マックの文弊録

マックの文弊録

2005.05.07
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◇旧暦三月二十九日 辛卯(かのと う) 今日で旧三月はおしまい

昨日は「X時点までの距離」の事を書いたが、今日は「相互不干渉限界距離」の話。

最近電車の中で飯を食っている連中をよく見かける。先ず例外なく若者だ。それも、見ていると♀が多い。最初これを見かけた時には大いに驚いた。
食事は口を開けてするものだ。その際口腔の粘膜は他人の眼前に露出し、唾液に濡れた舌も人目にさらす事になる。

人間にとって粘膜を人前にさらすのは、羞恥心を催させる行為である。これは、他に他人と粘膜を介して交流する行為にどういうものがあるか想像してみればすぐに分かる!
つまりは食事とは「恥ずかしさ」と表裏になった、非常に私的且つ個人的な行為なのだ。昔学校の給食の時間には、口元を隠して食べている生徒は(特に女生徒に)普通に見られた。家族で食事をする時には黙って食べるのが普通で、色々口角泡を飛ばすが如く話をしながら食べたりすると、父親の叱声が飛んできたものだ。

恥ずかしさを共有すれば親しくなるのは道理で、だからこれと思う相手とは卓を共にし、一緒に飲食をする。
つまり、見ず知らずの群集の中で飯を食うなど、我が国の麗しき伝統を重んじ、恥を知る身としては、耐えがたくも信じられないのである。

調べた訳ではないけれど、こういう現象は恐らくは東京や大阪など、大都市に局在しているのではなかろうか?



これは田舎に行けば行くほど長くなる。見渡す限りの平原に一人いる場合、数百メートル離れたところに別の人間が現れると、お互いに相当気になるはずである。
しかし、其処まで行かずとも普通の状態では大体数メートルではなかろうかと思う。
相手がこの距離を超えて接近してくると、ストレスを感じて緊張する。
挨拶を交わすと言う行為は、お互い相手にとって無害である事を表示して、こういう緊張感を緩和させるための行為である。だから山道などで行き会う人には「こんにちは」と声をかけて、「私は貴方に害を為す者でも、物の怪でも有りません」と信号を送るのである。

ところが、都会ではこの「相互不干渉限界距離」を維持する事が困難である。通勤電車の中は無論のこと、繁華街の雑踏を歩いていても、他人と触れ合い押し合う事は日常茶飯事である。だから、都会の人間は不断にこういうストレスに曝されていることになる。

はっきり意識しなくても、こういうストレスは人間を害するものである。それに対しては防御的な手段を講じたくなるのは自然な反応だ。
田舎にでもワープしない限り「相互不干渉限界距離」を復旧させ維持するのは、物理的には無理だから、心理的に孤立する事を先ず選ぶようになる。

ある世代以上は、電車の中で新聞や本を読む。若者にとっては、ヘッドセット付きのウォークマンである。何れも、周辺の他人を締め出し、自分の世界に没頭する事が出来る。

更にデジタル電子機器の発達によって、「孤立化の為の道具」は進化した。
ポケットゲーム機が登場し、一人でインタラクティブな作業に没頭する事が出来るようになった。
その後にケータイである。特にケータイは、読書やウォークマンとは本質的に異なり、「その場に居ない親しい人間と交流する事が出来る」という点で従来の「孤立化の道具」を画期的に超えるものである。


こうして知人や友人はケータイの中だけの存在になり、周辺に存在するのは、幾ら自分に似た格好をしていても、単なるモノになってしまった。だから緊張感もストレスも感じなくて済ませるようになったのだ。

さて、周りがモノである限り、粘膜を曝そうが何しようが構う事はない。飯を食おうが、化粧をしようが、一向に気にならない。何しろ羞恥心を感じる対象はケータイの中にしか居ないのだから。

つまりは、こういう事なんだろうと思う。
電車に乗り合わせたギャルが平然と飯を食ったり、化粧をしているときには、あなたも私も彼女(たまに彼)にとっては単なるモノでしかないのだ。

だけど、これが更に進むと、電車の中で着替えをする連中まで出てくるようになるだろうな。大きな音で放屁して憚らない種族も出てくるかも知れない。前者は、ちょっと楽しみなような気もするが、後者はご免こうむりたいものだ。



そうすれば他の車両は少し余裕が出来て、少しは「相互不干渉限界距離」を維持できるようになるかも知れない。





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最終更新日  2005.05.08 00:53:10
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