「それは、まことなのですか、上様!?」「あぁ。」 有匡はそう言うと、食事に手をつけずに本を読み始めた。「どうかされたのですか?」「何でもない、下がれ。」「は・・」「もしかして、また毒入りの食事が運ばれると思ってんの?」「お前には何の関係もないだろう。」 有匡は、一度毒殺されそうになった事があった。 彼を亡き者にしようと企む者達が毒見役の者達を買収し、“安全だ”と有匡に嘘を吐いて河豚の肝を食べさせたのだ。 それ以来、有匡は自分が贔屓にしている料亭が作る料理しか食べなくなった。「要らないなら、神官が食べちゃおう。」「好きにしろ。」 有匡がそう言いながら呆れ顔で自分の食事を平らげている神官を見ていると、突然廊下の方が騒がしくなった。「何事だ?」「上様、一大事にございます!水戸にて攘夷の動きあり!」「放っておけ。水戸では、誰も彼もが尊王攘夷を叫ぶ輩が居ると聞く。それは今に始まった事ではないのだから、どうという事ではないだろう。」「上様、水戸の攘夷運動を放置すれば、それらは野火のように日の本に広まりまする!」 大老・井伊直春はそう叫ぶと、互いの鼻先が触れ合うか合わぬかの距離で有匡に詰め寄って来た。「上様、どうか・・」「其方の好きにいたせ。わたしは知らぬ。」「有難き幸せにございまする!」 こうして、“安政の大獄”が始まった。 外に、動乱の嵐が吹き荒れている事など露知らず、大奥では有匡をもてなす宴の準備が慌しく行われていた。「あの、僕にお手伝い出来る事はありますか?」「まぁ御台所様、そのような格好でこちらにおいでになってはなりません!」 小袖に襷姿で御膳所に入って来た火月を見た御殿女中達はそう叫ぶと一斉に慌てた。「上様が初めてこちらへいらっしゃるので、上様の好物を作ろうと思って・・駄目かな?」「まぁ、御台所様・・」「御台所様がそうおっしゃるのなら、わたくし達は御台所様に従うまでです。」「ありがとう、皆さん、あの、上様のご好物は・・」「上様は、河豚の刺身が大層お好きでございますよ。」 そう火月に教えたのは、上臈御年寄の常盤だった。「ありがとうございます!」「いいえ。わたくしのような年増でも、御台所様のお役に立てて何よりです。」 時間はあっという間に過ぎていき、有匡が大奥入りする時が来た。「上様のお成り~!」 大奥と中奥を繋ぐ錠が外され、滝山の合図によって鈴が高らかに鳴らされた。(先生、何と凛々しいお姿・・) 裃姿の有匡に火月が見惚れていると、不意に彼と視線がぶつかった。「その簪・・」「え?」 火月は、有匡の視線が、彼女が髪に挿している赤い薬玉の簪に注がれている事に気づいた。「憶えて下さって嬉しいです!この簪は昔、あなた様が僕に・・」 火月がそう言って有匡に笑みを浮かべると、彼は火月の髪から徐にその簪を抜き取った。「其方には幼過ぎて似合わぬ。」「先・・生・・?」「代わりにこれを。」 有匡がそう言って火月の髪に挿したのは、赤い椿の簪だった。「何だ、気に入らぬか?」「い、いいえ・・」「ならば良い。」 そう言って廊下を再び歩き出した有匡の後を、火月は慌てて追い掛けた。 華やかな宴の間、有匡は終始無言だった。「上様、どこかお加減でも・・」「構うな。」「上様、膳の用意が出来ました。」 常盤の合図で、女中達が膳を持って部屋に入って来た。「今日は、河豚の刺身をご用意致しました。」 有匡は、火月を睨むと、こう言った。「お前か、この膳を用意せよと命じたのは?」「先・・上様が、河豚の刺身がお好きだと聞きましたので・・」「戯けた事を申すな!」 有匡はそう怒鳴ると、膳を乱暴に払い、部屋から出て行った。「待って下さい、上様!何がいけなかったのですか?」 慌てて自分に追い縋ろうとする火月の手を、有匡は冷たく振り払った。「其方には、何も望まぬ。」「あ、待って、先生!先・・」 有匡に触れようとした火月の眼前で、冷たく非情な音と共に、大奥は再び閉ざされた。「御台所様は?」」「お部屋にて、お休み中でございます。」「まぁぁ、何処かお身体が優れないのですか?」「いいえ、お気になさらず。」 