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2005年04月11日
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ここからは山道になる。急な登りや滑りやすい岩などの上を歩くことになる。
ところどころに木で作られた階段がある。階段がないところは木につけられた目印を頼りに、歩いていくことになる。
まわりの風景が同じことや、勾配を歩くことで急に疲れを感じるようになってきた。息づかいがだんだん荒くなる。
しばらく何も考えずにひたすら歩いた。

さっきまで前にいたグループの後方のひとが見当たらない。
数メートルしか離れていなかったのに、
歩いても、歩いても、
追いつかない。
僕はその場でまわりを見渡した。

迷った?
そう思った瞬間、言い知れぬ恐怖感に襲われた。
山で迷うことは死につながる、登山初心者の僕でも知っていること。
死の恐怖。

やってしまった!
心の声がそう叫ぶ。


遠くから人の声がかすかに聞こえてきた。その声のする方向に進んでみる。
しばらく歩くと泥に残された足跡を見つけた。方角は間違っていない。
歩く速度を早める。

人の姿が見えてきた。

人間嫌いの僕が人の姿を見て安堵感を覚えるなんて、


自分の歩くペースが極端に落ちていたのに、前のグループを見失ったと勘違いしただけのことだった。

だんだん休憩する間隔が短くなってきた。
休憩して数メートル歩いただけで疲労感が襲ってくる。正直きつい。

また休み、また歩く。
足が重い、眩暈もする、また休む。

こんなにつらいとは思っていなかった。
限界?頭によぎる。
下山するか。
ここまで来て?
頭の中が交錯する。

休憩中に、あとから来た初老の夫婦とインストラクターらしき女性と挨拶を交わす。
インストラクターらしき女性が
「あとちょっと、がんばろう」と声をかけていただく。

僕も地図を持っているので、あとちょっとの距離でないのはわかる。
勇気づけていただいたのだ。

勇気をもらって歩みを、止めるわけには行かない。
それに負けられない。
誰に?
さっきの夫婦に?
違う、自分自身に!

また歩き出す。でも、あいかわらず足が重い。
ただ頭の中には下山するという意識はなくなっている、目指すのは縄文杉のみ。

その後も、歩いては休むの繰り返しを何度も続けたあと、縄文杉にたどり着いた。

樹齢推定7200年といわれる縄文杉。
あまり感動はなかった。
やっと着いた、長かったという思いが強かった。
縄文杉あたりで昼食を摂っている登山客が多かったので、高塚小屋へ向かう道のあたりで昼食にした。
高塚小屋から縄文杉の間の道は数日前に遭難者がでていたところだ。

木の根に腰をおろしコンビニ弁当を食べて、まったりしていた。
何人か高塚小屋へ向かう登山者が通っていった。
そのうちのひとりが挨拶を交わしたあと、僕の前で急に立ち止まった。
視線を一度下に落としていた僕は、こんなところで知り合いか?と思い、
視線をふたたび上げてみると、彼は僕の後方を見て驚いた顔をしている。
なにかいる、と思い。
振り返ってみると、
すぐそばにヤクシカがこちらを見ていた。
我に返った彼は、先に行った仲間を「カメラ、カメラ」と呼び戻し、
ヤクシカを写真に納めようとしたが間に合わず、ヤクシカは颯爽と森の中へ消えていった。
彼らとヤクシカが去り、また静寂を取り戻した。
僕がコンビニ弁当を食べているところを、ヤクシカがずっと見ていたのかと思うと妙におかしくなった。


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時間にはまだ余裕があったのだが、帰りはのんびり山道を楽しもうと思い、縄文杉を後にした。
この、のんびり楽しもうと思ったのが良かったのかもしれない。
一定のペースを保ちながら歩いているのが自分でもわかる。
縄文杉からパワーをもらったおかげもあり、帰りの道のりはずいぶん楽に感じられた。

