2003.01.27
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昨晩は夜勤。
昨日は重症の患者さんが多い病室の受け持ちだった。
今一番状態が悪いのは90数歳のおば~ちゃん。腹水でパン
パンに腫れあがったお腹で、ふ~ふ~苦しそうにしている。
昨日の夕方、仕事に入って初めてこの人の部屋に行ったら
涙目で、悲しそうな顔をしていきなりこう言った。
「どうしてだんだん悪くなるの?良くならないの?」
それを聞いた時、この人は自分の死期が迫っている事を知
っているのだ。。と悟った。

一生懸命起きていて、一向に眠ろうとしない。眠れないと
それだけで体力を使ってしまう。それでなくてもツライ体
なのに。。
私が約束出来る事は“明日の朝になったら起してあげるか
ら眠って大丈夫だよ”という事くらい。
“うん。大丈夫?”と何回も聞き返す。“うん、起してあ
げるからね”ただの勘に過ぎないけど、今夜は大丈夫な気
がするのでそう答えた。うんうん、と頷いて、すぐに寝息
を立てだしたので部屋を出る。そのおば~ちゃんはナース
ステーションの一番近くの個室にいた。

草木も睡る丑三つ時。。。

とパッチリ目を開けておば~ちゃんが何か言っている。
「なぁに?どうしたの?」と聞くといきなり、
「歌を歌いたい」という。
「じゃあどうぞ、聞いてるから」と答えると、久しぶりに
見るようなスッキリした顔で歌を歌い出した。

切れではあったけど、これだけ体力が弱っているとは思え
ない大きな朗々とした声だった。
「謡いを26年もやってたんだよ」との事。
歌詞はあまり聞き取れず、途中“鶯”“桜(はな)”という
のが辛うじて聞き取れたので「春の歌だね」と言うと嬉し
そうに「山形の春の歌なんだよ。思い出の歌でね。まだま
だ続くンだよ」としっかり答えた。
三番を歌い終わったくらいで「疲れたからちょっと休む」
と。「じゃあまた今度続きを聞かせてね」と言うとちょっ
と笑って「いいよ」と答えて、すぐにうとうとし始めた。
ナースステーションにいた同僚さん達は何事か??と思っ
ていたようで、戻って経緯を話すと皆でしんみり。。
言葉には出さないけど、もう最期が近いんだろうなぁ。。
と思った。

朝起すとおば~ちゃんはきちんと起きたけど、日々苦しさ
が強くなっているらしい。。絶え間なく襲う吐き気に半分
以上泣き顔だった。そして数時間後、突然意識が落ち始め
た。心拍数が少し減ってきたけど血圧と呼吸は大丈夫。
ただもうほとんど声を掛けても返事はしない。
それでも時々意識が戻るようではあるが、確実に確実に死
に近づきつつある。。
そこで私の勤務時間は終了。またね~と部屋の入口から手
を振った時には目を開けて微かに頷いていた。

人間は強い、と思う。理屈では無く、そう思う。
他人の死に様を今まで沢山見てきたけど、毅然とした最期
を迎えられる人っていうのがまたにいる。
たいがいの人は足掻いて足掻いて、または苦しんで苦しん
で、あるいは眠るように夢見るように逝くのだが、時々と
ても凄い!と思える死に立ち会う事がある。
自分の最期は無様でも別に構わないけど、最期の最期にし
たくなる事って何だろう?そう思えるだけの事が自分には
残るだろうか?
昔、金沢の兼六園へ、一人で紅葉の盛りに行った事がある。
燃えあがるように鮮やかな、言葉では言い尽くせない程に
見事な風景の中で「人生の最後はこういう景色の中で迎え
たい。それが無理ならこの景色と空気を思い出したい」と
強く思ったのを鮮明に覚えている。
目を閉じて、しばし死を味わってみる。
最期に思い出せるのがこの光景であるように。。
全身の感覚でこの景色を記憶する。
全て失われてしまってもこの景色だけは永遠に美化されて
残るように。。。
今まで生きてきてそう思った景色は、この紅葉の兼六園と
満開の桜に彩られた飛鳥路の寺社、暑い盛りのお盆まった
だ中に京都の壬生寺で見た万灯会、ゆらゆらといくつもの
提灯を灯して飛騨高山の祭りの山車が夜闇の中を行くさま
。。。こんなに海外にも旅しているのに最期に思い出した
くなるほど美しい光景は、どれも日本のどこかの景色。。
記憶保持能力にかなり難アリなので、他人よりも早くどん
どん記憶は薄れていくけれど、どれかが最期に残ってくれ
ればいい。本当はツライ事、悲しい事ばかりを思い出しそ
うで怖いのだけど。。。
最期にどれだけ自分がシッカリしていられるかも分からな
いし。。

あの枕元の小さい電気が点いているだけのほの暗い病室で
聞いたおば~ちゃんの声が耳に残っている。
また明日、夜勤でここの受け持ちになるだろうけど、おば
~ちゃんは頑張っていてくれるのだろうか?
歌の続きは聞けるだろうか。。。?





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最終更新日  2003.01.27 14:17:09


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