ハシゴした漁港のあちこちを見回しても、墨の跡がどこにもないのだ。居合わせたアオリイカ釣りの人々も、僕ら同様途方に暮れている。
そうこうしているうちに昼時になったので、近くのラーメン店に行くことにした。こういう時こそ、気分転換が必要だ。
この店は、開店早々万席になる人気店だが、僕は個人的に「日本でトップ3に入る不味い店」として認定している。Iさんは、「僕は好き嫌いがないですし、食べ物を残すようなことはございませんのでご心配なく。逆に、どれほど不味いのか非常に興味があります」と涼しい顔で構えている。果たして、Iさんからはどんな評価が得られるのかと半信半疑、興味津々。ほぼ満席のところを滑り込み入店。

ぎっとぎとの脂、ねっちゃねちゃの麺、鼻につーんとくる香り...。無言だったIさんがようやく発した言葉は、「すみません、もう、もう限界です」。器には、半分ほど手をつけた残骸が漂っていた。気分転換するはずが、気分も体調も悪くして店を後にした。
なぜゆえに、この店のラーメンは人気があるのか。ベストシーズンなのに釣れないアオリイカ同様、不思議である。
こうなれば、釣りに集中するしかない。アオリイカはあきらめて、リバーシーバス狙いで気分転換だ。
新鮮な気持ちで投げたルアーに、強烈な当たりが来るまでさほど時間はかからなかった。グイグイ引っ張る魚がようやく足元に来る頃、僕のテンションは一気に墜落した。

またしてもニゴイか。
先ほどまで忘れかけていた、あのラーメンが食道にまでこみ上げ、熱い涙もこみ上げて来た土曜日の昼下がり。もはや自棄酒しか考えられない僕である。