konosoranosita

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2005.10.25
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テーマ: 独り言(100)
カテゴリ: 独り言
「愛と哀しみのボレロ」という、クロード・ルルーシュの映画があった。

その映画のポスターには宙を舞うバレエダンサーがいた。
身体は空中でえびぞりになって、その金髪は燃えるタテガミの様だった。
上半身は裸で、その肉体は競泳や水球選手のそれと匹敵するほど見事だった。

そのダンサーが目に焼きついて離れなかった。
けれどその頃その映画を観なかった。
男性のバレエダンサーに対する偏見を持ていたのかもしれない。

時が過ぎてもそのダンサーのことを忘れる事はなかった。

そして今から12年前にやっとその映画を観た。

そのダンサーはジョルジュ・ドンという名前だった。
モーリス・ベジャールが率いる20世紀バレエ団のナンバーワンだった。

映画の中でドンはヌレエフの役を演じていた。
その宙を舞うシーンはベートーベンの交響曲第7番だったと思う。
ベートーベンが初めて「舞踏」というテーマで作った作品だった。
この激しいテンポの曲に合わせてドンは宙を舞っていた。

でもそれよりも何よりも、この映画で一番の見所はドンのボレロだった。
べジャールの振り付けによるボレロ。
交響曲第7番の様な派手さはないけれど、赤い円卓の上で、円卓を囲むダンサーたちの王のように君臨するドンの存在は圧倒的だった。

曲全体が巨大なクレッシュエンドのようなこの曲と同じように舞踏の方も段々に高揚して激しさを増していく。


いつかボレロを踊り終えたドンが円卓の上で、消耗が激しくて、起き上がれずにずっとうずくまっている写真を見た事があった。

ドンを知った次の年の11月30日、エイズによってドンはこの世を去った。
新聞でその記事を見た時、バレエダンサーのエイズによる死亡が頻繁に起きている事への問題が提議されていた。
でもそんなことは問題ではないと思った。
問題はドンが死んでしまったという事なのに。


いつも手遅れな事が多い。この手のことでは。

ドンはベジャールのバレエ団に入りたくて自分からまだ16歳くらの時にベジャールを訪ねている。
ドンとベジャールの関係は、ニジンスキーとディアギレフの様ではないけれど、二人は公私共に深い関係があった様だった。

ベジャールという人は過去を一切振り向かない人だ。
明日にだけに生きている人で、昨日の自分は他人と言い切るような人だ。
そのベジャールが常に第一に認め続けてきたドンの努力を思う時、その身体一つで全てを表現していくことの厳しさ、年齢が増す事で衰えていく肉体に不安を覚えない事は無かったと思う。
常に新しい何かを生み出して変容していくベジャールに、ついていく事も並大抵ではなかったと思う。

マーラーの「アダージェット」をレーザーディスクで観たとき、それは死を演じているように見えた。
いやそれは死そのものだったのかもしれない。
死とはこうゆうものなのかと思えるほどそれは見事に言い尽くしていたと思う。

年齢もとっていて肉体も「愛と哀しみ・・」の頃のようなシャープさは消え失せていたけれど、その分その表現するものは大きく変化していた。
静かな動きの中で多くを語っていた。
伝わるものが大きくて、観ている者の感情も大きく揺さぶられた。

ドンにはドンだけに与えられた特別な何かがあった。
それが私を惹き付けて止まなかった。

ニジンスキーの動く映像があったらそれはやはり見てみたかった。
ニジンスキーの事も知れば知るほど見れない悔しさに心が掻き乱れるけれど。ニジンスキーの頃は写真だけしかなかった。

ドンは感情表現が卓越していた。
その肉体とその精神との合体、そしてベジャールとの関係に於いても、揺るぎ無いものがあったから、出来たことなのだろう。





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Last updated  2005.10.25 14:53:50
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