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「諸藤くん~」
後ろを振り向けば、
校門をくぐり抜け遥が手を振りながら駆けてくる
夏の朝午前9時、陽はもう随分高く昇りジリジリと容赦なく肌に射しつける
遥の額にもうっすら汗が噴き出していた
施錠された校舎は通り抜けることができず
校舎をぐるっと大回りで一番奥の美術室へと向うのだ
夏休みの後半、10日間だけの部活動
文化系の部活となればさほど必要性もないような気もする
特に美術部は・・・
好奇心旺盛で、行動的な遥
その遥がいつもに増し、どんな小さなことも逃すまいとしては
はしゃいでいるように感じたのがこの10日間だった
夏は開放的だから
そうとも思えたが・・・
一番奥の美術室のある校舎まで寄り道をしながら
遥と歩くのがここ数日間の日課
時の広場で道草をし、そして水の広場
噴水の水をイタズラしては真っ白なワイシャツから肌が透けるまでびしょ濡れになったりもした
だが、立ち止まっては遥は何か思いにふけていた
それに・・・いつもだったら大好きな“風の広場”以外はあまり見向きもしないのに・・・
「間に合って良かった~」
息を切りながら日樹の隣に並んで歩調を合わせる
日に焼けた顔は随分たくましくなっていたような気もする
夏休みに入ってたった一ヶ月足らず逢わなかっただけなのに
「遥くんまた背が伸びた?」
「みたい・・・」
ちょっと照れくさそうだった
160センチは楽に越しているだろう
同じような背格好で少女のような面影だったのに
今では誰の目から見ても明らかに、その差が一目瞭然だ
遥は一足先に少年から少しずつ青年へと成長している
「どんどん追い越されちゃうね」
「・・そんなことないよ・・」
日樹は手をかざし、遥と自分の身長の差を比べる
「ずっと同じクラスだと良いな」
「・・・そうだね」
ずっと一緒にいられたら
この時間を手放したくなくて
ただそんな風に思った
立ち並ぶ校舎の西側に位置する体育館
そこからも残夏の暑さに負けず練習に励む生徒たちの活発な声が聞こえる
「やってる、やってる~」
遥は開け放たれた体育館の出入り口に駆け寄る
館内ではバレー部が練習をしていた
体育館の床に白球が弾む音、
シューズと床が摩擦で出すキュッキュッという音が絶えずリズムとなって聞こえる
「カッコいいなぁ・・・」
遥は釘付けになっていた
レシーブからスパイクまでの三つのポイントに
まるで一寸の狂いもなくボールが運ばれていく
息の合ったチームプレイ
選手たちの額から流れる汗がキラキラ光り飛沫となって落ちる
そんな躍動感ある光景をみていると胸が高鳴る
軽快なリズムに見ている者でさえも心をひき込まれる
「諸藤君は・・・運動部に入らなくて良かったの?」
「・・・え?・・」
唐突すぎて遥の言う意味がわからなかった
「だって諸藤君は運動神経が良いから体育系の部活に入ると思ってた」
「・・あ・・・そんなこと・・・」
「僕が無理やり美術部に誘っちゃったみたいだし・・・」
「そんなこと・・・ないよ」
見たことがない切ない表情
一瞬、遥ではないような錯覚を起こした
今更なぜそんなことを言い出すのが不思議でならなかった
無論、遥が思うようなことはいっさいない
美術部への入部は自分の意志で決めたことだから
そして、遥ともこうして一緒にいられる
「本当に?」
「うん」
「なら良かった・・・」
日樹が頷くと遥はほっとしたようだった
あの日、
『一緒に美術部に入らない?』
遥は日樹を誘った
それが無理強いだったとずっと気にしていたのだろうか
遥は足を止める
鬱蒼と茂った風の広場の木々たち
その間から射す暑い日ざしを仰ぐ
その横顔を今でも覚えている
今年の夏は格別暑いような気がした
夏休み最後の部活の日
その日、遥は先生に話があるから、と
日樹へ先に帰るように促した
いつもと違う遥の立ち振る舞い、その言葉に不安を覚えた
まさか・・・
それが最後の日になろうとは
遥との別れを迎えるなんて
思いもしなかった
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もうすぐ日樹が術後の麻酔から目を覚まします![]()
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