菊は、そう言うと見舞おうとする常盤を拒絶した。(どうしたんだろう、先生・・昔は、優しかったのに・・) 火月は寝返りを打ちながら、枕元に置いている椿の簪を手に取った。 有匡からこの簪を髪に挿して貰った時、とても嬉しかった。 彼が、自分の事を憶えていてくれたと。 それなのに、何処か有匡と自分との間に見えない壁があるようで、悲しかった。「不貞寝してんの、だっさ。」「どうして、ここに?」「別にぃ。それにしても常盤って奴、あんたに嘘吐いてアリマサから寵愛されようなんて、浅ましいよね。」「嘘って、どういう事ですか?」「知らなかったの?アリマサは、肉と生魚が苦手なのさ。特に、河豚はね。昔、河豚の肝を食べさせられて、死にかけたからね。」(あ・・)「僕、何も知らなくて・・」「誰だって、自分の弱味を他人に見せたくないし、知られたくないもんだよ。ここは、アリマサにとって敵ばかりだからね。」「先生の、好物って・・」「アリマサが好きなのは、稲荷寿司とおはぎ、それに野菜の和え物だね。あんただけに、特別に教えてあげる。」 だから、もっと神官を楽しませてよね。「そのお顔を見るに、随分とお疲れのご様子ですな、上様?」「放っておけ。」「しかし、ここ数日お食事を召し上がらず、上様のお躰を皆心配しております。せめて、一口だけでも・・」「わたしが食事を取らぬのは、また毒を盛られて死にかけるのが嫌だからだ。」「上様・・」「もしわたしが死んでも、悲しむ者は居らぬだろうよ。あぁ、井伊あたりがわたしの死を喜ぶかもしれん。何せわたしは・・」「失礼致します、上様。御台所様からお届け物にございます。」「御台所様から?」「失礼仕ります。」 そう言って側仕えが有匡の前に運んで来たのは、膳の上に載った、おはぎだった。「これは?」「それは、御台所様が直々にお作りになられたものです。」「御台が?」「はい。先日のお詫びをしたいと。」「そうか・・」 有匡は、恐る恐るおはぎを一口食べると、それはとても甘かった。「上様、どうかされましたか?」「いや、何でもない。」 その時、有匡は自分が泣いている事に気づいた。―お珍しいわね、上様がお渡りになるなんて。―大奥嫌いの上様が・・「僕、どうしよう、緊張してしまう・・」「火月様、何もご心配なさる事はありませんわ。わたくしが、“ちゃんと”手筈を整えましたから。」「手筈・・?」「さぁ、そろそろお時間ですよ。」 火月は菊に、それ以上聞く事が出来なくなった。「おもてを上げよ。」有匡が寝所に入り、そう火月に声を掛けると、俯いていた顔を上げた彼女は、何処か苦しそうだった。「どうした、気分が悪いのか?」「いいえ。躰が、急に熱くなって・・」 火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「其方は、わたしに抱かれていればよい。」「あの、ひとつ、お願いが・・」「何だ?」「痛く、しないで下さい。」「わかった、優しく抱いてやる。」 寝所には、衣擦れの音と、二人の甘い声が響いた。「常盤、其方には暇を出す。」「上様、何故にございます!?」「其方、わたしからの寵愛を得ようとし、火月を陥れるとは、浅ましいにも程がある。貧乏公卿の娘が、宮家の姫に勝てるとでも?分を弁えよ。」「上様、どうか・・」「わたしは此度の事で其方を罰するつもりはないが、其方を大奥へ送り込んだ井伊はどう思うであろうな?」「あ・・」 常盤は、その夜の内に大奥から追い出された。「この痴れ者が!」「申し訳ございませぬ、井伊様・・」「もう良い、下がれ。」(あの異人とのあいの子には、好きにはさせぬ!) 正春は有匡への憎しみを滾らせていった。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月20日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「鬼だ、鬼が来たぞ!」「逃げろ~!」いつものように近所の子供達から石を投げられ、火月が泣いていると、そこへ一人の少年がやって来た。「大丈夫か?」「はい・・」「僕がお前を守ってやるから、もう泣くな。」そう言って彼は、火月の涙を優しく拭ってくれた。それが、土御門家の嫡子・有匡との出会いだった。有匡も火月も、異人との間に産まれた混血児だった。それ故、周囲の者達からは、鬼だの妖だの化猫だのと言われ、迫害を受けていた。「まぁ宮様、どうなさったのです!?」「少し、転んだだけ。」乳母の菊は火月が嘘を吐いている事に気づいた。「さぁ、お召し替えをなさいませんと。」火月は、菊に髪を梳いて貰いながら、有匡と再会できたらいいなと思っていた。同じ頃、有匡は病床の父・有仁を見舞っていた。「父上、お加減は如何ですか?」「調子はいい。有匡、お前に渡したい物がある。」「父上、これは・・」有仁が有匡に手渡した物は、自分の前から姿を消した母の懐剣だった。「いつかお前に、大切な人が出来たら、この懐剣をその者に渡せ。」「父上・・」「有匡、お前だけは幸せに・・」「父上~!」土御門家十四代将軍・有仁が逝去した事により、有匡は時期将軍として江戸城で暮らす事になった。「有匡様、もう会えないのですか?」「そんなに悲しまないで。生きていれば、きっとまた会えるから。」自分と別れるのを嫌がる火月に、有匡はそう言うと、彼女の髪に赤い薬玉の簪を挿した。「また、会おう。」それから、十年もの月日が流れ、火月は成人を迎えた。「姉様、ご結婚おめでとうございます。」「ありがとう。でも、あの方は冷たく、少し粗相をしただけでも家臣を斬ってしまう程恐ろしい方だとか・・」火月の姉・絢は、有匡との婚儀を一月後に控えたある日、失踪した。「何という事でしょう、このままでは・・」「火月様、お館様がお呼びです。」「はい・・」火月は、父から、失踪した姉の代わりに、有匡の元へと嫁ぐ事を命じられた。「宮様、よろしいのですか?」「何をそんなに悲しがっているの、菊?僕が有匡様・・先生の妻になれるなんて、嘘みたい。」火月はそう言いながら、袱紗に包まれた赤い薬玉の簪を見た。 それは、幼い日に有匡から贈られた物だった。(また先生と昔みたいに一緒に居られる!)こうして、火月は有匡の元へ嫁ぐ事になった。京を発った火月の花嫁行列が江戸へ向かっている頃、有匡は弓を射っていた。「お見事です、上様。」「そなたは?見ない顔だな。」「お初にお目にかかります、この度老中に任命されました、阿部定春と申します。」「へぇ、あんたが新しい老中?あの親父と全然似てないね。」有匡と阿部の間にそう言って割って入って来たのは、一人の少女だった。「艶夜、ここへ何しに来た?」「別にぃ、大奥が退屈だから、こっちに来ただけ。何かさぁ、滝山あたりがカリカリしてんだよね。輿入れの事で。」「輿入れというと、京から・・」「あいつら、必死になってその宮様に対抗心燃やして馬鹿みたい。アリマサの寵愛なんて、一生得られないのにね。」有匡の妹・艶夜こと神官は、そう言うと笑った。「絢宮様は、大変気立てが良い方だとお聞きしています。」「ふ~ん、それじゃぁあいつらに虐め殺されるのがオチだね、可哀想に。」「口を慎め。」「まぁ、その宮様、神官が可愛がってあげるから、心配しないで。」神官は、そう言うと笑った。「あの、あの方は・・」「あいつは、長年生き別れていた妹だ。百戦錬磨の滝山も、あいつには敵わないらしい。」京を発ってから一月後、火月は有匡との婚儀の日を迎えた。「宮様、こちらへ。」「は、はい・・」婚礼装束である十二単姿の火月が婚儀の場に現れると、周囲はその美しさにどよめいた。―あれが・・―絢宮様・・暫くして、直衣姿の有匡がやって来た。(あぁ、漸く会えた・・)火月がそう言って有匡を見ると、彼は氷のような瞳で火月を睨むと、彼女にそっぽを向いた。(え・・)一瞬何が起きたのか、火月は信じられなかった。(この人が、僕に優しくしてくれた先生?まるで、別人みたい。)有匡と婚儀を終えた後、火月は大奥に入った。「お初にお目にかかります、御台所様。わたくしは大奥総取締役の、滝山と申します。」嫉妬と欲望、愛憎渦巻く大奥という茨の海の中に、火月は放り込まれた。「へぇ、あんたアリマサの嫁?偽物の癖に可愛いじゃん。」神官はそう言うと、口元に笑みを閃かせた。にほんブログ村二次小説ランキング
