はあと・めもりいず

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2010/07/17
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「大人ドロップ」樋口直哉


大人ドロップ

~彼女と目があった瞬間、脳裏をかすめたのは高校生の頃の蒼い記憶だった─。あの夏、ぼくは親友のハジメに頼まれて、クラスメートの入江さんと彼のデートをこっそりセッティングした。ところがその作戦が原因で入江さんをひどく怒らせてしまう。ぼくと入江さんの間には微妙な距離が生まれ、その頃からどういうわけか彼女はよく学校を休むようになっていた。やり場のない気持ちを抱えたまま迎えた夏休みのある日、彼女が学校をやめる、という話をハジメから聞かされ…。大人でも子供でもなかった頃の、みずみずしい記憶を鮮やかに呼び覚ます青春の物語。~

大人ドロップ・・・それは、大人になるための魔法のドロップ。その夏、僕らは大人でも子どもでもなかった。(帯より)

高校生のみずみずしく、もどかしい、まさしく青春の物語。

子どもではないけれど、大人とも言えず、大人にもなりたくない、微妙な年頃の、微妙な気持ちをとってもさわやかに表現している作品。

かつてぼくが好きだったもの達が遠くに離れていく。大人に近づくにつれて、好きだったものが順番に消えていく。そして、きえてしまったものは二度と自分に寄り添ってはくれない。

悪いことをしてちゃんと罰をうけることができるのが子供で、そうでないのが大人だとすると、大人になるということは寂しいことだとぼくは思った。

違うんだとぼくは思った。おそらく彼女のいうとおりなのだろう。ただ、ぼくはハジメを裏切ったことで、自分のなかの何かが失われてしまったような気がした。信頼という掌のなかで暖めていた小鳥を握りつぶしてしまったような気持ち。そんな風に大事なものが損なわれてしまっても、ぼくはこうして生きていくことができてしまうということ・・・そして、このことがぼくの気持ちをまいらせていた。彼女と別れても、ぼくはいままで通り生きていくことができてしまうのだ。

いろんなことがあって、ぼくは大人になった、と自分では思った。だけどまだ完全な大人にはなれていないんだ。ひとりじゃ大人になれないんだよ、きっと。君の言う生まれた時の寂しさには一人じゃ勝てないから。ときどきその寂しさに負けて、地面に倒れ砂を噛んでしまう。すると子供のときの気持ちに戻ってしまうんだ。だからみんな誰か側にいてほしいんだよ。



大人になって、忘れていたあの日のことが、まるで昨日の出来事のようによみがえり、思い出に浸ってしまうような懐かしさと胸に広がる甘酸っぱい痛み。

あの時、ぼくは何か意味のあることを彼女に話しただろうか。ぼく達は意味のある言葉を交わさなければいけなかったのではないだろうか?過ぎ去ってしまった今ではどうすることもできないけれど、あの砂浜にぼくは子供の頃を置き去りにしたような気がした。そして、彼女に対する想いも一緒に砂の中に埋めた。それは正しいことだったのだろうか?

今年もまたこうして夏が流れていくんだ、とぼくは思った。こんな風に、子供の頃の心にある暖かな灯や、遠くにある未来すらもいつかは海に流れていってしまう。でも、とぼくは思う。 失ってしまったものについて思いを馳せることで、ポケットのなかにある残されたものの存在に気づくことができるのかもしれない。



すがすがしい風に吹かれて読んでいるような心地よい作品だった。。。

★★★★☆





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Last updated  2010/07/17 03:06:30 PM
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