星の髪飾り

星の髪飾り

2007/01/16
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そして平凡で温和な日々では見ることのできない景色が、そこにはきっと広がる。

時を共有してきた仲間達は、去っても尚、心の引き出しにそっとしまっておくのだ。

なぜなら、いつか鏡の中の自分がにこやかに微笑む時、注がれる光のシャワーの中に

仲間の笑顔も並ぶからだ。

瞬きほどの人生で、出会う縁の妙。 わずか1秒の誤差で出会えぬ縁の悪戯。

きっと生まれてくるずっと前、契りの深い人だったのだろう。 何かの形で約束を交わし

来世も何処かで姿を替えて会おう! と。


 文子から手紙が届いたのは梅雨入り間もない肌寒い朝だった。

ガラスを伝わって落ちていく雨の滴は、裕子の涙のように切なく冷たい。

モノトーンの空に太陽はない。 詠う光も温もりも与えずに、ただ由々しい傘の下を

傍観するばかりだった。 

窓ガラスの雨を拭った指で触れた文字、それは僅かに滲んでひろがる。

「 前略

  裕子さん、その後いかがですか?


通院日が減ったと聞きました。 まずは一安心。 もともと細い上に体調を崩して

さらにスリムになってしまったのでしょうか? 私の贅肉を移植してあげたい

 さて、こちらは灯火が消えたように寂しいオフィース。 裕子さんが有線放送のように

途切れる事なく、話したり笑わせたりしてくれていた。 

何より月一の会議の時、あなたの存在感を改めて知らされる。 

不安要素がうごめく中、パートの募集をかけて、社員に多くの研修をさせて、、そう! 

いつか裕子さんが漏らしたような動きがある。 報奨金も減った。

流石、古株の直感。 私達契約社員は、いつクビをきられるかわからない。

裕子さんはきっと良いときに辞めたんだと思う。 ありのまま書くね、裕子さんだから。

 昨年の会議の席で、裕子さんが『現場の声を聞いてほしい! 』って言った。 

私達は、話すほどに熱を帯びる裕子さんに一心に耳を傾けた。 

利益追求と顧客主義と、まああの時は突破口を開いた裕子さんの後、溜まっていたものを

皆が吐き出した形になった。

『私達って使い捨てですか!? 』 鮮やかだった。 

凄いミサイルを飛ばした事に、心でしか頷けなかった私達。 

情けない・・・・・・今も俯いて会議は一方的。

『 管理職の意識革命、中間管理職の理解 』  裕子さんが熱弁していた事、見果ての夢。

最近ね、みんな動き出した。 切られる前に辞めようって。



衰えることのない好奇心と、何でも吸収してみようというバイタリティー。

売上げや業績に躍起になるわけでなく、ひとりを大事にするからリピーターも多かった。 

 そんな裕子さんから学ぶものがあった。  

男子トイレに間違えて入ったり、色のないコーヒーを入れてきたり、マニュアル車から

オートマチックに変えた後の車のデコボコには驚かされたけれど。 楽しい人だ裕子さん。 



なんだか話しているように書いてしまったけれど、このまま封筒にいれてしまう。

身体を休めて、再び仕事に復帰される日を! 

 そして、活躍の場が違っても心は繋がっているから。 


                           文子
                                       」

 いつのまにかダイニングの椅子に腰掛けていた裕子は、雨の音を聞いた。

手紙を胸に抱きしめた。 新芽は空を目指して真っ直ぐ伸びるはずだった。

ところがその後、裕子は極度の不眠に襲われ、待っていたのは昼夜逆転の日々だった。

蔦が曲がりくねって、冷たい外壁を這っていく。 雨にうたれながら、多くの細胞の悲鳴を

聞きながら、闇にへばりついて離れない。

 かつて死産に繋がった仕事から、妻の裕子が去ったことで一度は表情を明るくした

秀明も、さすがに顔を歪ませていた。

 ベランダの観葉植物がしな垂れていた。 


            撮影 yuu yuuさん





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最終更新日  2007/01/19 09:45:11 AM コメント(10) | コメントを書く


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