PR
Calendar
Category
Comments
Keyword Search
こえめ
です![]()
カーラは人間と結ばれ子をなすという使命を、
天から受けていました。
どうにもならない運命と知りながらも、
やっと素直な気持ちになれたふたりは
森小屋で抱き合って……。
我に返ったリカムは、とっさに薬を飲みます。
記憶を消して、性別も変えてしまう、
別人になるための薬を。
【カーラ37】の2
「うっ……」
小さなビンに入った薬は、
強いアルコールのように、リカムの喉に焼け付いた。
「……リカム?」
カーラが様子に気付き、その体を離した時には、
既に薬は飲み干されており、
それを見たカーラは、ただ黙ってうなずくだけであった。
リカムの手から、からになったビンが
音を立てて床に転がった。
彼女の瞳から、大粒のしずくが零れ、
陶器のようになめらかな頬を伝い落ちる。
リカムはその暖かい涙をてのひらでそっと拭った。
だが透明な涙は、あとから後から溢れてきて、
カーラは声もなく泣き続けるのだった。
それから二人は互いの手をつないだまま
狭いベッドに並んで横たわった。
薬の作用なのか、それとも極度の緊張から来る疲れからか
リカムは間もなく静かな寝息をたて始めた。
いつもと変わらぬきりりと引き締まったあごの線。
カーラだけを見つめてきた瞳を
覆いかくしている、薄いまぶた。
笑うと少しはにかんだようにゆがむ
薄い唇。
カーラはその寝顔を見つめながら、
もはや100パーセントのリカムでなくなりつつある、
その事実を、
まだにわかには信じられないのだった。
やがて夜も更けて、近くでふくろうが鳴いた。
それを合図にしたように、
リカムの体が熱くなり、寝返りを打ち始めた。
「……リカム、苦しいの? リカム……ねえ、リカムッ!」
カーラの問いかけに答える声はない。
だが苦しみをこらえるようなリカムの荒い息づかいが、
丸太を組んだだけの小屋自身が
まるで呼吸してでもいるかのように、
部屋じゅうに響いて聞こえていた。
その苦しげな表情を見て、カーラは突然に理解した。
彼は今、生まれ変わろうとしている。
新しい未来に向かって、
必死で生きようとしているのだと。
「うあぁッ!……」
リカムが叫んだ。
そのこえは、狭い小屋を更に狭く感じさせた。
カーラは彼の汗ばんだ背中に腕をまわして、
震えを止めようとするかのように
きつく抱きしめた。
「リカムッ、しっかり! 私が付いていますッ!」
魔法の真矛ちゃん【カーラ38】の2終 July 8, 2009
魔法の真矛ちゃん【カーラ38】の1 July 1, 2009
魔法の真矛ちゃん【カーラ37】 June 11, 2009