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小説 「 scene clipper 」 Episode 38
やがて車は甲州街道を走り、永福入り口から首都高に乗った。
そして高井戸 IC IC で下りて目的地に着いた。
約50分の行程だった。
新宿の都庁が間近に見える場所からわずか50分で緑豊かな場所に身を置ける。便利と言えばそうではあるが、やはり日本は狭い。
車を降りて砂利道の中を歩く。木々に遮られて表からはほとんど見えなかったが風情のある和風の建物、いうならば茶寮と言う類である・・・そこに入るのかと思っていたが玄関脇の木立を回り込むかたちで、なんと地下に下りていくではないか。
(なるほど、邪魔者は進入禁止というわけか)
外には目立たぬように警備の若者がいたが、ここはさすがに手薄なようだ。
ケンにエスコートされて奥へ進む。
(いましたね、大物が・・)
「やあ、いらっしゃい。遠いところまでお呼びしてしまって申し訳ない」
席に腰を下ろしたままではあるが、両手を膝において頭を下げて迎えてくれた。それにはリョウとしても礼を持って応えなければならない。
「いえ、わざわざお迎えの車を寄こして下さり、ありがとうございます」
「うん、うん、まあ座ってください」
会長は何故か嬉しそうである。そしてケンさんに
「ケン、客人を席にご案内せんか」
ケンは若い者(ケンもそれほど年配では無いが)
に何かしら指図をしているところで、会長を振り向いて
「はい、ただいま」
そう言って若い男たちに「頼んだぞ」と言った。恐らくはこの場の警備について指示を与えていたのだろう。
振り返ったケンは会長の意向を尋ねるべく腰を曲げて顔を伺った。
会長は「そちらに」と言ってすぐ前のテーブル側の席を指さした。
ケンは敬意を持って頷いた。
(リョウさんに対して、すでに心を開いておいでになる・・滅多にないことだ)
「リョウさん、こちらへ」
「うん、ありがとう。会長さん失礼します」
「会長さんは堅苦しいな、青木でいいよ」
「はい、わかりました」
「先ずは乾杯しよう。君はなにを飲みますか?遠慮なく言ってくれるといい」
「では、スコッチウイスキーを頂戴します」
会長が頷きケンが「オールドパーで?」
それにリョウが頷き、ケンは傍にいた女性に頷いて見せた。
やがて乾杯が済むと会長が口を開いた。
「今朝、君に会って、何かしら特別な感じがあった。それでご招待したんです・・・わたしらの稼業は資格など要らないが、鋭い直感を持たない者は上に行けないし長生きもできない。なに、長生きしたい訳は自分の為じゃない。私についてきてくれる者たちの生く末を安堵しておきたいからなんだが、これが中々難しい・・・」
なんだか分かったような気がしてリョウは頷いていた。
「今日はわたしの直感を試させてくださるか?」
「・・・・はあ・・・」
ケンは驚いていた。会長が実は真面目な性格であることは承知していたが、今日のリョウさんに対する態度はいつも以上に丁寧であるからだ。
「わしは今朝、君に会って閃いた。『九州、あの方』とね」
「九州は大分が私の郷里ですが・・・」
「おお、そうかね!やはりそうだったか!」
「会長・いえ青木さんも九州の・・・」
「いや、私は東京の出身だ。だが戦時中空襲で家も家族もみんな失った・・・」
「そうでしたか・・・」
「それでね、親戚を頼って九州へ、大分県の別府市に 行った」
「え!」
今度はリョウが驚くことになった。
「別府は父の生まれ故郷です」
「何!」
会長は思わず立ち上がり驚愕の眼差しでリョウを見据えた。
「それは本当なのか?」
「はい、母は小倉育ちですが父は生まれも育ちも別府です」
会長は腰を下ろしたが、目の前のリョウを凝視したままである。
やがてケンを振り返って
「ケン、わしの直感は大したもんだぞ!」
なんだか他人ごとのように言う会長だがその興奮の度合いも今までに見た事もないものであり、ケンは目が離せなくなった。
「リョウ君とやら、君の父上の名前は・・・」
「はい、山本と申します。山本太一です」
「・・・山本・さんか、田島さん、ではなかったか・・・」
「田島なら私の叔父に同じ名前の者がいますけれど・・・」
「なに!君の叔父さんだと!」
「はい、叔父は父の一番下の弟ですが、小さな頃遠縁に縁有って養子に行ったと聞いています」
「それで、君の叔父さん、田島さんのお仕事は?」
もはや会長は恐ろしいほどの形相で矢継ぎ早にリョウへ訊ねる。
「はい、叔父は建設業を営んでおりました」
「ケン!やはりわしの直感が当たったぞ!」
リョウはもう訳が分からなくなって困っている。そこへ
「実はな、わたしは君の叔父さん、田島さんに大変お世話に・・・というより恩人なんだよ田島さんは!いや有難い!」
訳を知っていて喜び興奮しているのは会長ただ一人、他はケンもリョウも
みんな訳が分からないから立ち尽くしているしかない。
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