暇物語~頭の中の世界へ~

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アステくん

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Jun 20, 2018
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カテゴリ: 小説
漆黒の闇の中にいる少女は腕の時計を見た。

「もうすぐね・・・」

少女の側に一人の老人が座っている。

「そうじゃのぅ。お、戻ってきたみたいじゃぞ」

その老人が手をかざすと闇の中に映像が流れ出した。

病院の待合室にいる三郎と浩介の姿が映し出されている。

「では迎えにいくとするか」

その言葉を残して老人の姿は消えた。

そして映像の中の三郎が浩介に向かって何か喋っている。



すると少女がいる闇に光の扉が現れ,三郎が入ってきた。

元の老人の姿で少女の隣に立つ。

その横には先ほどの老人も立っている。

「どう?想いは置いてきた?」

少女の問いに三郎は笑みを浮かべた。

「あぁ、ありがとう」

そう言うと同時に先ほどとは別の位置に新たな光の扉が現れた。

少女が再び腕時計に目をやる。

「調度ね。あなたはもう死ぬわ」

その言葉に三郎はもうショックを受けなかった。

「そうじゃの。まぁ満足な人生じゃったわ」



その後を老人がついていく。

「あの扉の向こうが死の世界なんじゃな?」

「そうよ。あとはこの老人が案内してくれるわ」

三郎は老人を見た。

「あんたは?」



「わしは神様じゃ。この娘の保護者でもあるがのぉ」

三郎は少し驚いた素振りを見せたが、再び扉に向かって歩き出した。

歩きながら振り返り少女に問いかける。

「あんた、名前は?」

「聞いてどうするの?」

三郎は素っ気無く答える少女に笑顔で聞き返す。

「恩は返す主義じゃ。来世で借りを返すために名前教えてくれ。」

一瞬の沈黙の中、少女は小さな声で答えた。

「沙希,私の名前は沙希」

「沙希か・・・いい名前じゃの。死んでも忘れんぞ!」

三郎の歩みが止まる。次の一歩で扉の中に入るからである。

ためらいだろうか?

いや、三郎の顔は幸せな笑みで満ち足りている。

「沙希さん、花は好きかの?」

沙希は黙って首を左右に振った

「そうか…今度の春に××公園に行ってみてくれんか?」
「きっときれいな花が咲いとるはずじゃからな」

そう言って片手を軽く上げながら三郎は扉の向こうへと歩いて消えた…

それから長いときが流れて…

沙希は××公園にいた

三郎の言葉を思い出しそこにある花とやらを見に来た

春の陽気の中で多くの人が公園を訪れている

公園の端に大きくは無いが同じ公園にあるどの木よりも
きれいな花を咲かせている桜の木があった

その桜の木は昔からあったものではなく,誰かが勝手に
植えたものだろうとのことであった

その桜を多くの人が見て笑顔が生まれている

あの日,三郎が自分の家の庭からここへ移した桜であった

「綺麗…ね」

沙希の表情は変わらない

ふと一人の男に目がいった

その男は長い時間その桜に寄り添い,たまに何かを話しかけている

沙希はその様子を見て首をかしげた

「あの人は何で木に話しかけているの?」

その言葉に反応するかのように一人の老人が現れた

「ふぉっふぉっふぉ.あの男はあの木に思い出でもあるんじゃないかのぉ.どれ…」

老人は宙を舞いながらその男の体の中へと消えていった

そして再び沙希の隣に現れた

「あの男にとってあの木は親の残した形見…みたいなものだそうじゃ」

「親の…形見…」

沙希の心に何か温かい感情が生まれた気がした

「これ以上は野暮というもの…さぁ我らの世界へ帰ろうかのぉ」

その言葉に沙希は軽く頷き,公園の出口に向かって歩き始めた

老人は沙希について行かずに,桜の木の枝に腰かけた

誰も騒ぐ者はいない.どうやら周りからは老人が見えていないようである

老人は徐に懐から小瓶を取り出し中の液体を木にかけた

「三郎さんよ.あんたの木は多くの人の心に歓びを与えておる」
「うちの沙希の心にも何か響かせてくれたようじゃ」
「あの日、天に上る寸前にあんたが言った言葉…守れたようじゃな」


『あの木は浩介の母親が大切にしていた木じゃ』
『植えても育ちが悪くいつまで経っても小さいままじゃった』
『でもその娘はこうい言っとった』
『この木は必ずたくさんの人を喜ばす桜の木になる』
『自分はその花を見るまで生きられないと思う』
『だから三郎さん,私の代わりにその花を見てほしい』
『そして天国でその様子を教えてほしい』

老人の体が透けてきたように見える

老人に液体をかけられた桜の木はより輝きをまし
見ていた人より歓声が沸いた

そして桜の木の傍にいた男の後ろにその桜を見て
微笑んでいる老夫婦が見える

老夫婦はお互いの顔を見合わせとても幸せそうな
笑顔を浮かべ,すっと消えていった

その様子を見て老人もすっと消えていった

そして桜は変わらず綺麗な花を咲かせていた

終わり





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Last updated  Jun 20, 2018 10:39:47 PM
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