時間帯のせいなのだろうか、何頭かのヤクシカと出遭う。
往路では一頭も見ていないのに、
見ていない?
見ていないのではなく、見えていなかっただけでは?と、自問自答してみる。

休憩中、若い男女の二人組が、「さっきヤクシカいたらしいよ」「見てないね」と話しながら通り過ぎていった。
ふと目線をその二人組が行く先の道に注ぐと、山側に二頭のヤクシカがいた。
「いるよ」と心の中でつぶやいた。
気づくかなと思ったが、話に夢中になっているのか、気づかずに通り過ぎて行ってしまった。
僕も縄文杉での休憩中、下ばかり見て、ヤクシカの気配にも気づかなかった。

目に見えるものがすべてではない。

感性を研ぎ澄まさないと、この神秘性に包まれた森の、ごくわずか一部分も観賞することすらできないのではないか?

山道が終わり、トロッコ道との分岐点に着いた。ここはトイレがあることもあり、山道から開放された多くの登山者が休憩していた。
ここまで来れば、あとはトロッコ道をひたすら歩くのみで、みんな思い思いの時をここで過ごしている。
登山者の話に耳を傾けていると、さきほどの山道で足を滑らせて、怪我をした人がいたらしい。
もし僕が怪我をしたら、どうなっていたのだろう?

トロッコ道を歩いていく。どこか懐かしい。
今朝歩いてきた道なのに、なんだかひさしぶりに歩いている気がする。
さっきの山道よりは断然歩きやすい。

ここでもヤクシカを見た。今まで見たのは雌鹿だったが、数頭の群れの真ん中に立派な角がある牡鹿いる。
かなりの存在感を漂わせていた。

廃校された学校の横にある休憩所を過ぎ、
一歩一歩、歩くごとにゴールが近くなっていくことがわかる。
この登山の終わりを思うと寂しくなってきた。
この道が遠々と続いたらいいのに、と思えるようになっていた。

雨が降り出した。
まるで先を急かしているかのように雨足が強くなってくる。

吊り橋をこえ、トンネルを過ぎ、僕の初登山の終わりを告げた。

屋根がある作業場跡のようなところで雨をしのいでいた。
バスの時間まで一時間以上ある。
することもないので、おやつがわりにパンをかじりながら、トロッコ道へ続く道をずっと見ていた。
登山者が帰ってくる。
みんなとてもいい顔をしている。
僕もあの道から出てくるときはいい顔をしていたのだろうか?
雨の音が心地良く聞こえてくる。
次第にあたりが暗くなってきた。

あっ!
ホテルに電話しないといけない。
下山したらすぐ連絡を入れるように言われていた。
携帯を取り出すが圏外。場所を変えても圏外。
公衆電話を探すが見当たらない。

バスがやってきた。
ライトがとてもまぶしい。
バスに乗り込む。まわりはみんな朝見たひとたちだ。
バスが動き出す。僕はずっとトロッコ道の入り口を見ていた。

バスが森を越え、峠を下りていく。
さっきの登山口より外は明るかった。
朝は見えなかった滝が見える。
海上の種子島の街の灯かりがとても綺麗だ。
雨がいつのまにか止んでいる。というより路面が濡れていないので降っていなかったのだろう。

乗客がそれぞれのバス停で降りていき、乗客の数がしだいに減っていく。
僕の番が来た。
「お疲れ様でした」
乗客に別れを告げバスを降りた。

連絡を入れてないこともあり、ホテルの店主が、はやまって捜索願を出していないか、不安だったが、店主は僕の顔を見るなり「おかえり」といつもの感じだったので、拍子抜けしてしまった。

部屋に戻り、余った食料を数えてみる。
コンビニ弁当二つ、おにぎり三つ、パン一個、おかきにチョコレートに飴がある。
ホテルの自販機で冷たいビールを買ってきた。
豪華な夕食である。


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最終更新日  2005年05月19日 11時03分45秒
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