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2005年04月10日
深い森
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翌日、レンタカーを借りた。
行き先を訪ねられる。今までレンタカーを借りる時に、行き先なんて聞かれたことがない。
たいした目的もなかったので、答えにつまる。
「とりあえず、西のほうに行こうかと」曖昧な返事になった。
最初は島内を一周しようかと思ったが、島の西部にある西部林道は道幅も狭くて、カーブも多く、落石もあるらしいので止めることにしたのだ。
とりあえず西部林道の近くまで行ってみようと車を走らせた。
西部林道の近くまで来ると、たくさんのヤクザルが道路を占拠していた。
海が見える場所で車を停めて、海をのんびり見ようとしたが、あまりにも荒々しい海。
海から吹き上げる風が、山に当たり、雲になり、雨を降らすのだろう。
あまりのんびりできそうな雰囲気でもないので、早々にレンタカーを返しに行こうとした。
途中、空が急に暗くなり、雨に見舞われたが、無事にレンタカーを返すことができた。
バスで宮之浦まで行く。
観光センターに行き、今度は「屋久鯖定食」を注文する。こちらはなかなかの美味だった。
徒歩でこのまちを散策すると、ゆるやかな流れの川もあり、とてものんびり安らぎを与えてくれる。
ぽつぽつと街の灯りがつく。
そろそろホテルに帰らないと、
少年のころ、暗くなるまでに帰って来なさい、と母親に言われて帰るように、急いでバスに乗り込んだ。
当時のように、この島が暗くなるのが怖いのだ。
17時45分、屋久島空港の最終便の飛行機が飛び立つのを、縄文杉に登頂した日以外はいつもこのホテルの窓から見送っていた。
飛行機は轟音を響かし、旋回して鹿児島空港に向かっていく。
夜の帳をおろす頃には、この島の森がざわめきたつ。
風のざわめきや動物たちの雄叫び、まるで島全体がひとつの生き物のような気がする。
それらを確認したあと、強い風が吹きすさぶ窓を閉める。
それがこの島での日課となっていた。
***********************************
僕は旅に出て数日過ごした部屋に愛着を感じてしまい、去りがたい衝動にかられるのである。
荷物をドアの近くに置き、いつでも出られるようにして、
部屋に忘れ物がないか何度も確認する。
風呂場を覗いたり、ベッドのシーツをめくってみたり、冷蔵庫の中を開けてみたり、忘れ物をするのがいやなのもあるが、それよりもなによりもこの部屋を離れることが名残惜しいのだ。
意を決して部屋を出てドアを閉めるのだが、またドアを開け、部屋の中に入ってしまう。
そんなことをしているうちにバスが来る時間になってしまった。
足早にホテルのチェックアウトを済ます。気遣ってくれた主人はいなかった。
乗り慣れたバス停に、時間どおりにやってきたバスに乗り込む。
船の時間まではまだ間があるので港を通り過ぎ、中間のガシュマルとフラワーパークを見学した。
最後の観光を終え、バス停でバスを待っていると、地元のおばあさんがやってきた。
話し相手になってもらい、雨のことやこの島のことなどを質問してみた。
驚いたことに、おばあさんは一度もこの島から出たことがないらしい。
ずーっと百姓をしていたと、これからも百姓をし、島を離れずここに骨を埋めるだろうと、
港へ向かうバスに乗り込む。
屋久島のバスはいたって単純で、島をまわるこの路線バスは、ホテルから街へ出るのにとても重宝した。
通学時間帯にぶつかり、たくさんの高校生が乗り込んできたこともあった。
最後の屋久島の景色を車窓から楽しんでいた。
恋泊や焼酎川という風靡な名前の停留所を過ぎていく。
この島とも、やっとお別れだなと思った瞬間、突然大粒の涙が目からこぼれ落ちた。
悲しいというわけでもなく、寂しいというわけでもない。
自分の意識とは関係のないところで、感情が何かに触れたのだ。
何故か?
今回の旅がつらかったからだろう。
縄文杉登山の想像を越えたきつさ、
登山者を迷わす森、不安と孤独、時折強く降る雨。
サウナの中にいるような湿度、靴下や下着までずぶ濡れになって、ボロボロになりながら前に進んでいった。
この島であったことが走馬灯のように蘇ってくる。
いつも気にかけてくれたホテルの主人。
何度も顔をあわせた乗り合いバスの運転手。
ご飯を大盛りにしてくれたおばさん。
大雨の中、屋根のないバス停で、一時間待ちぼうけをしたこと。
港の待合所で一人旅らしき青年が涙ぐんでいた。
このひともつらかったのだろう。
船が動き出す。屋久島がだんだん小さくなっていく。
屋久島は光と闇の島。
その闇は暗くて深い威厳のある恐怖。
僕の心の闇に触れ、そして響いて、浸食していった。
しかし、僕の旅はここでは終わらなかった。
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最終更新日 2005年05月19日 11時06分06秒
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