マックの文弊録

マックの文弊録

2005.10.30
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◇ 日曜日:旧暦九月二十八日 丁亥;火星の大接近

猪独活
今 日は火星が二年ぶりに地球に大接近する。今日のお昼頃が最接近で、この時地球からの距離は6,942万キロメートルだから、月までの距離の約250倍だ。近いといっても大変な距離である。火星は今おひつじ座に位置しており、夜の八時頃には東の空から昇ってくる。視直径は20秒だから、望遠鏡が無ければ単に明るい点でしかない。しかし明るさは-2.3等だから、今夜晴れてさえ居れば、宵の東の空に一際目立って見えるはずである。

火 星と言えば欧米でも東洋でも軍神になぞらえられる。天の黄道に沿って行きつ戻りつする、紅く輝く星は血の色を連想させたのだろう。
天に軍神が強い光を放っている明日は、先頃の戦闘で方々に刺客を放ち、かつての盟友・朋友を討伐した我が将軍が、新たに幕僚を選抜して本陣を固めることになる。

最 後の将軍の四代目が書いた本を読んだ。
徳川慶朝さんという方の「徳川慶喜家の食卓」という本 ※ である。「慶喜は第十五代の将軍だったのだから、四代目というのはおかしいだろう」と思われるかもしれないが、慶喜さんは大政奉還後朝敵に据えられ、その後は長く謹慎蟄居の身であった。それが明治も後半になって、許されて天皇に拝謁し公爵に叙爵されたのを機に、新たに徳川慶喜家を創設したのだそうだ。それから数えて慶朝さんは四代目に当たるということなのだ。

こ の方は元貴族の家柄でありながら、かなり洒脱な方らしい。フリーカメラマンを本業とする一方で、こよなく食を愛していらっしゃる。何しろラーメンでもコーヒーでもとことん追求して、挙句の果てにはご自分で作ってしまう。コーヒーなどは自分で焙煎まで始め、「徳川将軍コーヒー」などという名前で売っていらっしゃるくらいなのだ。これが良く売れるらしい。
美酒にこだわり、気に入った店にはとことん通い詰める一方で、酔って帰宅しても明くる日の朝御飯はきっちりと下ごしらえをしておく。(彼は独身なのだ)白いご飯に、ぬか味噌漬けと醤油とかつ節があれば満足だという、ちょっと変ったグルメだが、ぬか漬けは旧一ツ橋家縁の米屋から厳選されたぬかを仕入れて、毎日自分で掻き混ぜていらっしゃるのだから半端じゃない。


こ の本には、慶朝氏の食に関する話題が半分ほどの量を占めている。他には彼の伯母さんであった慶喜の孫、故高松宮妃殿下喜久子様の話も出てくるから、徳川慶喜その人の食生活の話を期待して読むと、がっかりするかもしれない。しかし、「徳川慶喜家」は慶喜その人ばかりではなく、彼が創設した家一統の事を云うのだから、別に慶朝さんがずるをしたわけではない。

そ れでも民草では知り得ぬ、色々興味深い話が書かれている。代々の徳川将軍は、白米を食べていたが、炊きたてのツヤツヤ光ったご飯ではなく、蒸した 強飯 こわめし だったとか、御膳所から食事の場所まで長い廊下を渡って運ばれてきた食事は冷めてしまっているため、徳川の一統は皆猫舌になってしまったとか、慶喜は甘党で木村屋の初代が拵えたアンパンが好物だったというのは面白い。
何より、普段は極めて質素な食生活なのに、いざ将軍の饗応となると日本の満漢全席とも言うべきメニューが供される。これがすごい。

先 ず御数寄屋での歓迎の宴で、本膳、二の膳にデザートが出てくる。
次に書院に場所を移して、祝いの宴となる。先ず 式三献 しきさんこん といって十数種の食べ物が三度に分かれて出てくる。ここではお酒が主体になる。
その後儀礼儀式、能狂言を経て、いよいよ本膳、二の膳、三の膳に十一種のお菓子。ここで再びお酒が三献出される。
うー、何となくもうげっぷが出そうだが、まだまだ終わらない。
お酒が三献出された後、再び献立を変えて、本膳、二の膳、三の膳と続き、四種の引き物に、更に果物が出てくるのである。
一体それぞれの「膳」の中身がどんなものだったかは、本を読んでいただきたい。書いているだけで胸焼けがしてきそうなのである。

そ
ここにもY遺伝子の危機はあったのである。

※ 「徳川慶喜家の食卓」 徳川慶朝著 文藝春秋2005年9月 ISBN4-16-3676410-1





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最終更新日  2005.10.30 17:34:13
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