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2006年09月30日
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カテゴリ: 小説・詩など
 カーンと音がテレビより聞こえる。球場の歓声がテレビの中から聞こえる。
 親父は、テーブルを叩き、テレビをプチと消し居間から出て行く。
 また、負けたのか、九回まで持ったんだから、いいじゃないか、これで好きな番組が観られる。

 テレビをつける。そしてチャンネルを好きな歌謡曲ランキング番組に合わす。
「間に合った」
 思わず小さく言ってしまった。聞こえなかったよなぁ。寝室に居る親父に聞こえると面倒な事になる。今は頗る気分が悪い筈だ。嬉しそうな声なんか聞こえると怒られなくていい話題で怒られるのは目に見えている。
 応援しているのが弱い球団なんだから気分が悪い方が圧倒的に多い。だったら真剣に応援しなくていいもんだろうに。
 そんな事を思いながら、一位のランキングを観て、歌手が出てきて一位になった曲を熱唱している。
 この曲好きなんだよなぁ。思わず歌いそうになったが、これが聞こえると喧嘩になっても行けないので心の中で歌い、その歌えない分体のリズムで表現した。


「観たよ。やっぱり予想通り一位だったね」
「かっこいいよ。あの曲好きだ」
「そう、そう」
「何週行くんだろうかねぇ」
「そうだね。何週一位なんだろうねぇ。結構連続で行くと思うよ」
 学校に行く途中友達とのそんな会話をした。

「今度の休み。皆で球場に行くぞ」
 あちゃ~。私も含めて? もう仕方ない逆らえない。連れて行ってくれるなら別の所にして欲しいもんだ。

 メガホンと野球帽子を店で買った。そしてそれを親父は私に渡した。被れと言う事なんだ。ジブシブ被る。まだ、試合まで時間があるのにこの時間から来なくて良いもんだけどしきりにあの選手は将来性があるとか、怪我さえなければレギラーなんだけどなんか、私に話しかけて来る。何度も聞くと少しは覚えて来るもんだ。

 試合が開始された。私達の周りには外野席と言う事もありその弱小球団の私設応援団も試合も観ずに私達の方向を向いて夢中で応援している。

 そんな応援や周りの雰囲気か如何か分からないが、私も野球、全然分からないけど。親父の解説で少しずつ分かって来ている。


 ちょっと諦めモードにもなったが応援団は、一点ぐらい追いつくと声を枯らしながら必死に応援をしている。
 そしてツーアウトになった。ランナーは出ていない。でも、応援団と親父はまだまだ必死で応援している。それを観ていると私も思わず応援してしまった。
「まだだぞ。ここまで、ボール飛んでこい」
 思わず言ってしまってた。周りもそうだ。ここまで来いと同じ事を言う人も出てきた。
 そして、デッドボールで出塁した。

 相手もマウンドに選手が集まり、ピッチャーの動揺を抑えていた。
 ここからだとマウンドは小さくてその表情までは分かるはずも無かった。
 そして伝えられた、ピンチヒッターは始まる前に親父が一押ししていた、選手だった。苦労して中々芽が出ない選手だそうだ。今年からピッチャーから野手に転向して再起を掛けたとの事だった。
 私もあの選手かっこいいと思っていた。

 そして打席に立っていた。ここからじゃ豆つぶみたいだけど、私には大きく写っていた。
そして第一球目。
「カーン」
 と快音が響いた。
 周りの歓声が響いた。
 ボールがドンドンこちらに来る。心の中で叫んだ。
「ここまでボールこい」
 そしてボールが迫って来た。本当に私の所まで来ていた。親父が私の帽子を取ると、私に渡した。何が起こったのかその後も分からなかったがその瞬間から周りがスローモションになって行った。迫り来るボール、確実に私の所へ来ている。私のところに来た瞬間、帽子をそのボールの方向に向けた。
 そして、帽子に重さを感じた。それからは、通常のスピードに戻っていた。球場に響く歓声。一際私達の周りの歓声が凄かった。
 応援団が初めて球場の方を向いていた。その肩は震えていた。
 私の周りにも、良かったねとの声を見知らぬ人達から掛けられた。

 ヒーローインタビューが始まっていた。
 お立ち台に立つと皆の歓声が響いていた。
「逆転さよなら。そして自身第一号ホームランおめでとう御座います」
「ありがとう御座います」
 球場の中から、良く頑張ったとの掛け声が聞こえていた。
「今のこの思いを誰に伝えたいですか?」
「昨年亡くなった亡き父に捧げたと思います」
「さぞ、今日の勇士を天国から祝福している事でしょう。本当におめでとう御座いました」
「ありがとう御座いました」
「最後に何か一言」
「ここの球場に来られた方、テレビの前の方々。また活躍しますので、是非球場に足を運んで来て下さい。今日の日を忘れません。本当にありがとう御座いました」
 そしてヒーローインタビューが終了した。

 皆が帰って行く。何を思ったか親父は、私設応援団の人に話しかけ、そして応援団と私達もついて行った。球団関係者に何か言っている様だった。
 しばらくして何かゲートをくぐり廊下で待っていると、あのお立ち台の選手が出てきた。親父からあのボールを選手に渡せとの事だった。そりゃ記念だからね。渡そうと思っていた私よりも、選手本人が持っていた方が良いに決まっている。
「おめでとう御座います」
 そして事情を親父が選手に話していた。ちゃっかり色紙とサインペンが持って書いて貰ったのは私よりミハーなんじゃないかとその時思った。その血が私に流れている。考えまいと思った。
 選手は色紙にサインすると私の方に向いて言った。
「始まる前から居たよね」
「えぇ居たよ」
「君と目が合ったの知っている」
「やっぱり目が合ったんだ」
「今日はなんか良いことがある気がしていた。そして実際にあった」
「よかったですね」
「真新しい帽子だね」
「そう今日買ったの」
「そうか」
「昨日までは正直全然思ってなかったけど、今日からファンになっちゃった」
 正直な感想を言った。
「ちょっと帽子借りるね。この帽子で取ったんだね」
 そう言うとサインとメッセージを書いていた。
「はい。これ」
「ありがとう」
「それじゃ」
「あぁ。待って、これどうぞ」
 例のボールを渡した。
 ボールを受け取るとまたサインペンでそのボールにサインをした。
「はい、これは君に持ってて貰いたい」
「え~。なんで。大事な記念のボールだよ」
「大事だから、君に持って貰いたい。なんだか君がこのホームランを呼んだ様な気がしてならないだよ。天国の親父もそう言っている気がした」
「分かった大事にする。でもこれは受け取って」
 私はポケットからお気に入りのハンカチを出した。
「これは私から、幸運のハンカチ。私のサイン入りだから」
 そう言うと既に書かれた名前の横に今日の日付と私の今の思いを書いた。
「ありがとう受け取っておくよ」
「そうだよ。もし辛くなったらこのハンカチをみてこのホームランの事を思い出して」
 その書かれた文章を見ていた。
「ボールより大切な物を貰った。ありがとう。大事なお守りにするから」

 カラスケースの中にはあの記念ボールと色紙と帽子と笑顔の記念写真がセットで飾られていた。

 帽子には、こう書かれていた。
「この幸運は偶然じゃない。この帽子でホールをキャッチした様に、いつか君にも幸運が絶対来る」
 ハンカチには、こう書かれていた。
「このハンカチは幸運への定期券です。第一号のホームランの日から期限は無期限。ただし努力は必要ですからね。がんばって」


<おわり>





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最終更新日  2006年09月30日 19時30分21秒
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