2026年08月20日
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ちいかわマーケットで注文していた、まじかるちいかわのハチワレぬいぐるみキーホルダーが届きました。可愛いです。さすまたがついていました。まじかるちいかわのハチワレを、パイロットハチワレとお星様ハチワレと一緒にリュックにつけてみました。なんとかつけられて良かったです。大切に使います。
2026年08月19日
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280万hit、ありがとうございます。二次小説は暑さのせいで中々書けませんが、無理のないペースで書こうと思います。
2026年08月17日
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ダイソーオンラインショップで注文していたものが届きました。リュックにつけているロック付きカラビナです。予備として4個買いました。カラビナ付きの美女と野獣のエコバッグです。エコバッグはマチがあって使いやすそうです。大切に使います。
2026年08月14日
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Seriaの推し活コーナーで見つけました。カラビナやカニカン、ナスカンに巻き付けて使うものだそうで、早速つけてみました。セイレーンと島二郎のぬいぐるみキーホルダーに、それぞれつけてみました。セイレーンのぬいぐるみキーホルダーのカラビナ部分を開きにくくして、島二郎のキーホルダーも同じようにしました。説明書に書かれていたように、完全に紛失防止のための道具ではないので、あくまで気休め程度につけてみました。カラビナはボールチェーンより安全ですが、万が一のことを考えてつけてみました。
2026年08月13日
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久しぶりに家族でりんくうアウトレットへいきました。台風が近づいているからか、風が強かったです。 日差しがきつかったのですが、暑くはなかったです。 お昼はシーサイドエリアのフードコート内になるパンダエクスプレスで取りました。オレンジチキンとモンゴリアンポークのライスプレートランチ。味が濃くて美味しかったです。りんくうシークルが10月末に閉館するそうなので、見納めだと思って撮りました。
2026年08月11日
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今使っているサンリオのペットボトルカバー、中が少しボロボロになってしまって、まだ使えるのですが新しいものをセリアで買いました。プーさんが大好きなので、プーさんのデザインのペットボトルカバーにしました。バッグにつけられるのでいいですね。Can Doで昨日買ったぬいぐるみスタンドで、セイレーンちゃんを自立させてみました。後ろにぬいぐるみ撮影スタンドを挿し込んで持つと、撮影棒にもなります。結構便利ですよ。
2026年08月10日
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ちいかわマーケットで注文した、島二郎ぬいキーホルダーが届きました。ダイソーで買った、O型カラビナを左右それぞれリュックにつけました。キーリングをつけたら、丁度いい感じにつけられました。大切に使います。リュックにつけていたNICIのキーホルダーは、NICIの筆箱につけました。カラビナの部分を繋げて、補強してみました。ロック付きなので、簡単に外れません。
2026年08月07日
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