自宅警備中に感じる諸々のこと。

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2003.08.10
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彼は何度か目を覚ました。
寝返りを打つときも慎重に、ユックリやったはずなのに。
照明を落とした寝室の中で、彼は決して不愉快な顔をする事はなく、むしろその顔はとても穏やかだ。
眠りを妨げられた人間のものとは、とても思えないような。

9時過ぎに彼は部屋を出て行った。
「水分はちゃんと取ったの?寝起きで軽く脱水してるはずだから、キチンと飲むようにね。2時間ほどで戻るから、なるべく早く帰るから。」
「うん、いい子にしてるから心配しないで」
「お昼を買って帰ってくるから、待っててね」

ドアのところまで見送る。そういえば、こういうのって久しぶりだな・・・

ふと見るとガラスが随分曇っている。ガラスの曇りを拭きとって、ついでにシンク周りの掃除をし、調子に乗って水周りの掃除を始める。
しかし、完璧にはできないし(洗剤とか道具が不足してるので)、それにあまりガシガシと磨きまくるのも、彼の縄張りを好き勝手に弄ってるみたいで嫌なので程ほどに留める。

程ほどに動いた後、ソファに身を預ける。
赤いカーペットの上に白いソファ。
このソファは中々に座り心地が良く、1人で横になるには丁度いい大きさ。調子にのって身体を横たえて、ソファを独占してみる。

いつだったか、ル・クプルの歌に
うたた寝していたんだ 気持ちいいsofaのような 貴方の中で

・・・なんてな歌詞があったけれど、本当にうたた寝してしまった。
彼はそれなりに眠ってたのだと思うけど、私は寝返り一つに神経質になってしまうため、少し眠りが浅くなる。
そして自分の部屋に帰ってきたときに、どっと疲れが噴出してしまう。彼の前では疲れは吹っ飛んでるくせにね・・・

彼が帰って来たときのドアの音で目が覚めた。


先程まで私が眠っていたソファに、今度は彼と並んで座る。
そこで食事を済ませて、それから少し仕事の話をしてくれた。

病院そのものの規模は大きくしなくていいから、患者さんの社会復帰の為のデイケアとか作業所とかを作りたい。それが彼の夢なのだ。今日の講演も彼の患者さん達で結成した自主グループ(患者会)に向けた、一般向けの内容だったのだという。
因みにお題は「ノーマライゼーション」。
患者自身は病気を上手にコントロールし、社会の一員としてやっていこうとする。それに対し、周辺も病気に対しての理解ができ、地域の中で受け入れようとする。

精神疾患というとまだまだ、偏見も多い。
他の診療科の所には行けても、精神科を標榜する所には行きにくいという話は、とても判りやすい例だ。事実私もそうだったから。

難しい事だからこそやりがいもある、こうなってくれるといいんだけれど、等と話して聞かせてくれるのを、頷きながら聞いた。
忙しくて日々の業務に追われていても、叶えたいものがあることは彼の原動力に繋がるわけで・・・疲れを感じさせず熱っぽく語る彼の姿を見て、私は心底羨ましいと思った。

とりたてて、叶えたいものなどなく、日々をただダラダラ送るだけの自分とを重ね合わせ、恥ずかしく思った。

帰り際、
「ねぇ、今度はいつにする?」
思いがけず聞かれたのでビックリした。
今まで帰り際に、次回の予定なんか話した事がなかったからだ。
「いつがいい?先生は14日は何処か行くわけ?」
「墓参りに行こうと思ってたくらい。」
「14日に仕事終わってからこっちに向ってもいいし、次の15日でもいいし。先生の都合のいい方でいいよ」
「仕事終わった後でも大丈夫?疲れない?」
「心配しないで。片道2時間くらいだから大丈夫」
「じゃ、途中まで送ってくよ」
「ありがと」

駐車場まで2人で歩く。
「今度は海を見に行こう。海が見たいんだ。別に泳ぎたいとかじゃなくてね」
「じゃ、水着持参でなくていいね(笑)」

また、彼の方から約束を取り付けてくる。
束縛されるのは一度酷い目にあってるので嫌いなんだけれど・・・なーんか悪くないな、こういうの。





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最終更新日  2003.08.12 00:17:09


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