つるかめ_TURUKAME
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by Kazuo Ishiguro”記憶”が唯一その”存在”を意味する。すごい映画やね。先週、夜に友達達と飲んだ後乗る電車を間違って降りる駅を乗越てしまった。特急電車が止まる駅で降りて向かえにあるホームを上がると偶然に甥がベンチに座っていた。父が亡くなる前だから、もう5年ほど会っていない。人の命を預かる仕事につくのだろうか阪大の医学部に通っているのを人伝えに聞いていた。私と同系統の顔なのと叔母である私が間違えることはない。私は名前を確認し呼び掛けたが彼は誰かと携帯電話で話ながら自分ではないと首を数度振り目を避けた。稚拙な対応がまだ指しゃぶりをしていた頃を思い出し”成人にもなって、自己否定するのか”と嘲笑と切なさが綯交ぜになった。が、それ以上掛ける言葉も見つからなかったので私は何も言わず彼の横に座り次に来る電車を待った。電車が来ても彼は一緒に乗ることはなかった。電車の窓から彼を再度見たがまだ携帯電話を離さず誰かと話しながら上目遣いで私が視界から消えるを待っていた。電車の中でボンヤリ、あの世という所があってもし父に私の名前を確かめるように呼びとめられたら私は同じようにその人は私でないと首を振るのかそれとも、あなたを知らないと私は首を振るのか、と思った。父へのセンチメンタルな辛い記憶と折り合いをつけながら人前で涙が溢れ出そうになるのを必死に押さえている自分にしばらく困惑した。刑事事件をやっていて思うんやが親とはたまたまこの世で偶然に出会った人なん違うかなぁと調停中に私の依頼した弁護士がふと私にもらした。そう、父の記憶の中には私はもういない。もうすべて終わったことなんだ。
2011年05月23日