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2006/05/31
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カテゴリ: 個人図書館
田園の憂鬱改版

≪都会の喧噪から逃れ、草深い武蔵野に移り住んだ青年を絶間なく襲う幻覚、予感、焦躁、模索……青春と芸術の危機を語った不朽の名作。≫

●『田園の憂鬱』
●佐藤春夫
●新潮文庫
●読了日:2001年1月31日


彼と彼の妻とは、その時、各々この草屋根の上にさまようていた彼らの瞳を、互いに相手のそれの上に向けて、瞳と瞳で会話をした――
「いい家のような予覚がある」
「ええ私もそう思うの」


なーんていう冒頭にだまされて、きっとこの先明るく爽やかな展開が訪れるんだろうなんて思ってしまった。
全然、さわやかでもなければ明るくもないのである。
だめオヤジ系列でした。(『死の棘』島尾敏雄、『火宅の人』檀一雄の小説を、私はそう呼ぶ)

希望がほの見えるこの会話こそが、その希望の最後のひと燃えだったわけである。春夫のユーウツの始まりである。
主人公の男は生活の憂鬱から段々と妻が気に入らなくなる。

返事が気に入らないといっては転ぶほど突きとばされたり、打たれたり、何が気に入らないのか二日も三日も一言も口を利こうとはしなかったり……。

こんな男、最悪である。

「あの時、おれがあの女、あの純潔な素直な娘と一緒になれさえしたならば、あの人が私をよく統一して、おれは今ごろいろいろな意味でもっと美しいもっと善い生活ができていただろうに」

おいおい。ひとのせいかよ。統一ってなんだよ。

この間歇的な雨は何日まででも降る……。幾日でも降る……。彼の心身を腐らせようとして降る……、世界そのものを腐らせようとして降る……
   何もかも腐れ……、
       腐るなら腐れ……、
   勝手に腐れ……、
       腐れ腐れ……、
   お前の頭が腐れ……、
       まっさきに腐れ……、
   …………………………、
       ………………………、
   …………………………、
       ………………………、
   …………………………、
       ………………………、


ぉおーい、大丈夫か、春夫ーー!
この「腐れ……」コーラスを読んだ時、本気で春夫を心配してしまった。爆笑しながら。


主人公は一つの丘を眺めているうちに、そこがフェアリー・ランドに思えてくる、という下りがある。
危ない! なんだ! フェアリー・ランドって!!
しかも男は空想が空想を呼び、彼自身がフェアリー・ランドの王になるのである。
超現実的な内容に、ちょっと恐くなる。
頼むから現実に戻って来い。

「おれには天分もなければ、もう何の自信もない……」

救いようもない。
主人公には、幻視幻聴のオンパレードである。憂鬱よりも躁鬱。
小説も救われないまま終るのでした。
こんな小説を26歳で書く春夫って…。

ある意味、すごい。





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最終更新日  2006/05/31 07:43:16 AM
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