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白い倍音の魔法使い

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白い倍音@ そうだったんですね ごちゃまぜアイスさんへ  ブログ閉鎖さ…

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December 6, 2008
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 病院に行ったとき、夕食で時々利用するお店がある。

 病院から歩いて数分。
看板には、地元では人気のある蕎麦屋、「●科」の●●支店とある。病院の周辺で手作り看板をいくつか見かける。
初めて行ったのは、10月。
 母の高熱が10日ほど下がらなくて医師から「今週末がヤマかもしれません」と言われた日の夜だった。
 そこは、老夫婦二人(ご主人は80代、奥さんは70代)で営む、小さなテーブル席が4つほどの、小さなお店。(そのうち二つのテーブルは物置のようになっていた)
 彼らの一人息子(40代)は、2年前に母と同じ病院で亡くなっている。脳腫瘍だったそうだ。
 その時、お客は私達だけで、私も母の話をしてしんみり過ごした。

 それ以来、時々行くようになった。

うどんが中心のメニューは、ほとんど400円ほど。
 ただ、味がこれがあの「●科」の支店の味なのか?と思う味。ご主人は自分は、「●科」創始者の一番弟子だと言う。
でも、以前食べた味噌煮込みは味がしなかった。あんかけうどんは、あんが固まってうどんと馴染んでなかった。全て微妙な味がする。
 そしていつも私が行く時、お客はいない。
まるで私専用のお店のようだ。

 今日も行ってきた。
午後5時過ぎ、お店に入ると狭いお店にやはり先客はいない。
「いらっしゃい」テーブルに座っていた奥さんがうれしそうに、急いで立ち上がる。
 何にしよう、メニューを見ながら考える。
ここでは、無難なメニューを選ばないと・・・


 なのに、なのに、奥さんの「今日はうな丼あるよ」の一言で、「じゃ、それお願いします」とつい言ってしまった。
お腹が空いていたし、うなぎは好きなので、ついうっかりと。

 うなぎを焼く気配がしない。
ドキドキしながら待っていると、すぐに出てきた。
見てすぐわかるその姿、ここで焼いてない冷たいうなぎ。

ご飯をすくうとタレでご飯が浸りきって「つゆだく」状態。
あぁ・・
 一口、うなぎを食べる。
泥臭い・・すごく。箸でめくって皮を見ると生々しい色だ。
 どうしよう、食べれない・・・

 ご主人が帰ってきて、顔見知りの私のテーブルにやってくる。
「どう美味しい?」
「はい、美味しいです」
嘘は言わない信条の私だけど、不味いとは言えない。
「どこのうなぎですか」と聞くと(中国産と言われても驚かない)
「これはね、天然うなぎ。宮内庁ご用足しの場所で密漁したの。」とひそひそと言う。
でも不味い、というか私の口には合わない。

 私の思惑をよそに、ご主人の話はなお続く。
「このうなぎのタレは、吉●(全国的有名店)の板長から教えてもらった秘伝のタレ、僕は彼と友達なの」
「ここのぞうすいは、昭和天皇も食べた雑炊」
「僕、昔は●●(私は知らないが政治家らしい)の秘書もしていた」「●●に別邸を持っている」とかとか・・・
 私は、合わせるように「へ~そうなんですか」と答えるけれど、ご主人の話の内容より、頭の中はこのうなぎをどうしようかでいっぱい。
 このご夫婦の前で、ご自慢のうなぎを残して帰ることは出来ない。
 こっそり、ティッシュに包んで捨てようかと思うが、目の前にご主人がいるのでそれも出来そうにない。
 無理して食べるかどうしよう、と迷いつつこっそり夫にメールした。
「うなぎが食べれないどうしよう」

 返信「健康のために食べずに帰りましょう」
これで迷いがふっきれた、夫よありがとう。
 携帯を握り締め立ち上がると
「ごめんなさい~、今自宅からすぐ帰るようにと連絡があったんです。まだほとんど食べてないけど、すぐ帰らないと~」と言い、
今日は嘘だらけの日だと、上着と携帯と手袋を身に着ける。
 それでも奥さんとご主人は「そうですか、また来てくださいね」と丁寧に見送ってくれた。私も「はい、またゆっくり食事に来ます」(これは本当の気持ち)と言ってお店を後にした。

 外は冷え込んですごく寒い。
口の中はまだ泥臭い、さて、どうしよう。
うなぎ2切れと、ご飯を半分ぐらいしか食べてないので、どこかで食べなおそうかと、周辺をウロウロしたけど結局、病院の売店でクリームパンとオロナミンCを買って、病院の待合室で座って食べた。
 ほっと一息。私は人気のない病院がとても好き、なぜかリラックス出来る。

 家に帰ると、夫から「病院の近くで、うなぎ500円という看板を見たよ。こんな500円のうなぎ誰が頼むんだと思ったけど、君が注文するとは勇気あるなって、笑えたよ」と言われた。

 それでも、今度行くときは何を頼もうかと思っている私。
ここまで来ると、どうしてもあの店で美味しいと思う味に出会いたい。
 あのご主人は夢想家なのか、それともとんでもないすごい人なのか。
それでも、いつも客がいないあの店とご夫婦が、私はなぜか好きなのだ。
 また急に、帰らなくてはいけないことになってもね。












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Last updated  December 6, 2008 09:58:03 PM
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