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夜烏になった三郎 (6)
| まず、太郎が呼ばれました。 |
|---|
| 「おまえは、嘘つきで悪知恵も働くようだ。しかし、ひとつだけ真実があった。それはおまえが、本当の粟の穂を私に届けてくれたことだ。おまえは正直者であると同時に嘘つきで悪知恵もよく働く。おまえは、これからは、この五穀を大地に蒔き、この綺麗な水を使って生活しなさい。おまえは嘘をついた報い、悪知恵を働かした罰を受けながら、人間として永遠の労働を続けなさい。しかも、おまえが四郎からかけられた汚い水は死水だ。おまえは死の宿命を負って永遠に働き続けるのだ」と告げました。 |
| 四郎が呼ばれました。 |
| 「おまえは、ほんとに正直ではない。太郎が知恵をいれたとしても、正直に空の樽をどうして持ちかえらなかったのだ。さらにおまえは大変なことをしでかした。おまえが太郎にかけた水は死水だ。太郎は豊かな食を与えられるが、きつい労働の罰を受けていずれは死ななければならないのだ。おまえはその責任を取るのだ。おまえは雲雀になって私に謝り続けるのだ。天に向かって上り続けるのだ。何度も何度も天に向かって羽ばたき続けなさい。よいな」と念をおされました。 |
| 次に次郎が呼ばれました。 |
| 「次郎、おまえは私を騙せると思ったのか。痛かったろうに。ところで、おまえが飲んだ水は活水(いきみず)と言って、不死を約束するありがたい水だ。おまえはこれから不死身になる。しかし、おまえが腹いっぱい何日も食べたイチゴは、蛇イチゴと言う毒イチゴだ。おまえは蛇になって毎年自らの皮を剥いで新しく生まれ変わることが出来る。よいな」と、また、念をおされました。 |
| 最後に、三郎が呼ばれました。 |
| 「ご苦労さん、三郎。夜もろくろく寝ずによく監視した。でも、言いたいことがある。おまえは、兄や弟のことを私に報告する時、なぜ、それほど冷淡になれたのか。人間は神の命に決して背くことはできない。しかし、少しの動揺もなかったのか。兄弟の味方をしたいと言う気持ちも起こらなかったのか。悲しいことだ。それほど冷淡に判断が出来るなら、私の力を少しだけあげよう。おまえに、死を予言する力を与えよう。その代わりおまえは、夜となく昼となく人間を見張れるように夜もよく見える眼を持った夜烏になるのだ」と告げてさっと席を立ちました。 |
| どこにも神様の姿は見えませんでした。 |
| さて、歴史に残らないこの事件があってからどれほどの時が過ぎたでしょうか。 |
| 私たち人間も他の動物も、夜烏になった三郎のひと声で死んでゆき、蛇になった四郎は、いつも赤い目の奥に怨念の秘めて人間を見据え、地上の巣に産み落とされた雲雀の卵を食べています。また、雲雀にされた四郎は、天におられる神様に謝罪するために「デーズドーチッチ(大変なことをしてしまったチッチッ)」と鳴きながら羽を四・五回ばたつかせて、まっしぐらに天に昇ろうとしても、途中からいつも羽が動かなくなって、まっしぐらに地上に落ちてしまいます。 |
| 太郎はかろうじて人間のままでいられたものの、あるときは正直者になり、また、あるときには悪者になってしまうのです。そして、永遠に労働からl解放されず、兄弟を失った苦しみを忘れるために、年に何度かのお祭りをし、あらゆるものへの供養と共に狂気の騒ぎをするのです。 (おわり) |