星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/17
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それを自覚できるようになったことは、明るい回復の兆しだった。

時折点滅している留守番電話は同僚の明海からで、それはいつも遠慮がちな声だった。

ただ、そこに沁みこんだ思いやりは希望の灯火として、裕子の心をあたためた。

イギリス留学中の雄二から、インターネットを通じて知り合ったガールフレンドとの

ツーショットの写真が送られてきた。 そして新たな出会い方を、うやむやに想像しながら

時が経ったことを実感する。 



 その晩、秀明が希望退職に踏み切った同期の谷村の事を、ぼそぼそと話し始めた。

「今辞めれば退職金は3割増し。 中には5割増なんていう会社もあるらしい」

「谷村さん、次の仕事は? 未だ下の二人がこれから高校入学」

 秀明は熱燗をちびちび飲みながら小皿に残った肉じゃがをたいらげ、隣の春雨サラダを

つるつると食べ始めた。

「まずいな、これ・・・・・・」

(! 久々の会話がこれかよ! )

「何か、乾き物ない? 」

(乾いているのは私達でしょう! )

 裕子はハッチタイプのキッチンから、夫のぼそぼそを聞きながら水圧を上げた。

カウンター越しに、退職金破産やら、希望退職やら、不景気に呑まれそうな夫を

見ながら、溜まった食器を洗っていた。 

「はい! 乾き物」

 裕子は3つ1000円で買ったツマミを、しぶしぶテーブルに出した。

「思い切ったな、なんかスカッとしないけれど・・・・・・」

「私、思い切ってなんかいない。 確かにスカッ!としてなかったけれど」

「谷村のことだ。 あいつの選択は賢明だったのだろう」

(何? ああ、私のことじゃないのか)

 潔い選択がよかったのか、様子をみることがよかったのか、それは誰にもわからない。

ただ、裕子が仕事を離れて、夫まで退職では困ることは確かだ。

和光市にマンションを買って間もない。 ローンレンジャーの仲間入りになったわけだ。

ただ、そこは裕子の好きな大江戸線光が丘が最寄の駅になる不思議なポイントだった。

古き「大江戸」は新しい時代にモダンに響く。

変なこだわりと強引さが、たまたま秀明の多忙と重なり、殆ど裕子が進めた新居なのだ。

「なあ」

「ん? 」

「少し元気になったんだ。 身体を動かさないと体力が落ちるぞ」

「え? 私? 」

「他に誰がいる? 」

 仕事をはじめるには少しテンションが低い。 かといってこのまま白い箱の中にいるのは

どうにも不健康なのは確かだった。

 裕子は、手を止めて急に姿勢を正したかと思うと、早足で玄関に向かった。

「あった! 」

 バレーシューズを取り出した。 

「まずは、ここからだ。 それから仕事を見つけよう! 」

 仲間の支えと秀明の久々のヒット、そして時の経過は裕子の心の扉を僅かに開いてくれた。

「おーい! 水道、出しっぱなしだぞ! 水! 」


               次回 世代 11 ダンスサークル・デヴュー「新入り」

 撮影kitakitune05さん





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最終更新日  2007/01/17 02:16:14 PM コメント(8) | コメントを書く


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