マックの文弊録

マックの文弊録

2005.07.11
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槿



俳聖芭蕉の一句に、「道のべの槿は馬に食はれけり」というのがある。名句だといわれている。そうか、と思う。

例えば「一灯に皆花冷えの影法師」という句がある。こちらの方が情景がふわっと脳裏に浮かび、自分もその場にいるような心持すらして好きだ。
道端に咲いている槿の花を、行きがかりの馬がパクッと食べたんだろう?そのまんまじゃないか。

そこで、槿だ。
ムクゲは葵科に属する。日本で親しまれる芙蓉とは親戚筋である。そしてこの花はお隣の韓国の国の花でもある。韓国ではこの花は「無窮花」と書いて「ムグンファ」と発音する。日本の音読みでは「ムキュウカ」とか「ムキュウゲ」と読める。これが転じて「ムクゲ」になったのだそうだ。

槿の花は、朝に開くと、午後三時過ぎにはもうしぼんでしまう。だから、「槿花一朝の夢」(きんかいっちょうのゆめ)といって、わが国では儚いもののたとえにされる。

一方で、槿は梅雨に入る頃から10月頃まで、庭先や生垣にダラダラ延々と花を咲かせる。だから槿の木全体を見れば、長期間にわたって華やかに栄えているように見える。それで彼の地では「無窮花」として、国の繁栄の象徴とされ、国花にまでなった。
この考え方は、要するに「一国栄えて万骨枯る」じゃないのか?好きになれないなぁ。


それが昨今は、我が国の公共放送を手先にして、中年のヤマト・オバ族の、本来はたおやかにして忠節なるべき(???)心根を盛んに凋略し、ありもせぬ「ガキンチョとの純愛」の夢を追わせたりする。
唐辛子などという、名前からすれば隣の異国から輸入した「武器」を以って、優雅繊細なるわが民族本来の味覚を破壊せんとする。
北の同族に至っては、国民を飢えさせておきながら、剣呑な飛び道具を作って我が国を脅かす始末だ。
それもこれも、全体を見て「無窮の栄え」などと喜び、一輪々の花の命をないがしろにして恥じないところから来ている。・・・のではないか?

色々そういうことを連想し始めると、槿の花もどんどん詰まらなくなってくる。しかし、僕にはこの花にまつわる少し甘酸っぱい思い出がある。

郷里の街を流れる長良の清流にかかる長良橋のほとり、昔風に縦長の格子を廻らした家の並ぶ一角がある。今では希少になってしまった、柿渋を塗った和紙で団扇を作る店などが並ぶ、閑静な街筋である。
そこに「玉井屋」という屋号のお菓子屋さんがある。このお店は求肥を鮎型のカステラで包んで焼いた「登り鮎」や、「利休松風」、それに「味噌松風」などという和菓子を作る老舗である。(http://www.tamaiya-honpo.com/)

就職してから二度目の夏休みに帰省した折、世話になっている上司にお土産をと思って立ち寄った玉井屋さんで、頼んだものの包装を待つ間、何のきっかけだったか若おかみが座敷に上げてくれ、お茶を振舞ってくれた。

その部屋の床の間に置かれた一輪挿しに槿の花が活けられていたのだ。

昔風の奥の深い家だから、座敷もほの暗い。
その中で、ピシッと絽をお召しになった若おかみの白い二の腕と、煤竹の花器に活けられた一輪の白い槿の花。


尤も、その場にもう一人、ぎごち無く正座する汗っかきの僕の姿は自分では見えていないから、このシーンからは割愛されているのだ。それに、思い出は美化されるのが常だから、実際の光景は、それほど美しいものではなかったかもしれない。

ほの暗闇の一角、黒光りする煤竹にほっと灯をともしたような一輪の槿。対を成すように、黒の絽と若おかみの白い顔。微かに漂う伽羅の香り・・・・
槿は僕にとってそんな思い出のまつわる花でもある。

槿は集団で咲いているのを見てもつまらない。ひっそりと短命な一輪を愛でるのが本来というものだろう。

「それがしも 其の日暮らしぞ花槿」- 小林一茶


松尾芭蕉君も、「道のべの馬は槿に食われ」てしまった方がまだ良かったかもしれない。この方が句の光景に遠近感が出て良いと思うのだが?





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最終更新日  2005.07.13 00:36:27 コメントを書く


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