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August 23, 2006
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「次の日、まあ今日なんだけど、あたしの予想に反して桐原君が現れた」
「はい、僕は1時間も前から待ってたんです」
「あたしはまだペットを返せと言う桐原君を見て、本当に飼い主なんじゃないかと思ったわ」
「本当に飼い主なんです」
「ただ、完全に信用するわけにもいかなかった。だから、ちょっと試してみたの」
 この辺は今日の出来事だった。だから、試したというのが何のことかすぐに思い当たった。
「ああ、あれはそういう意味だったんですか」
 勝手に納得する僕たちを見て、今まで話を黙って聞いていた夏美が口を挟んだ。
「何をしたの?」

 雪穂さんは名付け親がいるにもかかわらず酷いことを言った。
「兄ちゃんは答えたんだね?」
「そう、だから全部あたしの勘違いだったんだと思い直して返すことにしたの。でも、シロはこの店に置いてきちゃったから桐原君を連れてきたわけ」
 この話を聞いておいて良かった。聞かなければ僕は、変な人がいると110番に電話を入れてもおかしくなかったはずだ。

「店長、ちょっと」
 声のした方を向いてみると、篠塚さんが雪穂さんを手招きしていた。
「何? 何か問題でもあったの?」
 言いながら雪穂さんは篠塚さんとともに奥へ行った。残された僕たちはお互い何も話さず、物思いにふける。とりわけ僕は、雪穂さんの話で意味の分からなかったところを考えていた。話を聞いていて二、三引っかかるところがあったし、今のやり取りだって変だった。『店長』とは一体どういうことだろうか?
 さっきの話によれば、この店の店長は確か篠塚さんだ。しかし、その篠塚さんが雪穂さんに対して『店長』と呼んだ。
 ここに着てからのやり取りからは雪穂さんの方が偉いように見えた。しかし、この店の店長は篠塚さんなのだ。
 僕に考えられるのは二人とも店長だという可能性ぐらいだった。店長が二人というのは良いことなのか悪いことなのか。ただのフリーターには一党独裁政冶と二大政党政治のどちらが優れているかなんて分かるはずもなかった。




 篠塚さんと一緒に雪穂さんが戻ってきた。二人はやることが終わったのか僕たちの前の席に腰を下ろした。雪穂さんは、言うべきことは言ったというように静かにティーカップを眺めている。その様子を見た後、篠塚さんがおもむろに口を開いた。
「どうですか、桐原君。知りたいことは大体分かりましたか?」
「気になることはありますが、大体は」
『分かりました』と頷きながら僕は雪穂さんを見た。
「桐原君」

「分からないことがあったら聞いて下さい」
 まるで学校の先生のような口振りだった。そして、こう続けた。
「私たちとしても話しておきたいのです」
 僕は思った。何で話しておきたいのだろうか? そういう言葉こそが僕の疑問を増やしていくというのに篠塚さんは至って涼しい顔をして言った。
 僕は迷ったあげく、質問することにした。それは僕が、疑問を放っておくと気になって眠れなくなるという俗説を信じていたからだった。
「質問があります」
 まるで教師に質問する優等生のようだった。ここが教室の中だったら、きっと挙手していただろう。
 僕の質問はつまるところこれに尽きる。
「雪穂さんって何なんですか?」
 あまりに抽象的な質問だったが、僕の聞きたいことを聞くには他に言いようがない。すると、黙っていた雪穂さんが言った。
「何って、何よ?」
 僕と出会ったときと同じくらい不機嫌だった。それを見て篠塚さんは雪穂さんをなだめた。
「まあまあ、最初から答えるつもりだったんですから教えてあげて下さい」
 篠塚さんは雪穂さんの扱い方がうまかった。篠塚さんは不機嫌だった雪穂さんを、渋々ながらも回答させる方向に持っていった。
「そうね。仕方ないわ。教えてあげようじゃない」





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Last updated  August 23, 2006 09:49:13 PM
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