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2007年02月14日
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その青年が、果たして何某なのか失念した。まあ取り立てて言う程の無い、何処にでも居る青年と言って差支えあるまい。

彼はそこらのごく普通の青年の如く淡く恋に恋はすれど、生まれてからこのかた恋人と呼べる人に身近に接する事はなかった。

だから、人言う所のバレンタインチョコレートなど彼の人生の路傍の片隅にも見つける事も無かったのは言うまでも無い事であった。

その日、2月14日。夕刻から街は強い雨に覆われていた。その青年は雨に追われ雨宿りの為に大きなガラスのショウウインドー前に立った。

明るい柔らかな光に包まれたウインドーの中には色取り取りの美しい包装紙に飾られたチョコレートが、まるで零れ落ちた音符の様に並んでいる。

青年は見つめるとも無く、ただ茫洋と見つめていた。その時、ふ~と降って湧いた様にその青年の右横にひとつの影が浮かび上がった。

青年は慌てて、その影に目をやった。影は事実は娼婦だったかもしれない、また異邦人の年老いた女だったかもしれない。だが青年の目には美しい妖精の如く映った。

美しい妖精は、その青年に幽かな笑みを浮かべ一枚の銀包装紙を取り出した。そしてその銀包装紙で器用に空気を包む様に形作り始めた。そして出来上がった銀包みを青年の手の平に黙って乗せた。

青年はただただ驚いて手の平を差し出して、その包みを受け取っていた。その包みは空気を包んだだけだと思っていたのに少し重みがあった。



濃い琥珀色のチョコレートが出てきた。丸いチョコレートの中心部にはキラリと光る物がある。また周囲には小さく光る粒が沢山、煌いている。心なしか、それらの光が廻りながら動いているのではないかと思われた。

それは音声では無かったのかもしれない。周波数の高い笛の音(ね)の様な音、だか青年の耳には美しい妖精の声として響いた。

「さあ よかったら召し上がれ コスモ(銀河)チョコレート 」

青年は訊き返した。

「コスモ?チョコレート・・・・すると、この中心で光るのは小さな恒星?そして銀河?」

妖精は再び笛の音のような声で

「そう・・・バレンタインチョコレート」

青年は恐る恐る、そのチョコレートを口へ持っていった。口に含むと冷たく、甘い香りが広がった。それと同時に口から青い銀粉を撒き散らして透き通る様な羽を持った可憐な蝶が数匹舞いあがった。

青年は口を閉じ、舌先に力を加えチョコレートを溶かそうとした。すると急激に何かの力を感じた。チョコレートが収縮していくみたいである。

コスモチョコレートの中心にあった恒星が加わった力によって臨界点を超えシュバルツト半径を下まわったみたいである。

収縮するコスモチョコレート。収縮する銀河。恒星は小さなブラックホールと化したのである。



そして青年自身も小さなブラックホールの中へ吸い込まれていった。ガラスのショウウインドーも陳列されたチョコレートも店も、最後に雨に煙る街も全ての物が小さなブラックホールに吸い込まれていった。

あらゆる物が吸い込まれていった後に小さなブラックホールの中心で一枚の銀包装紙がクルクルと漂っていた。





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最終更新日  2007年02月14日 22時35分37秒
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