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いらっしゃいませ。 こえめ
です。![]()
意外と危険だった魔法の傷。リカムの運命は。
魔法界王はいったい……?
こえめ も気になる展開です。
この上になければ、 こちらに目次
【カーラ27】父と娘
魔術室では、魔法医師がいつもより更に
大声を張り上げていた。
「ハッ! アンブルグリジュム……イヤッハーッ!」
王が怪我をした箇所は、全身に及び、
医師はあっちへ飛びこっちへ飛びしながら、
汗をかきかき忙しかった。
*
それは王がここに運び込まれるより、少し前のことだった。
法殿からの帰り、いつものように王は、
三人の従者とともに、ポーター気流に乗っていた。
ジイドを初めとする従者達は各々が、
たとえ狭い木々の間であろうとも、
そのスリルを楽しむ余裕さえ持って飛ぶだけの
技量を持っていた。
無論、王もかつては、魔法界きっての気流乗りだった。
ただしここ数十年というもの、移動の際は、
従者の作り出す気流に身を任せるのが、習慣となっていた。
優れた技能も、使わなければさび付いてしまうものである。
空には、昼間の白く透き通った月が見え、
空気は爽やかだった。
従者達は目の前にせまった森を越えるべく、
上昇気流の調整に余念がなかった。
一方、王といえば、
このところの一連の騒動の疲れから来る
睡魔に襲われ、
なかばウトウトとしながら、
従者達のみごとな手際を眺めていた。
程なくして森の中ほどに差し掛かると
木々の合間に時折ちらちら見え隠れする
野生の鹿や熊の姿。
従者達は上昇気流を上手くあやつりながらも、
森の真上からの眺めに気を取られていた。
いつの間にか王が、睡魔の手に落ちてその体制をくずし、
魔法で護られている空間から、はみ出そうとしていることに
誰ひとり気付かなかった。
夢うつつの王は、
いきなり強い風圧をからだに感じ、現実に戻った。
からだ半分が無防備に外気流にさらされているのに驚き、
あわてて体勢を立て直そうとしたが、時すでに遅く、
王のからだを捕らえた気流は、それを離そうとはしなかった。
あっという間に宙に放り出され、
王は森の中へと落ちていった。
視界の隅に、王のマントがはためくのを見とめた従者らは、
王の落ちる先に向かって、
隼のごとく我先にと、その身を突進させたのだった。
*
医師の額に光る汗が増えるにつれ、
周りの緊張も高まっていく。
王の蒼白な顔を見ながら、
カーラは深い後悔の念に駆られていた。
(もしこのままお父様に万が一の事があったら、
それはきっと私のせいだわ。
お父様を困らせるような事を言ったから、
私が決められた人生に逆らうような事を
しようとしたからッ。
天はその戒めに、お父様をこんな目に……!)
今のカーラにとって、
その考えは、自分自身が命を失うことよりも、
辛く耐え難い傷を残すことになるのだった。
(つづく)
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