りじょん

2004.12.24
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類


銀魂編10





 男山崎が途方にくれている頃、女山崎――翠さんは、副長の後ろについて真面目に見回りをしていた。
 着物ではなく、平隊士の隊服を着用している。

「……その服はどこから持ってきたんだ」

 渡した記憶のない副長は訝しむ。

「退くんがくれたんですけど」
「アァ!? 山崎が!? じゃあ、もしかして…」

 眉がひくりと動く。

「お前が持ってる大小もか」
「ハイ!!」

 にこにこと満面の笑みの翠さん。
 嬉しそうに、『大小』――打刀と脇差に手をやる。
 持ってるだけでも抑止力になるから、と山崎が貸してくれたのだ。

 (山崎…帰ったら切腹だ)
 副長は嫌味なほど晴れ渡る空に舌打ちした。

 見回り、とはやはり、その名の通り「見回り」で、真撰組が歩いているだけで犯罪牽制になるらしい。
 中でも、特に眼光の鋭い土方副長が歩けば、人並みがさっと割れる。

 (モーゼちっく!)

 打刀を引きずるように、翠さんは、足早な副長に必死でついていく。

「今日天気いいですね副長!」
「あァ」
「あんま事件とかないんですね副長!」
「あァ」
「退屈そうですね副長!」
「あァ」

 ……ぷかりと煙を吐くばかりで、まるで話を聞いていない。
 翠さんは試しに吹っかけてみた。

「私、役に立ってますかね副長!!」
「あ――ァ、って言う訳ねえだろうがボケ」

 ひっかからないのはさすがだ。
 しかし翠さんも負けてはいない。

「ボケじゃないです、ツッコミです!」
「アホか、その発言自体がボケじゃねぇか!」
「わー、サッスガ!!」

ぱつぱつと手を叩く翠さんに、副長は大きく息を吐く。
 大通りを歩く町人たちは、もの珍しげな視線を送っている。
 威厳も何も、あったものではない。

「お前、もう帰れ」

「えぇ!! 何でですか、まだ出発したばっかじゃないっすか!!」
 慌てて副長の横に走り寄った。

「気の迷いだった。許可したことは忘れろ」

「そんな!まだ何の役にも立ってませんですぜ!?」

「てめぇなんぞが、見回りの役に立てるのかよ」

 温かい日差しも忘れるような、きつい口調だった。
 翠さんは思わず、ぐっと詰まる。

「会計っつーことで、勘弁してやってんだ。じゃなきゃお前みたいな小さい女――
 それが、佩刀携えて見回りだと? 足ひっぱるのが落ちじゃねえか」
「それは、退くんにも言われました」
「……は?」

 決然とした声に、副長は言葉を止める。
 翠さんは、すっと刀を差し出した。

「これを受け取るときに、言われました。
 何かあっても、これを抜くことなく逃げろって。
 決して、副長の邪魔はしないでくれって」
「――山崎が?」
「でも」

 腰に、刀を差しなおす。

「抜きますよ、私は。必要ならいくらだって。
 役に立てるかじゃない――役に立つんです、何があっても。
 もし私が邪魔になるなら、その時はこれで切腹だって厭いません」
「お前――」

 副長は目を見張った。
 翠さんは、真剣にその目を見つめ返した。
 喉をごくりと鳴らす。

 (…ここでボケたら、殺されるな)

 その時、道の向こうから悲鳴が響いた。

★★★

(む……)

 突然、井上さんは身を起こした。
 側には妙なマスクをして横たわっている沖田さん。

「ぐご---------------」

 と、もう一人……。

「すー……すー……」

 体育すわりをし、顔をひざにうずめている……。
 聞こえるのは規則正しい寝息。

「山崎くんっっ……!!」
 ばしいっ!!

 井上さんの張り手が頭に飛ぶ。
 前のめりに倒れこむ山崎。
 井上さんはびしいっと山崎に人差し指を突きつける。
 そして大声で言った。

「見回り中に何気持ちよさそうに寝てんのよっ!!」

 自分のことを棚に上げている。
 それも極度に高い棚に……。

 山崎は頭を抑え、半泣きである。
 くちがむなしく閉開を繰り返す。
 何か言い返したいがあまりの理不尽さに何も言えないといった状況か。

「おっ、起こしたじゃないですか、俺!」

 ようやく出た言葉はどもっていた。

「そんな私が寝てたみたいな言い方しないでくれる?」

 寝てました。
 山崎は無言でうつむいた。
 何を言っても無駄だ……と悟ったのだろう……。

「なんか、いい臭いがしてさ~、目ぇ覚めたわけよ」

「……自覚あったんじゃないですか……」

 むなしく、こっそりため息。
 そんな山崎を完全無視して、井上さんは鼻をひくひくと動かしている。

(肉……牛肉の臭いがする!!)

 目がぎらぎらと輝き始める。

「殿、殿、高級牛肉が炭であぶられる臭いがする……!!」

 ……細かい。
 沖田さんはむくりと体を起こした。
 山崎は思わず、目をひんむく。

(俺があんなに苦労したっうのに!! そんなあっさり!?)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2020.01.18 18:21:43


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: