マックの文弊録

マックの文弊録

2005.11.03
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◇ 木曜日:旧十月二日 辛卯;文化の日、京都松尾大社上卯大祭、東京皿沼不動万灯祭
谷の紅葉

僕 は学校で理論物理などというものを勉強し、社会に出てからは一貫してITの分野で仕事をしてきているものだから、「理屈ばっかりこねている味気のない人間」だと周りから思われている節があるけれど、実はお寺や神社には敬虔な想いを持つ者である。お寺は人間の信仰心の凝縮する場所であるし、神社は色々な神様が人間界に窓口を開いていらっしゃる聖域である。
そういう場所に赴くと自ずと気持ちは粛然として、素直に 頭 こうべ が下がる。

会 社の入っているビルの正面には、豊川稲荷の神田錦町分院があって、赤い鳥居を前面に構えた小さなお社が、路地の奥に鎮座ましましている。ここに引っ越してから、毎朝会社に出る前にお参りする事を習慣にしている。ちゃんと、その都度小額ながらお賽銭を上げ、ニ礼ニ拍一礼の作法でお参りするのである。

東 京で豊川稲荷というと、赤坂の東宮御所の南端、青山通りに面したところに立派なお 社 やしろ があり、それがいわば本家筋にあたる。赤坂の豊川稲荷の場所は、元は南町奉行大岡越前守忠相の屋敷だったそうで、大岡さんは三河(愛知県豊川市)の豊川稲荷を自分の邸内に分院なさった。それが東京の豊川稲荷の起源だという。
お稲荷さんは普通は神社であるけれど、この豊川稲荷は元々は曹洞宗のお寺、円福山妙厳寺の俗称だという。

我 国のお稲荷さんの総本社は、京都の伏見稲荷である。
伊呂具秦公 いろぐはたのきみ という人が、京都伏見の伊奈利山に社を建てて 倉稲魂神 うかみたまのかみ (或は 宇加之御魂大神 うかのみたまのおおかみ とも。)、 猿田彦命 さるたひこのみこと 、 大宮女命 おおみやめのみこと の三神をお祭したのを嚆矢とする。それが今では全国十三万社にのぼる神社の内、約四万社がお稲荷さんだというから、大したご出世であるといえる。祭られた神々は農業の神様であり、稲作文化の隆盛と共に多くの人々の信仰を集めるようになったのだろう。

お 稲荷さんといえばお狐さんだ。
もともと狐は、宇加之御魂大神の神使であった。それが、稲荷信仰が普及していくに連れて、召使のほうが有名になり、最後には「お稲荷さん=狐」となってしまった。これなど、タレントの付き人のほうに人気が出て、主客転倒してしまったようなものだな。確かに「うかのみたまのおおかみ」なんて長い名前より、「きつね」の方が覚えやすい。神様も人気を維持したかったら、名前にも注意を払う必要がある。

東京では王子稲荷が狐の総元締めみたいになっている。王子稲荷は江戸の頃には関八州のお稲荷さんの総元締めの立場に有った。毎年大晦日の晩になると、関東全域からお狐さんの代表が近くの装束稲荷に集合し、ここでやんごとなき 女官 にょかん の姿に装束改めして、王子稲荷まで行列を整えて参拝したのだという。この行事は今も続いている。

そ れに、江戸の 噺 はなし には「王子の狐」というのがある。柳家小さんが得意だったか。


やがて、店のものが女を起こしに行き、「お代を」と催促すると、狐は大いに驚き化けの皮が剥がれて正体をあらわしてしまう。店のものは寄ってたかって「無銭飲食の狐」を叩きのめしてしまう。

翌日、周りから「狐は執念深いから、騙したままにしておくとずぅーっと祟られる」と脅され、怖くなった男はぼた餅を手土産にして王子稲荷の狐の穴まで謝りにやってくる。
すると子狐が出てきたので、昨日のことを詫び、よろしく云ってくれと手土産を置いて帰ってしまう。子狐は、昨日散々叩きのめされた痛みで穴の奥に臥せっていた母狐の所へ行き、 経緯 いきさつ を話す。
「まぁ、よく此処を突き止めやがったもんだ。そいつは未だいるのかい?」
「ウウン。もう帰っちゃった。昨日は悪ぅござんした。おっかさんによろしく伝えてくださいって、これをアタイにくれたよ。」
「まぁ、ぼた餅じゃないか。」
「ア、美味しそうだよ。おっかさん、食べて良い?」
「およし!馬糞かもしれない。」




先 に、豊川稲荷は禅宗のお寺だと書いたが、正確には妙厳寺境内の「豊川だ枳尼真天」を祀るお社で、まぁこのお寺の鎮守樣のような立場らしい。京都の伏見稲荷とともに日本三大稲荷とされ、その格式は高い。だから、ちゃんとニ礼二拍一礼で拝んで障りはないのである。

ところで神様にお祈りをする時には、自分の願いを唱えるのではなく、拝んでいる神様の隆盛をお祈りするのだという事を先頃教わった。なるほど。そりゃぁ神様だって、身勝手な願いをほんのわずかなお賽銭で押し付けられるより、自分のために祈ってくれる方が嬉しいに決まっている。
だから僕は、いつも「会社が発展した暁には、立派な祠を建てて、そこにお祀りさせていただきます。」と祈るようにしているのだ。






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最終更新日  2005.11.04 17:32:52
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