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2023年09月08日
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カテゴリ: 資料館


こんにちは、資料館です。
『​ ​ 広報 おおつき ​ ​』9月号に掲載された「大月探訪記」<御嶽沢の地蔵尊>の補足説明をします。

まずは、原稿文です。

1935(昭和10)年9月26日、5日前から降り続いた豪雨が止んだ日の早朝、七保村の御嶽沢で土石流が発生し、大音響とともに下流の集落を襲いました。
葛野川の氾濫の様子を御嶽沢橋から見ていた人や、橋近くの家で雨のために延期されていた葬儀の準備をしていた人たちなどが巻き込まれ、翌27日の新聞には「生埋め十九名 葬式準備中四家族が遭難」との見出しのついた記事が掲載されました。
さらに、29日の新聞は、「葛野の遭難者を発見 神奈川県下で八名」として、犠牲者が桂川・相模川を流れ下り大磯海岸・平塚海岸で発見されたことを伝えています。
死者・行方不明者数の内訳はわかりませんが、重軽傷者を多数出し、家屋4戸と共同水車小屋3棟が流失する大惨事となりました。
写真の地蔵尊は、この時の犠牲者を慰霊し、再び土石流の災禍に見舞われないことを願い、七保村民の手により建てられました。

次に、地蔵尊の台石正面に刻まれている建立の理由と祈りです。

昭和十年九月二十六日御嶽沢崩壊
大惨事ニ遭遇ス
七保村七百有余人ノ得志特志ニヨリコノ尊像ヲ建設シ以テ諸霊ノ冥福ヲ祈ル
願ハクハ災禍ノ再ヒ無カラシメンコトヲ

​​​また、向かって左の石燈籠の前面には「 破諸闇 」、右の石燈籠には前面に「 清浄光 」その裏には建立年の「 昭和十年十二月吉辰 」が刻まれています。​​​

それでは、事実の確認をしていきましょう。
「1935年9月21日 台風」で検索すると、国交省関東地方整備局のHPに利根川上流の群馬県烏川流域で発生した水害「​ ​ 烏川災害 ​ ​ 」の記事がありました。
​​台風の進路図や群馬県の被害状況等が掲載されていますが、本文中の「 24日朝から 26日夕方まで豪雨が継続しました 」とあるのは、 ​​ ​別添資料 ​ ​​ の日雨量(グラフ)と照合すると、26日には雨量の記載がないことから、正確な表現ではないと思われます。​​
​また、「昭和10年 山梨 水害」で検索すると、山梨県立博物館の水害学習の ​ ​ ワークシート ​ ​ の年表と、甲府市防災情報WEBの ​ ​ 災害史年表 ​ ​ の記事がありました。​
​県立博物館のワークシートは「明治40年の大水害」がメインで、1935年の水害については年表中に「 9/21~26 台風と前線による記録的豪雨(総雨量420㎜)で全県に著しい被害。死者39人。各所で堤防・道路の流出・決壊・破損。 」とあるだけで、地区別の被災状況については記述がありません。​
​甲府市の年表には、「 台風 21日~26日までの総降水量 甲府 419.5mm、河口湖 522.9mm、日最大降水量 甲府 185.5mm、河口湖 163.3mm。死者39人、負傷者21人、家屋全・半壊116戸、流失107戸、橋梁163箇所、堤防・道路の流失・決壊・破損1,112箇所、田畑流失・浸水5,483ha市内各河川が氾濫、荒川堤防が決壊し、西部から南部が被害 」とあります。​
こちらは、観測地点の降水量が示されていますが、地区別の被害の内訳はありません。
いずれにしても、1935(昭和10)年9月21日から26日にかけて雨が降り続き、群馬県や山梨県に甚大な被害をもたらしたことが公的な記録で確認することができました。

では、大月の被害状況はどうだったのでしょうか?

残念ながら『大月市史』には記述がみられませんでした。

本ブログでたびたび引用する『大月市の石造物』(大月市文化財審議会編集 1993)の巻末付録「二、石造物の由緒・伝説等」に、地蔵尊建立の由来として、水害の状況を審議会委員の奈良文一氏が次のように書いています。

午前六時三十分頃、この橋の御嶽沢の上流、六角沢(釜土場ともいう粘土層)が崩れて雨水、土砂を蓄めていたと思われる堰が切れ、更に大田原・正原の二つの耕地の崩壊をさそって大音響と濛々たる土煙をあげ怒涛の速さで押し下ってきた。避難の間もなく流失家屋四戸、水車三棟、行方不明者十九名、ほかに生埋めになったが救出されたもの、または、かろうじて逃げおおせたが重軽傷を負ったものなど多数で、またたく間に修羅場と化してしまったという。
行方不明者の多くは流されて遠く大磯海岸で発見されたものもある。(中略)すでに納棺されていた故人も喪の家もろとも流出し、泥だらけの白装束で上野原地内の桂川で発見されたそうである。


また、郷土史家の鈴木美良氏も、自著の『葛野川物語』(1999)で、「水難者供養の地蔵尊」として被害状況を次のように書いています。

二十八日には大磯署より連絡があり、大磯・平塚海岸で六遺体を収容できた。
この大水害によって死亡した人は十四人、流出家屋は四戸、水車小屋三棟の大被害となり、(後略)


