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2007年02月12日
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こうかいの思いに、その場を一歩も動けなかった兵十は、やがて火薬の匂いも消えてなくなると、おそるおそる、ごんに近づきました。

ごんの右の前足のつけ根の所が真っ赤なもみじが散ったように染まっています。

兵十が思わず手を差し伸べようとすると、ごんは、ゆっくり立ち上がり、一度、悲しそうに兵十を見つめ、よろめきながら戸口の外の闇に溶けて行きました。

「ごん~ ご ごん~」

兵十のごんをよぶ声も暗い闇に溶けていきました。

はうように、ようよう巣あなにかえったごんは、その夜から三日三晩、高い熱にみまわれました。傷が痛んでうなされました。浅い夢の中にお母さんきつねが浮かんできました。

「ごんや どうしたの、しっかりおし」

「おかあさん・・・・」

いつしかごんは、やっと深いふかい眠りに落ちてゆきました。



ごんはすっかりやつれてしまいました。でも傷は動かすたびにずきずきと痛みます。ごんは空腹のままあなから出てゆくことができません。

兵十はなにやらぶつぶつとひとり言を言いながら、はりきりあみをあげていました。いつものようにしばの根や草の葉っぱにまぜってきすやふなをびくの中へいれました。

「ごんは、あれからどうしているんじゃろう・・・・あの傷じゃ餌も取れんじゃろうに・・きのうもおとといも、おれあが置いておいたふなにも手をつけていないし。もしや死んでしまったような事ではあるまいか」

「ごんは・・・・腹ば空かしているのじゃあるまいか・・・・今日も捕ったふなを置いていくべえ~」

兵十は捕ったふなの一番大きいのを竹にさしてその場に残してびくをかついで帰りました。

そんな日が七日ばかり続いたでしょうか。そんなある日、兵十がいつものはりきりあみの側の竹にさしたふなの所へ行くと今日はふながありません。兵十は嬉しくて思わずさけびました。

「ごんのやつ・・・生きていちょる おれあの捕ったふなを食べてくれたみたいだ」

「ごん~かんべんな~あすもあさってもこれからず~と毎日、食べ物を置いていくからな~」

それから兵十は毎日まいにち食べ物を運びました。今度はお返しとばかりにくりや、ばったや、ときに貴重な卵までもを置いてきました。

ごんは日増しにいちにちいちにちと足の傷がいえてきました。毎日、空腹がみたされていくたびに胸の奥深い所におった心の傷もいえていったのです。

秋も深まる頃にはどうにかわずかながらも自分で餌を捕れるほどに心も体力も回復してきました。



ごんはこれは、「またそう列の・・いやいやそれとも秋祭りのはやしの音か」と思いました。

好奇心いっぱいのごんは三本の足でびっこをひきながら、おそるおそる穴から出て行きました。

しかし遠目ではあったのですが、お宮にのぼりも立っていないし秋祭りのようでもない。それでも何か楽しい事に違いないと思いました。

なるほど、ごんがそう思ったのもあたりまえ。空は青く晴れわたり、とびが高く円をえがきながら飛んでいました。実にのどかな風もない日でした。

ごんは、木陰から鐘や太鼓の音を耳にしながら、ふと三けんばかり先に目をやると、いもりが今にもばったを捕まえようと狙っています。



そこで今度は捕る事に熱中しているいもりは、すきだらけだから捕ってやろうと思っていました。

そして注意深くいもりを狙っていると、今度はやはり、ごんと同じように、いもりを狙っているてんが目に飛び込んできました。

ですから、ごんは空かさず獲物をてんに代えて、そっと身を潜めて、てんの後ろへ近づきました。

その時です。「ドーン」と突然、火なわじゅうの音がしたのです。

ごんはびっくりしてサッと地に身を伏せました。それと同時にごんの頭の上を一本の矢が空気を切って飛んできて木の幹に突き刺さりました。

矢は木に刺さったまま震えています。ごんも思わず身震いがしました。

「もし、あの矢が当たっていたなら命がなかっただろう」と身震いがしました。

ごんはしっぽをまいてあわてて逃げていきました。

「誰だ 火なわじゅうをうったやつは」「わしが、きつねを弓にしようとしていたのにきつねに気づかれて逃げてしまったではないか」

中山のおとの様が怒りました。たいそうなけんまくです。

そうそうに火なわじゅうを、うった者がおとの様の前に連れ出されると、それは兵十でした。

兵十はおとの様の前でひら蜘蛛の様にへいふくして顔をふせてあやまっています。

「兵十とやら そちのうった火なわじゅうのせいで、こたびのまき狩りは、さんざんのものになってしまった。わしにしても、せっかくのきつねを弓にしそこねてしまった」

「ハハ!おそれおおい事でございます」

「まあ それはよい しかし 何故にみなが、しかける前に火なわじゅうをうったのだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「くるしゅうない それそうおうの、わけがあろう」

