Navi!職場の労働問題

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人事異動・出向Q&A




 A:人事異動の根拠について

 会社が従業員に対する人事異動について、裁判例では「一般には、労働契約は、労働者が、その労働力の使用を包括的に使用者に委ねることを内容とするものであり・・・・使用者は労働者が給付すべき労働の種類・態様・場所等についてはこれを決定する権限を有している。」(昭和42年7月21日熊本地裁八代支部・三楽オーシャン事件ほか)としています。つまり、会社の人事権としての転勤命令等を肯定され、原則として、使用者は合理的な範囲内で従業員の異動を自由に行うことができます。
 したがって、就業規則等において人事異動に関する定めがあって、かつ、異動命令にも合理的事由があるならば、その異動命令は有効なものと思われます。
 しかし、従業員は、全人格を使用者に売り渡しているわけではありませんので、たとえば転勤のように勤務地が変更になれば不利益が生じることがあります。会社の就業規則や慣例を根拠とする人事異動でも、従業員の私的生活面においての会社の配慮がほとんどされてなく、甘受すべき程度を著しく超えると判断される異動命令や合理性のない移動命令などは、会社の人事権の濫用となることがあります。

 ☆人事権の濫用となる例
 次に該当する人事異動は人事権の濫用と判断されやすく、会社が一方的に異動命令を強行することはできないこととなると思われます。

(1)業務上の必要性のないと判断されるもの
   従業員の私的なことに対する理由が人事異動の要素となっているような場合
(2)合理的な事由がないと判断されるもの
   退職勧奨の拒絶に対する報復と認められるような場合
(3)労働条件が著しく低下するもの
   賃金の大幅な低下を伴うもの、合理的と考えられる範囲を著しく超える職務変更や転勤の場合
(4)従業員のもつ技術・技能などの著しい低下をもたらすもの
(5)私生活に著しい不利益を生じるもの
   転勤で通常予想できる範囲を超えて著しく損害・苦痛を与えるもの。家族に重病人がいる場合とか、従業員の健康維持に支障が生ずる場合など


 次に出向について

 ☆出向の性格
 配置転換や転勤などと異なり「出向」は勤務する会社、つまり従業員が労務提供する相手が、本来の労働契約の当事者ではなくなることとなります。

 「出向」には2種類あります。1つは、出向元での従業員としての身分を保有しながら他の会社の指揮監督下で労務提供する、いわゆる「在籍出向」といわれるもの、もう1つは、出向元での労働契約を消滅させて、新たに出向先の会社との労働契約を締結する、「移籍出向」といわれるものです。

☆本人同意の必要性
 民法625条1項の規定によれば、会社は従業員の承諾がなければその権利を第三者に譲渡できないとしています。したがって出向については、単純に会社が業務命令として行うことはできず、就業規則等の根拠をもつことと従業員本人の同意を得ることが必要です。ただし、就業規則等で出向の具体的定めがあり、それが周知されている場合には、出向について従業員の包括的合意があるとみなされるケースもあります。なお、移籍出向のように、新たな労働契約を条件とする場合は、その都度、従業員本人の個別同意が必要です。

 出向について、会社として業務命令権の濫用と判断されないためには以下の事項を満たすことが必要です。

(1)業務上の必要性
(2)人選の合理的事由
(3)出向先での労働条件の明示
(4)出向期間の明示
(5)出向に伴う不利益等への配慮

☆出向における労働基準法等の適用
 一般的には、在籍出向の形が多くとられていますが、たとえば賃金は出向元の規定によるが労働時間・休日等は出向先の規定によるという出向協定であれば、出向者の労働条件については、出向元または出向先のいずれにも画一的に適用されません。この場合の労働基準法の適用に関しては、各々の使用者の責任の範囲内で労働基準法遵守の責任が生じることとなります。

 労災保険の適用については、賃金の支払いが出向元から行われているとしても、通常は、出向先の指揮監督を受けて労務提供することになるので、労災保険の保険料は出向元で支払われる賃金を含めて出向先で算定・納付し、保険給付も出向先の労災保険で行うこととなります。




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