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マコ8896

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2005.04.22
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 うーんと、そうそう、あの事件のことについてお話しするんでしたな。

 初日、デビューで喝采を浴びたクリスチーヌが突然楽屋から消えたんです。部屋の鍵がかかったままいなくなっていて、大鏡の裏に秘密の通路が見つかってびっくりしました。元々このオペラ座は迷路みたいななぞめいた建物ではあるのですがねえ。
 それから怪しい手紙にカルロッタが激怒して、出て行こうとするのを支配人たちが必死でなだめすかして、ようやくあの「イル・ムート」の上演にこぎ着けたのでした。まあ、カルロッタを巡るあの手の騒ぎは、一度や二度のことではありませんけれどね。
 「イル・ムート」、なかなか良い作品でしたよ。あの不幸な神童モーツァルトの作品のいわばパロディーですな。かつてパリはずいぶんとモーツァルトに冷たい仕打ちをしたものでしたが、亡くなってからから彼の偉大さがわかったのでしょう。ああいうモーツァルトのパロディー的な作品もよく現れては消えていきました。そういうパロディー的な作品の中ではあの「イル・ムート」は比較的良い方で、あの忌まわしい事件さえなければ、後世に残ったかも知れません。
 さて、あの日のカルロッタは久しぶりに絶好調で、あのお人好しの相棒ピアンジとコミカルで軽妙なやりとりはとてもいい感じでした。ただねえ、ああいう調子が良い時のカルロッタは悪のりするのです。夫が出かけることを「やっかい払い」などと言う言い方の下品なこと・・・どうしてあんなにも澄み切った美しい声が出てくる口と同じ口からあんな下品な声が出てくるのでしょうね。劇場たたき上げの私もさすがにあのカルロッタの悪のりには、いささかひいてしまいました。
 そんな時、突然、シャンデリアのあたりから不気味な声が響いたのです。「ボックス席は空けておけといっただろう。・・・・」。いやあ、びっくりしました。劇場騒然です。でもカルロッタはあれで結構気丈なところがあり、「ファントムだわ」とうろたえるメグやクリスチーヌをたしなめて、渇いた喉にひと湿り与えると、「マエストロ、繰り返しのところからまた歌いましょう。」と言ってくれたのでした。あの辺はさすがに「プリマドンナ」です。
 「そうこなくっちゃ」とばかりににアリアの初めから演奏していましたら、突然カルロッタがまるでひきがえるのような声を出してしまったのです。ギョッとしました。あの類い希な美しい声からは想像できません。まるでカルロッタの口からひきがえるが跳びだしたかのようです。カルロッタがなおも歌い続けようとしたらまた「ゲコッ、ゲコッ」もう止まりません。顎と声帯の筋力が無力化したのでしょうか。お客さんは大笑い、さすがの気丈なカルロッタももう歌えません。私も演奏をやめました。
 すると支配人たちが舞台にすっ飛んで来て、ムッシュフィルマンが舞台の一時中断と代役のクリスチーヌを発表しました。さすがにくず鉄業界、いや違ったスクラップメタルでしたか、で一山当てて、オペラ座の支配人の座を得ただけあって、なかなかの苦労人です。支配人には絶対不可欠の「その場逃れのはったり」は見事なものです。じゃあ、こちらも一息つこうかと思ったらムッシュアンドレが「マエストロ、バ、バ、バ、バ・・・」と言うのです。「なにっ?」と私が問い返しますと、「バレエをやってください。バレエです。」というのです。アンドレなりの気配りですな。あわててページを楽団員に指示して、バレエを始めました。そこは私も根っからの音楽家ということでしょうか。音楽し始めると先ほどのハプニングも忘れてバレエ音楽に没頭しておりました。前奏の間にばたばたと踊り子たちも集まってきて、何とか場が立ち直り始めました。まあ、オペラの上演にハプニングは時々起こるものでして、それはそれ、気分を切り替えることも大切なのです。さあて、バレエも盛り上がってきたと思った時、あの忌まわしい事件が起こったのです。

 「皆さん、これは単なる事故なのです。」気丈なフィルマンの声が聞こえます。でももう演奏どころではありませんでした。
 それっきり「イル・ムート」は上演を中止してしまいました。曲の途中で死体が降ってきたオペラなんて誰も思い出したくないでしょ。それにオペラ座には沢山の演目がありますからね。支配人たちの判断は正しかったと思います。
今でも思い出すと胸が締め付けられそうです。
 ふーっ、ちょっと疲れましたな、ここらあたりでちょっと外の空気でも吸って気分転換しませんか。
 続く(かな?)





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Last updated  2005.04.22 16:48:44
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