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二宮先生語録巻の２【172】
【一七二】 多 ( た ) 才 ( さい ) の 士 ( し ) 、 道 ( どう ) 徳 ( とく ) に 乏 ( とぼし ) く 書 ( しょ ) を 著 ( あら ) わし 古 ( こ ) 語 ( ご ) を 引 ( ひ ) くも、 亦 ( また ) 専 ( もっぱ ) ら 子 ( し ) 史 ( し ) 在 ( あっ ) て、 学 ( がく ) 庸 ( よう ) 論 ( ろん ) 語 ( ご ) に 及 ( およ ) ばざるなり。 蓋 ( けだ ) し 聖 ( せい ) 語 ( ご ) は 才 ( さい ) を 以 ( もっ ) 解 ( と ) き 難 ( がた ) し。 抑 ( そも ) 々 ( そも ) 己 ( おの ) 心 ( こころ ) に 合 ( あ ) はざる 故 ( ゆえ ) か。 此 ( これ ) 等 ( ら ) の 人 ( ひと ) 、 学 ( がく ) 庸 ( よう ) の 道 ( みち ) を 以 ( もっ ) て 難 ( かた ) しと 為 ( な ) すなり。 思 ( おも ) はざるも 亦 ( また ) 甚 ( はなはだ ) し。

１『二宮翁夜話』二五「翁曰く、才智勝（すぐ）れたる者はおおよそ道徳に遠きものなり、文学あれば申韓（重刑主義の法家の申不害と韓非子）を唱え、文学なければ三国志太閤記を引く、論語中庸などには一言も及ばざるものなり、如何となれば、道徳の本理は才智にては解せぬものなればなるべし、此れ流の人は必ず行いやすき中庸を難しとするものなり、中庸に、賢（ケン）者は之に過ぐ、とあり、うべなり、おおよそ世人は、太閤記三国誌等の俗書を好めども、甚だ宜しからず、さらでだに争気盛んに、偽（ぎ）心萌（きざ）し初る若輩の者に、かある書を読ましむるは悪し、世人太閤記三国誌等を能読めば、怜利になるなどと云うは誤りなり、心すべし。」

《訳》多才の人は道徳に乏しく書物を著し古語を引いても、もっぱら孟子や史記の類いであって、大学・中庸･論語に及ぶことがない。なぜかといえば聖人の言葉（大学・中庸･論語）は才では解き難いからである。そもそも自分の心に合わないからであろう。これらの人は大学・中庸の道を難しいという。よくよく物事の道理を考え抜いていないことはなはだしいではないか。