そして最後に、『 ​​ ​ふるさと葛野のあゆみ ​ ​ ​』(鈴木伝一編著 1980)です。
「山津波の惨害」という章題で、「概況・惨害の原因・被害の状況・救恤・死亡者の氏名・家屋流出者の氏名」の項目を立てて詳しく書き綴っています。
​文末には「 以上は筆者の記憶と昭和十年九月二十六日、二十七日、二十八日、二十九日付の山梨日日新聞の記事を参考に記述した 」とあり、自身が体験者であること、記憶を新聞記事という客観的な根拠に基づいて整理していることを明示しています。​
また、不鮮明ながらも実際に引用した新聞記事の切り抜きも図版として掲載され、かろうじて見出しを読み取ることもできます。
さらに、発行者が葛野西東長寿会・葛野ふるさと学級であることから、鈴木伝一氏が当時の体験者から聞き取りをしていることも容易に想像されます。
一読すると、前掲ニ書は本書をもとにして、その要約と推量で書かれていることがわかります。

抜粋になりますが、被害の状況についての記述は次の通りです。

老若男女が十九名が濁流に呑まれて「あれよ」という間もなくその姿を消してしまった。
二十六日夕刻までに、清水みつ子さん他七名を発掘し、葛野小学校に安置。
この日(27日)は鈴木保利さんが救助されたほかは、なおこの時点では十名のゆくえ不明者があった。
この日(同日)神奈川県大磯町の海岸に漂着した六個の溺死体は、(中略)身元不明者の漂着者として付近の寺に仮埋葬した。次いで、二十八日早朝犠牲者捜査に出動した消防組員等が仮埋葬した犠牲者を調べた結果、岡部徳密さん、矢竹よね子さん外二名と判明したので家族を招致して遺体を引き取った。
こうして埋没された犠牲者の死体は、二十七日までに発掘されたもの、桂川に漂着して発見されたもの、または大磯海岸まで漂着したもの等だいたい収容されたので各団体は、二十七日をもって一応発掘作業を打ち切った。


この後、

​さらに二十八日に至って平塚、大磯方面に遭難者が漂着したとの知らせに接したので、関係者は同地に急行した。​

と続きますが、葛野の犠牲者だったのかについては書かれていません。

「死亡者の氏名」の項には、14名の氏名が書かれています。
先の引用文中の犠牲者に出てくる、清水みつ子、鈴木保利、岡部徳密の3人の氏名はありますが、矢竹よね子の名はありません。
​但書に「 菩提寺 福泉寺に葬られた人々のみを記す 」あることから、矢竹よね子は福泉寺の檀家ではなかったのかもしれません。​
​​となると、鈴木美良氏が「 死亡した人は十四人 」と断定するのは誤りで、死亡者数は十五人以上となります。
正確な死亡者数の記載が無いため、広報では「 死者・行方不明者数の内訳はわかりません 」という表現にしました。​​

また、「家屋流出者の氏名」には4名が記載され、続いて「 外に共同水車 三棟 」とあります。​
​ただ、わからないのがその下に「 以上六戸 」とあり、計算が合わないことです。​
​広報ではこの部分は「 家屋4戸と共同水車小屋3棟が流失 」という表現にしました。​

広報原稿を執筆するのにあたって、当時の「山梨日日新聞」の記事が読むことができれば、何か新しい発見があったかもしれないのですが、所蔵している山梨県立図書館は遠く、手を抜いてしまったことが今更ながらに悔やまれます。
機会があれば、県立図書館へマイクロフィルム資料を見に行こうと思います。

※おまけ
​「御嶽沢の地蔵尊」は、『広報 おおつき』 ​​ ​​ 8月号​​ ​​ に掲載した「浅川慰霊並災害復興之碑」とともに、国土地理院HPの地理院地図(電子国土Web)に「自然災害伝承碑」として掲載されています。​
​ ​ 国土地理院HP ​から「地理院地図を見る」クリックすると地理院地図(電子国土Web)が開きます。​
次に左上の「地図」と書かれたアイコンをタップ・クリックするとメニューが出ますので、「災害伝承・避難場所」を選択します。
さらに、「自然災害伝承碑」、「土砂災害」と選択していくと、地図上に災害記念碑の地図記号が表示されます。
あとは、調べたい場所をズーム・スワイプしてさがし、地図記号をタップ・クリックすると写真と説明が現れます。
残念ながら地番や住所番号は表示されませんが、地図上で場所は確認できるので、目的地へはたどり着けるはずです。
大月市内には、2023年9月現在で「自然災害伝承碑」が3つ掲載されています。
先の2つと、明治40年の大水害の際、笹子川支流の大鹿川が氾濫し押し出された「大鹿川の巨石」です。
こちらについては、またの機会に紹介したいと思います。
「自然災害伝承碑」についての学習を深めたい人は、次のWeb記事を読んでください。
​台風13号は大月市に大きな被害をもたらすことなく去っていきそうですが(午後2時現在)、日頃から​ ​ ​ ​ ハザードマップ​ ​​​ 等で、自宅・職場などの日常生活の場所にどんな自然災害のリスクがあるのか確認しておきましょう。





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最終更新日  2023年09月09日 14時54分08秒
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