1)110条の表見代理が成立するためには、【1】基本代理権が存在し、【2】代理人がその権限外の行為をした場合であって、【3】第三者が代理人の権限ありと信ずべき正当な理由の存することが必要である。
2)まず、本件において、【1】XがAになんらかの代理権を与えていたといえるか。
確かに、XはAの依頼を了承してはいるものの、老齢のため込み入った話は理解できておらず、そもそもAの依頼も「自らを代理人として抵当権を設定させてもらいたい」というものではなく、あくまで「Xが所有する甲に抵当権を設定してもらえないか」というものである。したがって、XはAになんらの代理権も付与していたとはいえない。
本問では、XがAの依頼を了承していることから、抵当権設定の代理権は与えられていたと読むのが妥当(作問者の意図)らしいです。
とすれば、【1】を欠くことになるが、109条との重畳適用により、当該要件は充足されると考える。すなわち、代理権授与表示があったことで、109条により、代理権を与えたのと同様に扱い、これを110条の権限と見るのである。
3)次に、【2】の要件について検討する。前述のように、Xの与えた「表示」は、代理権を何ら抵当権設定に限定するような表示ではないため、表示された代理権の範囲を逸脱したとはいえない。したがって、【2】の要件を充足せず、110条による表見代理は成立しない。
4)なお、仮に【2】の要件を肯定したとすれば、【3】は認められるだろうか。「正当な理由」とは、第三者が代理人に権限ありと信ずるにつき善意・無過失であったことを意味すると解されているが、前述のとおり、本件代物弁済契約締結に至る経緯等に鑑みれば、Xになんら確認もせずに、甲を譲渡する権限がAに与えられていると信じることは軽率であり、少なくとも過失があるといえる。また、甲の時価が債権額の1億円を上回るなど、契約内容がXに著しく不利益である場合や、Yが金融を専門にし、普段から弁済に窮した債務者と数多く接しているであろう金融業者であった場合などはなおさらである。
4.以上より、表見代理は成立しないため、本件代物弁済契約の効果はXに帰属しない。よって、Xは、Yに対し、所有権に基づき甲の返還を求めることができる。
5.Xがとりうる主張について
なお、Xは、そもそもAに代理権を授与していない、もしくは、代理権を与えたときは意思無能力であったから、代理権授与は無効であるとの主張をすることが考えられる。しかし、いずれの主張も、有権代理を否定することは出来ても、表見代理を否定する根拠にはなりえないため、立証が困難な割に実効性に乏しい主張であると思われる。
民法総合事例演習 1-2 代理による… Jun 20, 2012
民法総合事例演習 1-2 代理による契… Jun 20, 2012
民法566条1項解除事由の基礎事情 【追記】 Jun 15, 2012
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