兵十は、まさか、との様の狙っていたごんきつねを助けるための火なわじゅうをうったとも言えず。ひたいに冷や汗をたらしながらかしこまっていました。

そしてきわまって、心ないうそが口からぽろりと出てしまいました。

「白いいのししを見つけましてございますだ。ぜひその白いいのししを、しとめてとの様にけんじょうしようと思いまして、うったのでございますだ」

「ほ~白いいのししとな。それはめずらしい。して、その白いいのししは?」

「そ そ それが・・うち逃がしてしまいました」

「なに!ししは逃がしてしまうは、まき狩はさんざんなものに、してしまうでは、言い訳にはなるまいが・・・・よし。こたびのまき狩は、わしも心におさめよう。その代わりと言ってもなんだが、兵十!・・・その白いししを近日中にしとめてまいれ」

「へ へ へ かしこまりましたでございますだ」

兵十は、とうとう、できもしない返答をしてしまいました。

さあ、それからです。兵十は、あてもない白いししを求めて野山をさまよったのです。しかし、はなから、そんなししなどいないのですから、ただただほうけた様になってさまよったと言うしかないのです。

そんなある日、ごんは「近頃、どうも兵十の様子がおかしい、まるでほうけてしまったのではないか」と思い村へおりて来て弥助や新兵衛たちの立ち話しを聞きました。

「兵十は中山のおとの様から白いいのししを捕ってくるようにめいじられた・・・・白いししなど、ほんとうに兵十は見たのだろうか・・・」

「火なわじゅうをうったのだろうから じっさい見たのだろうよ・・・だけんど白いししなどほんとうに、この中山にいるんだろうか・・・遠い唐(から)の国ならいざ知らず、聞いた事も見た事もないしなあ~」

その時です。ごんは、先(せん)の日、火なわじゅうの音におどろいて身をふせたので、紙ひとえで命をながらえた事を思い出しました。

ごんは「・・・・そうか・・兵十が救ってくれたのか・・しかしこの中山には白いししなどいないのに・・」と思いました。

ごんは巣あなに帰って考えました。そして悩んで悩んでまた考えました。兵十がほうけたように山をさまようのが悲しかったのです。

そこで意を決したごんは、葉っぱを一枚、頭の上に乗せると昔、爺さまきつねに教えられたようにクルリと廻って白いいのししに化けました。

そして、急に、ほうけたようになって歩いていた兵十の前へ飛び出していきました。

おどろいたのは兵十、夢か真か、うそでえがいた白いししが出て来たからたまりません。思わず火なわじゅうをかまえてししをうったのです。

「ズドーン」

白いいのししはその場に倒れてしまいました。それで兵十は夢ごこちで白いししをかついで中山のおしろへ持っていきました。

「おとの様 白い・・・白いいのししをけんじょうにあがりました」

「ほ~ これがそちのもうしておった白いししか・・なるほど、これはめずらしい。この毛皮をしき物にして天子さまに差し出せば、きっと天子さまもお喜びになるだろう。どれ・・」

と、との様が白いいのししを手にしようとした時です。白いししから、ポ~と青白い火が浮かび上がり白いししの亡(な)き骸(がら)は雲、煙と消えてなくなりました。

「や や や これは面妖(めんよう)な『きつね火』・・・」

この、との様の言葉を聞いた兵十は、すぐさま白いいのししの全容(ぜんよう)が氷解(ひょうかい)しました。

「ご・・ごん・・・おれあのうそにつきあって ごん・・・」

そして、との様の前にもかかわらず泣きに泣きました。

「や 白いししが、きつね火に化けたが面妖(めんよう)ならば、これも面妖(めんよう)兵十 何故 そんなにもそちが泣く?」

兵十はおそれながらと言いながら、兵十のついたうその事やら、それまであった、ごんきつねの事を、との様に包みかくさず全て話しました。

すると、との様はじっと兵十の話を聞いていて、兵十が、ついたうそをも、ゆるし、心の内に飲み込んでくれました。そして、との様は言いました。

「ごんきつねを丁重(ていちょう)にうやまってならねばならぬ。どうだ村の林にごんきつねを祭るお宮を建ててやろうではないか」

と、そう言って建てられたのが中山の『ごんきつねの宮』だそうな。そして中村の村人ばかりでなく近く遠くの村々からもお参りがたえないとのお話です。





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最終更新日  2007年02月12日 20時41分54秒
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