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浪漫的狼

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Oct 6, 2009
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カテゴリ: 創作の部屋






【連載題16回】

 確かに似ていた。

 全くそっくりな模倣、コピーとは違うが、構図、色調、そしてそういうものでは説明できな

い絵の持つ独特の雰囲気。


 「ウチにある絵と同じ…」遼介はそう思った。


 すると、鈴香も口を開いた。

 「この絵…だわ。私、何となくだけど覚えているの。」

 鈴香の瞳には、喜びとも懐かしさとも違う、何かしら哀愁めいたものが浮かんでいた。

 そんな鈴香を余所に、

 「そう。良かったわね。」と、さばさばと奥さんは言う。


 しかし、その絵には遼介の博物館にあるそれとは決定的に違う箇所があった。


 「…ただ、本当に良く似ているけど、この男の子はウチの絵と違うよね。」

 その通りであった。

 遼介の博物館の絵は、猫だけが階段の途中に坐っている構図であった。この絵もそこまでは

同じであったが、この絵ではその猫の横に少年が座っていた。


 鈴香は再びその絵に見入っていたが、ぽつりと言った。

 「そうなのよ。だからちょっと印象が違ったのよ。」

遼介は、

 「でもさ、この男の子以外は本当にそっくりだね。タッチとかは違うけど。

  …でも、12、3歳で描いた絵にしては凄く巧いね。」

 「うん。絶対…才能があったんだ。」



 奥さんは、

 「この絵ね、死んだお祖父ちゃん…つまり、私の夫の父が大切にしてたのよ。

  妹の形見だって。でも、こういう応接間に掛ける絵としてはちょっと…でしょ。それに、

  ウチの主人にしても、全く顔も見たことのない叔母さんの、しかも小さい頃の絵だから、

  あまり思い入れがなくって。

  …ごめんね。新築のどさくさで外しちゃってたのよね。それに、すっかり私も忘れてしま

  ってたわ。」


 「あ、いいんです。そんな…。恐縮です。」

 と鈴香。



 「…で、思うんだけど。あなた、これ、持って帰らない?」

 「え?」

 「だって、本来はあなたのお祖母ちゃんの姉妹の形見ってことだよね。だから、ウチのお祖

  父ちゃんも亡くなったから、一番濃い血縁者が持っているべきだと思うのね。」

 奥さんは、ちょっとクールな口調でそう言った。

 遼介は、確かにそうだと思いながら、ただ、その口調があまりに事務的だったので、「結局

この奥さんもちょうどいい厄介払いができるぐらいにしか思っていないんだろうな…」などと

そんな気もするのだった。


 「それに…、うちの主人とも話をして、今日あなたがきて…良かったら持って帰ってもらお

  うかって。」

 「はあ…。」


 本来なら、鈴香のお祖母さんが貰うべきだろう…。やっぱり、こんなものは手元に置いてお

きたくないんだろうな。…と、側でそう遼介も考えていた。


 奥さんの申し出に、生返事だった鈴香は、遼介に判断を求めるような視線を送ってきたの

で、彼は小さく頷いてみせた。

鈴香は、少し間を置いて、

 「じゃあ…。でも、本当に持って帰ってもいいのかしら。」

 「ええ、おば…お祖母ちゃんには、私からも電話しておくわ。」


 結局、奥さんはすぐに綺麗な紙袋をどこからか持ってくると、その絵を額のまま中に収め、

笑顔で「じゃあ、お祖母ちゃんにもよろしくね。」とさっさと部屋を片付け始めた。

 遼介は何となく、その奥さんの様子に反感めいたものを感じつつも、自分たちも押しかけて

いる立場だし、まあ奥さんの気持ちも分からないでもないな、とその気持ちを押し殺しながら

黙っていた。


 そして、そこを出る時、玄関口で、鈴香が聞いた。

 「あの…、この絵って、いつどうやって描かれたのか…ご存知ですか。」


 奥さんは、ちょっと考えて言った。

 「そうね…。私もよく知らないんだけど、まず間違いなく死んだお祖母ちゃんのものよ。絵

  の何処かに『C・H』とサインがあるわ。お祖母ちゃんは『千代子』でしょ、『平野千代

  子』ね。

  …あとは、あなたのお祖母ちゃんに聞いてみた方がいいんじゃないかしら。」


 「あ、それはそうですね。」

 鈴香は、確かにそうだと思い、取りあえず笑顔で頭を下げ、その場を後にした。



 そして、その絵を持って二人は鈴香の祖母の実家を後にした。

 雨はいつの間にかすっかり上がっていて、アスファルトの中央辺りはもう乾いて白くなり始

めていた。


 歩きながら、遼介が口を開いた。

 「しかし、この絵…ホントによく似てたよな。」

 「うん。」

 「私、もう少し調べてみるわ。…何か分かるような気がするの。」

 「そうだね。ちょっとしたミステリーだね。」

 「うん。きっと何か私たちの知らない何かがあるのよ。」

 「じゃあ。まずはお祖母ちゃんだね。」

 「うん。」



 駅への帰り道、二人の足取りは軽かった。

 駅前の道路脇に植えられた街路樹の葉についた水滴が、少し傾き始めた陽の光を受けてキラ

キラと輝いていた。                                          

                                      〈続く〉




予定では24回連続になりそうです。読んで下さってる皆さん。気長にお付き合いをね。





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Last updated  Oct 6, 2009 06:33:53 AM
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