M-BLstory

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February 2, 2025
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テーマ: 自作BL小説(22)
カテゴリ: BL小説
第九章:決断の夜

銃声が夜の闇を切り裂いた。

九条はすぐに柊を背後へ押しやり、低い声で囁く。

「お前は下がってろ」

「九条さん……!」

「いいから」

九条の声には、有無を言わせぬ威圧感があった。柊は唇を噛みしめる。

(ここで俺が何を言っても、九条さんは戦うしかない——)

彼が生きてきた世界が、そうさせるのだ。



柊の胸の奥で、何かが叫んでいた。

***

敵の幹部はアジトの奥にいた。

九条は静かに歩を進める。拳銃の冷たい感触が、今夜の決断の重さを物語っていた。

「九条……」

敵の幹部——佐伯が、笑みを浮かべる。

「よくここまで来たな」

「お前のせいで、うちの本家が襲われた。……落とし前は、つけてもらうぜ」

九条は銃を構えた。

佐伯は余裕の表情で椅子に座ったまま、九条を見上げる。

「お前、本当に撃てるのか?」



「お前の背後にいる、あの俳優……名前は柊とか言ったか。お前、本当にあいつの前で人を撃てるのか?」

九条の指が、一瞬だけ引き金から離れた。

佐伯はそれを見逃さない。

「お前、変わったな」

「……」



佐伯はゆっくりと立ち上がった。

「そんな半端な気持ちで、この世界に居続けられると思うなよ?」

***

柊は、アジトの奥へと進む九条の背中を見つめていた。

九条はきっと、佐伯を殺すつもりだ。

——だが、それをしたら、九条はもう完全に“戻れなくなる”。

柊は決断した。

「……待ってくれ、九条さん」

九条が振り向く。

「……お前はここにいろと言ったはずだ」

「知るかよ」

柊は一歩、九条に近づく。

「アンタがこのまま撃ったら——もう、本当にこの世界から抜け出せなくなるんだぞ」

「……俺は、最初からそんなつもりは——」

「違う」

柊は九条の目をまっすぐに見つめた。

「アンタ、本当はこんなことしたくないんじゃないのか?」

九条の目が揺れる。

佐伯はその様子を見て、ニヤリと笑った。

「ほらな? もうお前は、前みたいには戻れない」

九条の拳が震える。

柊は、静かに九条の手に触れた。

「……撃たなくていい」

「……」

「アンタが“こっち”に来たいなら……俺が受け止める」

九条は、深く息をついた。

そして——

カチリ。

九条は銃を下ろし、安全装置を戻した。

「……佐伯」

「……ほう?」

「——俺は、もうお前らとは関係ねぇ」

「……!」

佐伯の顔色が変わる。

「お前、今何を言った?」

「聞こえなかったのか? 俺はもう、この世界を降りる」

「ふざけるな! そんなこと、許されるわけが——」

佐伯が叫ぶ。

——その瞬間。

「うちの若頭に手ぇ出すなよ」

低い声が響いた。

倉庫の入口に立っていたのは——辰巳会の組長だった。

「……辰巳のオヤジ」

九条が呟く。

辰巳会の組長は、静かに九条を見つめ、そして口を開いた。

「お前がこの世界を捨てるつもりなら……好きにしろ」

「……いいのか?」

「九条、お前には世話になった。俺は義理は欠かねえ」

辰巳はそう言うと、佐伯を睨みつけた。

「だが、そっちは話が別だ」

「……!」

「佐伯、お前には落とし前をつけてもらうぜ」

次の瞬間、辰巳の組員たちがなだれ込んだ。

銃声が響き、佐伯は地面に崩れ落ちた——。

***

アジトの外に出た九条は、夜空を見上げた。

「……終わったのか?」

柊が隣で呟く。

九条は小さく笑い、煙草に火をつけた。

「……いや、これからだ」

「そっか」

柊は九条の横顔を見つめた。

「これから、どうする?」

「……お前の言う“こっち側”ってやつに、行ってみるか」

「……!」

柊の目が大きく見開かれる。

「……マジで?」

「お前が責任取るんだろ?」

九条は、悪戯っぽく笑った。

柊も、思わず笑う。

「……もちろん」

九条は、最後に一度だけ、倉庫を振り返った。

(さよならだ)

そう、心の中で呟く。

そして——二人は、夜の街へと歩き出した。

光の射す方へと。





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Last updated  February 2, 2025 11:30:56 PM
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