気まずい

2004.04.23
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お気に入りの焼き鳥屋がある。

リーズナブルな値段設定は、俺の財布にやさしい。
何よりもいいのは、焼き鳥屋だから気取りがなく、
女性になんの期待も抱かさずに連れて行くことが出来ることだ。
期待をしていない女性を満足させるのは難しいことじゃない。
言ってみれば勝負焼き鳥屋である。
高くて素敵な店はいろいろあるけど、俺はこのさりげなさがお気に入りの所以だ。
キャビアは出ないけど、計算された塩加減の「かわ」はそれに負けないし、

「レバー」はさながらフォアグラである。

その店にある女性を連れて行くことになっていた日の仕事中、
元勤めていた会社の後輩からメールが入った。

後輩『唐町さんが前にうまいって言ってた焼き鳥屋ってどこでしたっけ?』

俺はあせった。今日は満を持してその焼き鳥屋に行こうとしているのに、
こいつと鉢合わせして、気まずい思いなんてしてる場合じゃないのだ。

俺 『え?いつ行くの?』
後輩『今日これから行こうと思ってんですけど』

やっぱり今日だった。

俺 『今日?今日は休みじゃないかなぁー』
後輩『水曜日にやってない焼き鳥屋なんてないですよね?電話していいですか?』



後輩「焼き鳥屋の場所どこですか?」
俺 「なんで今日行くんだよ。明日にしたら?」
後輩「今日行きたいんですよ」

とっさに他の焼き鳥屋を教えた。その焼き鳥屋もなかなか美味いのだ。

後輩「そんな場所じゃないですよね。違いますよ。そこじゃなくて」



俺 「あのさー。今日は行かないでくれ。頼む。俺も行くんだ、今日。
   ・・・」

俺は頼む作戦に切り替えた。全てを打ち明けて、後輩にお願いした。

後輩「じゃあ一緒に飲みましょうよ」

失敗だった。

俺 「いやだって。今日は勘弁してくれ、頼むから」

後輩「今日しか行く日がないんで行ってみます。場所どこですか?」

しょうがないから、いい加減に場所を教えて電話を切った。
少し時間がずれていたから、早く食って帰ってくれと願った。
でもあいつのことだから、ニヤニヤして待ってるだろうなとうなだれた。

30分後、後輩からメールが入った。

後輩『着いたんですけど、ガソリンスタンドの向かいの○○という店ですか?』

俺は心の中でガッツポーズをした。いい加減に店の場所を教えたかいがあった。
俺の勝負焼き鳥屋じゃなかったのだ。違う店に着いたらしい。ざまーみろ。
しばらくメールの返事を返さなかった。
そう。俺は仕事中なのだ。
メールをすぐ返せなくてもしょうがないじゃないか。
電話もかかってきた。
そう。俺は仕事中なのだ。
私用の電話をとれなくて当たり前じゃないか。

20分後、俺はメールを出した。

俺 『ちがうよ。その店じゃない』

後輩『そうなんですか?もう入っちゃいましたよ』

俺は勝った。
後輩と今度その焼き鳥屋で飲むことを約束して、試合終了。

仕事が終わり、予定通り勝負焼き鳥屋に行き、予定通りに過ごすことが出来た。
でも、焼き鳥が思ったほどおいしくなかった。
その女性とその店で一緒に過ごした時間、それが何よりも素敵でおいしかったから。






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Last updated  2004.04.23 16:38:58
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